2018年04月08日桜の季節。人はなぜか狂いたがる。

カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」

 出雲から羽田空港に到着。朝から快晴。日本晴れ。気温はぐんぐん上がり、ほぼ初夏の装い。湿度がないからとってもいい。

 こういう日は、荷物をコインロッカーに放り込んで新宿御苑だわな。

 花の命は短くて。桜が愛されるのもそういうトコかも。パッと咲き、パッと散る。

♪万朶の桜か襟の色 花は吉野に嵐吹く♪


それにしても混んでるわなあ。ま、みなさん同じこと考えるわけでね、こういう季節は。


伊勢丹の地下で仕入れてきたんだろうね。家で唐揚げとか卵焼き用意してきました、というグループもたくさん。けど、御苑の中には茶店がたくさんありまして、美味しいのたくさん売ってますから、私のようにぶらっと入ってきました、つう横着な人間にはありがたいこってす。



「桜はね、散ったふりして咲き続けてるんだって。散ったように見せかけて、実はすぐ次の芽をつけて眠ってる。散ってなんかいないの。みんなを驚かせようと隠れてるだけ。そしてあったかい季節になったら、また一気に花開くの。サプラ〜イズって。」

 そんなこと言ってたなあ。『キミスイ』だっけ? キミスイ、キミスイ、キミスイ、キスミーケイトって。たしか『中島孝志の通勤快読』で紹介した覚えがあるなあ・・・。

 ありました、ありました。2015年7月31日に書いてますね。以下、転載しときまひょ。。。


 「君の膵臓を食べたい」
 「いきなりカニバリズムに目覚めたの?」
 「昨日テレビで見たんだぁ、昔の人はどこか悪いところがあると、他の動物のその部分を食べたんだって。だから私は、君の膵臓を食べたい」

 膵臓は、消化と、エネルギー生産の調整役。例えば糖をエネルギーに変えるためにインスリンを作ってます。もし膵臓がないと、人はエネルギーを得られなくて死にます。

 「残り少ない命を、図書室の片づけなんかに使っていいの?」
 「いいに決まってるじゃん」
 「決まってはないと思うよ。そりゃあ、初恋の人に会いに行くとか、外国でヒッチハイクをして最期の場所を決めるとか、やりたいことがあるんじゃないの」
 「『秘密を知ってるクラスメイト』くんにも、死ぬまでにやりたいことはあるでしょう?」
 「・・・なくはない、かな」
 「でも今、それをやってないじゃん。私も君も、もしかしたら明日死ぬかもしれないのにさ。そういう意味では私も君も変わんないよ、きっと。1日の価値は全部一緒なんだから、何をしたかの差なんかで私の今日の価値は変わらない。私は今日、楽しかったよ」

 彼女の提案通り、まずは都会に移動することにします。色々なお店が集まった巨大な駅に来ました。人間の量にまいっている様子もなく元気そのもの。

 「まずは焼肉!」
 「焼肉? まだ午前中だよ?」
 「昼と夜で肉の味が変わるの? この一番高い食べ放題コース2人で」

 「ギアラ、コブクロ、テッポウ、ハチノス、ミノ、ハツ、ネクタイ、コリコリ、フワ、センマイ、シビレ
 「コブクロ? え、CD?」
 んなわけありません。

 「ちなみに膵臓はシビレね」

 「私、火葬は嫌なんだよね」
 「なんだって?」
 「だから、火葬は嫌なの。死んだ後に焼かれるのはなぁ」
 「それ、焼肉食べながらする話? 肉を食べながら死体処理の話はやめにしよう」
 「膵臓は君が食べてもいいよ」
 「聞いてる?」
 「人に食べてもらうと魂がその人の中で生き続けるっていう信仰も外国にあるらしいよ」

 また彼女の提案でどうやら太宰府に泊まりがけで行くことになっしまいました。

 「一緒のベッドに寝るなんてドキドキするね」
 「バカじゃないの? 僕はこっち」
 「えー、せっかくいい部屋なんだから、ちゃんとベッドまで味わっとこうよ! すごーい! ジャグジーだぁ!」
 男は部屋同様に大きなテレビの電源をつけて、ザッピング。普段は見かけないローカル番組が多く流れていて、方言を前面に押し出してくる芸能人達の番組を放送してました。

 「方言って面白いよねー。食べたかろう、ってなんか昔の武士みたい。周辺で最先端の街なのに、方言は古いって不思議。方言の研究とか仕事にできたら楽しそう」
 「珍しく同意だね。僕も、大学に行ったらそういう勉強をしてもいいかなと思ってるくらい」
 「いいなぁ、私も大学とか行きたかったなぁ」

 「クラス内でヒナが一番だとして、見た目で私は何番目?」
 「・・・あくまで僕が思い出せる人間に限りだけど、三番」
 「自分で訊いておいてなんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしい!てか。『仲良し』くんが素直に答えるとは思わなかったから、余計に」
 「早く終わらせたいんだよ」

