2018年05月15日米朝首脳会談は破談する!

カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」

 1日遅れで「有料サイト」に連載中の原稿を転載します。あちらは莫大な原稿料を頂戴してますんでね。あしからず・・・。

 先週の世界の動きを見ますと、米朝首脳会談のスケジュールと場所が決まったことだ、と日本人は考えますが、世界の圧倒的多数は「トランプのイラン核合意の離脱」と回答するでしょう。

 欧米にとって重要なのは「極東」ではなく「中東」だ、という意味だけでなく、トランプの頭の中にははなから「北朝鮮問題」はこれっぽっちもなく、あくまでも視野においているのは「中国による台湾併合」です。



 さて、5月8日にイラン核合意から離脱すると、トランプは発表しました。理由はなにか? イスラエルとサウジ、そしてトランプ(アメリカ)の利害が一致したからです。
 というのも、05年、イランの大統領をしていたアフマドネジャドは「イスラエルを地球上から消す」と公言し、事実、イスラエルとイランはいまも戦闘状態にあります(いまのところシリアを舞台にした局地戦ですが)。
 スンニ派の盟主たるサウジはシーア派の牙城たるイランとは骨肉あい憎む関係にあります。ユダヤのイスラエルとイスラムのサウジの敵の敵は味方という関係で、アメリカと実際上、「三国軍事同盟」という関係にあります。



元もと、イランとの6カ国核合意は前任のオバマが結んだものです。

 内容は、北朝鮮に要求している「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃絶(CVID=Complete,Verifiable,Irreversible,Dismantlement)」とは雲泥の差で、オバマがイランに要求したのは遠心分離機数やウラン濃縮の上限を設けただけで、スピードが遅れるけど核開発は再開可能というものでした。つまり、合意のための合意。もちろん、イランはオバマの意を汲んで核開発を進めていたはずです。

 イスラエルとサウジにとってこれでは困るわけです。「完全に検証可能で不可逆的な核廃絶にしろ!」とトランプに合意離脱を命じたのがホロコーストを宣言されたイスラエルなんです。トランプは、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転開設する記念式に娘イヴァンカ(ユダヤ教に改宗)と女婿クシュナー(ユダヤ教原理主義者)を出席させる、と公表した直後に「離脱宣言」をしたわけです。

 つまり、イスラエルへのダブルプレゼント。



 さて、離脱発言がマーケットにどんな影響を与えたでしょうか?

 円高ドル安にいったん振れたものの、結局は元通り。なんの影響もなかった、というのが現実。すでに離脱は織り込み済みでしたし、「アメリカが離脱してもほかの4カ国との合意を守り続ける」というイランのロウハニ大統領のメッセージでガチンコ戦争は避けられる、という解釈でしょう。

 もちろん戦争になれば儲かるのは「軍事産業」。ホルムズ海峡がきな臭くなれば原油価格だって高騰します。それらの銘柄が物色されたのは当然。相対的にウォルマートやヘルスケア、ディズニー等の生活産業は売られました。ただし、これも2、3日で調整となりました。







いま、世界のマーケットはトランプの発言と行動に振り回されています。そこにはファンダメンタルズとかテクニカル分析なども無力としか言いようがありません。
 しかし少し落ち着いて考えれば、トランプの政策は突然、突発、出たとこ勝負であるわけではなく、マニフェストを淡々と実行しているにすぎないことに気づくでしょう。

では、来月12日(予備日13日)にシンガポールで開催予定の「米朝首脳会談」をめぐってどうなるか、とくにマーケットはどう反応するかについて「予言」しておきましょう。

 結論から言えば、この会談は破談となる、と私は考えています。

 トランプの優先順位筆頭はなにか? 11月の中間選挙勝利です。勝たなければ再選は厳しくなりますからね。
 参考までに、日本のメディア報道を見ますと「民主党有利」というものばかりですが、アメリカのメディアは民主党支配下にありますから鵜呑みにすれば当然の帰結。日本のメディア住人はいつも自分の頭で考えないのが不思議です。

 多くの調査では共和党有利、トランプ支持率は50%超です。とくにネット調査ではそうなってます。

 では、金正恩の優先順位筆頭はなにか? 命乞いです。

 金王朝護持。いたずらに増やした100万超の兵士を喰わせる金がありません。一刻も早く支援が欲しい。制裁を解いて欲しい。覚醒剤、武器、売春など、ありとあらゆる「裏ビジネス」ができなくなりました。このままではクーデターが起きる、ということです。

 米朝首脳会談を懇願したのはトランプでも安倍さんでもなく、金正恩です。オバマのような合意のための合意をトランプがするはずありません。ノーベル平和賞受賞チャンス! たしかにそうですが、バラク・オバマですら受賞したインチキトロフィーなどもらってもトランプは嬉しくないでしょう。彼の性格ならば「そんなもんいらない!」と突き返すはずです。

