2008年06月06日「官僚国家の崩壊」 中川秀直著 講談社 1785円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 死ぬほど忙しかった仕事も一山越えた。もう一山あんだけど、まずは休憩。これでなんとか好きな映画、シャンソンも楽しめるかも・・・と言いながら、明日は大阪で講演。
 貧乏暇無しとはよくいったもんですなあ。往復の新幹線で40冊くらい持ち込んじゃおうっと。


 さてと・・・正統派直球勝負の本ですな。
 安部さんや麻生さんが、どちらかというと首相狙いの理念的な話だったのに対して、これは日本改革のキモをストレートに突いた本ですな。

 たぶん、日経政治部記者から新自由クラブで初当選し、何回か当選、落選を繰り返す中、体験したこと、義憤にかられてたことを展開してますな。
 
 この人、官房長官の時だっけ、愛人問題で失脚しちゃいましたけど、意外と(?)まとも。言動を注目すると損得抜きに持論を堂々と述べてます。
 そういう意味では周囲の状況次第でころころ変わるカメレオン政治家とは一線をかくしてますな。

 官僚国家ねぇ。官僚が政治の世界に進出してきたのは、吉田茂さんの時だよね。
 「手駒が欲しい。いうとおりに動く手駒が・・・」
 彼の目標は日本の独立だったからね。自由党の党人派や社会党などの左がかった政治家では独立は無理。日本のためには若く政策も遂行できる官僚だ、と考えたわけね。
 なにしろ、彼自身、外務官僚だし。戦前、軍部に睨まれてたから、軍人は大嫌い。官僚のほうがまだ信頼できたんでしょう。

 けど、吉田さんはたくさん引き入れましたなあ。池田勇人、佐藤栄作もそうだよなあ。

 官僚たちに政治への道をつけたわけだけど、その後、田中角栄さんが官僚を手なずける頃から、彼らの「品格」はどんどん落ちていったと思うな。
 官僚という種族のエサは仕事なのよ。問題を出されると答えを出そう、出そう、とする習性が子供の頃からついてるわけ。ほとんどパブロフの犬だと思うよ。
 けど、田中さんはサービス精神旺盛だから、金品まで与えてしまった。偉大な総理だったと思うけど、官僚の質を落としたことでは第1級戦犯だな。

 著者が打破したいのは賞味期限切れとなった官僚制度ではなく、官僚の質の改革ね。

 彼らは省益を守るためにはなんでもする策士。著者が体験したことはたくさんあんだ。
 たとえば、村山富市内閣で首相補佐を務めた時。村山さんを囲んで官邸で食事してたら、役所から派遣されてる秘書官たちが同席させろと強引に言ってくるわけ。もちろん、それぞれの役所に逐一報告するためね。

 彼ら官僚秘書官は総理のためなんかではなくて、出身官庁のためにスパイしたり、洗脳したりするわけ。

 その弊害が典型的に出てるのが福田さん。この人、失敗したくない失敗したくない病なのね。だから、タイミングがいつも遅くなる。で、官僚から国民の目線とはちがう話ばかり聞かされるから判断を間違えちゃう。

 公務員改革法が突如。ホントに突如決まったのは、彼の官僚に対する意趣返しと考えていいと思うな。おめえら、息の根を止めてやるっつうね。
 ただでさえ短気な人間を怒らせちゃったんだな。こりゃ失敗。
 
 著者の体験でもう1つ。
 行政改革の一環として生活改良普及員を削減すべし、という計画があったのね。これに対して、自分たちの権益が冒されると判断した官僚がいったいどんな動きをしたか?
 票田の後援会組織とか献金してくれてる財界とかを使って、「センセイ、それはダメですよ」と陳情の形で意見具申させる。すると「そうか、国民は反対なのか」と勘違いしちゃうわけ。
 
 こういう絵を描かせたら天下一品。官僚の手際の良さとスピードには♪ビックラこいたぁ、ビックラこいたぁ♪

 自分は正面には絶対にたたない。迂回するわけね。まるで忍者。だから、ステルスとつけたんだ。

 いまやらなくちゃいけないことは、複雑に絡んだ面従腹背の「ステルス複合体=官僚に代表されるエリートカバナンス」に制度的に牛耳られている日本の「政治」を解きほぐすこと。
 国益と省益があれば必ず省益を優先するこの疑似圧力団体の暴走を制度的に削ぎ落とすこと・・・を考えてるわけ。

 そういう意味では、福田さんの「公務員制度改革基本法案」は著者が指摘するように100年に1回の大改革になるかもしれませんな。
 もち、面従腹背の彼らは虎視眈々と骨抜きを図るだろうけど、官僚の中にも清廉な改革派は何人かはいるでしょうよ。こういう国士たちと協力し合って日本を変えていかなくちゃ。

 なかなか骨のある憂国の書。300円高。