 「私が、本当は死ぬのがめちゃくちゃ怖いって言ったら、どうする?」
 この質問には、本音であったとして、どう答えればいいのか。冗談だったとして、どう答えればいいのか。

 結局、わからないままでした。



 「お前、なんで上靴捨ててんの? トイレのゴミ箱に捨ててあんじゃん」
 「そうか、ありがとう。なくして、困ってた」
 「山内とどっかいってたの? また噂なってるぜ」
 「駅でたまたま会ったんだ。それを誰かに見られたのかな」

 教えてくれたクラスメートはガムを噛みながら自分の席に戻っていった。

 今度は、別のクラスメート。温和で清潔感のある男の子。クラスの学級委員。彼はじっと黙っていた。

 「桜良はどうしてお前なんかと」

 ああ、なるほど。

 「僕と彼女は、君の想像しているような間柄ではないよ」
 「じゃあ一体なんだって言うんだ! 二人っきりで食事に行って、旅行に行って、今日はあの子の家に一人で遊びに来て、クラス中で噂になってる! お前が突然、桜良に付きまといだしたって」
 「とにかく、君や、クラスメイトが思っているような関係じゃないんだ」
 「お前みたいな協調性のない暗いだけの奴と!」

 そこに桜良が来ます。
 
 「何、してんの・・・?」
 その声に、彼は雷を打たれたように振り返った。
 「『ひどいクラスメイト』くん! 血が出てる!」

 「桜良・・どうしてそんな奴と・・・」
 「そんな奴って・・・何・・・『ひどいクラスメイト』くんのこと?」
 「もうちょっかいを出さないように、俺がやっつけてやったんだ」
 「・・・最低」

 桜良の顔を見て少なからず驚いた。彼女でも、こんな顔をするんだ。こんな、誰かを傷つけるためみたいな。

 「僕といるよりは、例えば彼のように君を本気で想っている人といた方がいい。僕らは、あの日に病院で偶然に出会ったに過ぎないんだから」
 「違うよ。偶然じゃない。私達は、皆、自分で選んでここに来たの。君と私がクラスで一緒だったのも、あの日病院にいたのも、偶然じゃない。運命なんかでもない。君が今までしてきた選択と、私が今までしてきた選択が、私達を合わせたの。私達は、自分の意思で出会ったんだよ」

 次の日、補修の授業を受けるために学校に行くと、上靴は消えていなかった。一時間目になっても彼女は学校に来なかった。次の時間も、次の時間も。放課後になっても、彼女の姿は見当たらなかった。

 彼女は、入院していた。再開したのは、その週の土曜日、病室でのことだ。 
 「『仲良し』」くん教えるの上手いなぁ、教師になりなよ」
 「どうして君は、そう人間と関わる仕事ばっかり提案してくるわけ?」
 「死ななかったら、本当は私がやりたかったことを代わりにやってもらおうとしてるのかも」

 −退院おめでとう。今、君のことを考えていたよ。
 −珍しく嬉しいことを言うじゃない! どうしたの、病気?
 −君と違って健康体だよ。
 −ひどい! 私を傷つけたね! 罰として私を褒めなさい!
 メールでこんなやりとり。

 (僕は、本当は君になりたかった。人を認められる人間に、人に認められる人間に。人を愛せる人間に、人に愛される人間に)
 (僕はどうかすれば君になれただろうか。僕はどうかすれば君になれるのだろうか)

 渾身の言葉を、彼女の携帯電話に向かって送信した。

 −ぼくは・・・。『君の膵臓を食べたい」

 彼女からの返信は、まるで来なかった。

 (ぼくは、悲しんでいる。悲しんでいるけれど、それがぼくを壊したりはしなかった。ぼく以上に悲しんでいる人がたくさんいるはずだ。これから会うご家族もそう、親友さんもそう、学級委員の彼もそうかもしれない。そう考えると、僕はどうしても悲しみを素直に受け止めることができなかった)

 「君、だったのね・・・よかった・・・よかった・・・来てくれて・・・本当によかった あの子が死んだら、とある人に渡してほしいって・・・。たった一人・・・あの子の病気のことを知ってる・・・『共病文庫』っていう名前を知ってる人が・・・いるからって・・・」

 横で、笑顔の彼女が、僕らを見ていた。

 「その人が・・・その人は・・・臆病だから・・・お葬式には来てくれないかもしれない、でも、絶対これを取りに来てくれるから・・・。それまでは・・・家族以外の誰にも見せないでって・・・はっきり、あの子の言葉、覚えてるわ・・・本当は、もっと先のことだった・・・」

 この日記がどういう内容なのか。それは小説をお読みください。

 (僕らの方向性が違うと、彼女がよく言った。当たり前だった。僕らは、同じ方向を見ていなかった。ずっと、お互いを見ていたんだ・・・)

 これ、映画になります。必ずね。

 ここまで転載しました。たしかに映画化されましたね。ダブル主演の浜辺美波さん、北村匠海さん、サイコーでしたね。そうだ、これからDVD観よっと。