 それより中間選挙に勝つことです。北朝鮮と中途半端な合意を結ぶわけにはいかないのです。

 では、どんな内容を金正恩に要求するかといえば、下記の項目です。

1完全で検証可能かつ不可逆的な核廃絶。
2アメリカ本土に届く長距離弾道弾(ICBM)の廃棄。のみならず、日韓に届く中短距離弾道弾の廃棄。
3拉致被害者の解放。

 金正恩にとっていちばん痛いのは3でしょうね。これは「戦後復興資金」をせしめるための人質なんですから。金づるを離したくないでしょう。当然、金正恩は拒絶したい。しかし拒絶したらトランプはその場で席を立ちます。

 追い込まれました。トランプはハードルを下げるどころか、どんどん上げてきます。これは日本サイドの希望的観測ではありません。「交渉」とはこういうものです。

 どちらがこの「チャンス」を活かしたいのか? 成果を得たいのか? トランプよりも圧倒的に後のない金正恩です。

 もし破談となっても元に戻るだけですから、トランプは困りません。それよりも破談にして金正恩をとことん追い込んだ方が「利幅」が増えるでしょう。アメリカでは拍手喝采です。

 西部劇を見るまでもなく、「ヤンキー」はそういうパーソナリティです。

 1回の交渉でなんとかまとめたい、長引かせたら終わりだ、と必死なのは金正恩です。

 まだ中間選挙には時間があります。なにも6月に決める必要はありません。もっともっと金正恩を追いつめればいいんです。丸裸にして放り出せばいいんです。なにしろ「命乞い」なんですから。

 大東亜戦争終結当時の日本がいまの北朝鮮と酷似しています。
 あのとき、日本政府のボトルネックは「国体護持」にありました。天皇制が護持されそうだ、となったのでポツダム宣言を受け容れたわけです。日本は丸裸になりました。しかし日本人の底力で蘇りました。

 さて、「破談」と予測する人がどれだけいるでしょう。日米中韓のマーケットでは、英国のEU離脱、トランプ当選と匹敵する「イベントリスク」になります。リスクオフで超円高ドル安。日経平均株価もダウも暴落。逆に金価格は暴騰。

 では、多くの方が予測(期待)しているように、もし首尾良く合意となった場合はどうでしょう? リスクオンで円安ドル高。日経平均株価もダウも高騰。一方、金価格は下落となるはずです。
 どちらにしても暴落あるいは高騰。だから、ボジションは「ロング・ストラドル」ではないか、と前回お話したのです。



 さてさて、米朝首脳会談について、日本のメディア報道の担当は「政治部」の記者たちです。
 政治部の記者というのは、一般的に文系出身者で理数系があまり得意でなく、かといって、経済に強いかというとこれも弱く(経済部でも似たようなものですが)、早い話が政治家にくっついてネタをとるしか能のない連中です。だから、構造的にセクハラ問題が起きやすいお仕事なのかもしれません。

 なにが言いたいかというと、「6月12日というスケジュールは日本にとって都合がいい。直前の6月8、9日はカナダでG7。この会合の総括として北朝鮮の核廃棄要求で一致した、と発表すれば効果的だ」などという、どうでもいい論調がメディアで垂れ流されているのです。

 私はこの日をあらかじめ用意して臨んだホワイトハウスのスタッフたちの深謀遠慮に感心しました。賢明なみなさんならこの日が何の日かご存じでしょう。
 そうです。FOMCがあります。しかもこの日の会議は「利上げ」です。
 利上げしたらどうなるか? 長期金利が上昇します。ダウは下がります。日経平均株価も下がるでしょう。そして長期金利と逆相関の金価格も下落します。

 もし米朝首脳会談で合意成立となったらどうでしょぅか? ダウも日経平均株価も高騰します。金価格は下落します。つまり、金価格は二重に下落する可能性が高いと思います。
 しかし、そうはならない。6月の米朝首脳会談は破談するからです(金正恩が命乞いだけでいい、オプションはなにもつけない、無条件廃絶でいい、と懇願すれば話は別です)。ダウも日経平均株価も大幅に下落。一方、金価格は暴騰・・・となるかもしれません。

 米朝首脳会談当日、トランプは日本海に空母と戦略爆撃機をずらり並べて交渉に臨むのではないでしょうか。「わしら交渉決裂でもええんやでー」という静かですが強烈なメッセージがこれです。

 金正恩は土俵際に追い込まれています。頼りの綱のプーチンは助けない、と通告しています。当たり前です。トランプと一緒に北朝鮮利権を山分けするんですから。四面楚歌の金正恩はしかたなく昔のご主人に頭を下げるしかなかったんです。

 しかし、このご主人もトランプに追い込まれています。

 国際政治は実におもしろいですね。映画になりますよ。「モリカケ問題」なんてつまらん芝居を嬉々として演じている野党のセンセ方の気がしれません。


 今日の「通勤快読」でご紹介する本は「コブのない駱駝 きたやまおさむ 心の軌跡 後編」(きたやまおさむ著・1,944円・岩波書店)です。