2007年12月04日「北辰斜(ほくしんななめ)にさすところ」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
東京FMの試写会に行って参りました。映画名は『北辰斜(ほくしんななめ)にさすところ』。
ひと言で言うと、製作者のピュアな良心がじんわり伝わってくる映画ですな。
面白い映画や巧い映画、あるいは儲かる映画はあるけど、最近、こういうのないよねぇ。
タイトルが少しむずかしいようだけど、これ、旧制七高(鹿児島)の寮歌のタイトルなんですね。
えっ、そんなに古い映画? いやいや、現代の映画ですよ。けどね、主人公(三國連太郎さん)の心の中には忘れられない青春の光と影がたっぷり詰まってるわけ。
旧制高校なんて知らないでしょ? いまや、すっかりないもんね。
戦後、日本を統治するアメリカは、2度と日本が復活できないよう壊しに壊したシステムが3つあります。
1つは憲法でした。これは国づくりの基本です。「憲法9条」による日本軍解体です。
2つめは財閥の解体。財閥とは「選択と集中」を具現化したビジネススキームなのよ。軍隊に続いて日本の経済を徹底的に弱体化させる狙いです。
そして3つめが学制でした。
日本は資源も何もないアジアの小国ですけど、大国ロシア、中国にも勝ち、英蘭も蹴散らしているんです。アメリカにしても、八木アンテナの通信技術さえきちんと評価していればミッドウェー会戦で負けることはなかったのでは?
セオドアとフランクリンの2人のルーズベルト大統領は、日本という国がいるかぎり、環太平洋からユーラシアへの覇権を広げることは不可能だ、と考えていました。
そこで日本のリーダー教育を根元から叩き潰すために狙い打ちされたのが、「ノブレス・オブリージュ=真のエリート教育」を展開していた旧制高校です。これで一高(東大)、三高(京大)などのナンバースクールは昭和25年を最後に跡形もなく消えて無くなりました。
もし最後の卒業生が生きていれば、いま76〜78歳くらいになるんじゃないでしょうか。
高下駄に黒マントをなびかせ、頭には白線帽、腰には手ぬぐい。寮歌をがなって、一升瓶をかかえストームを囲む。まっ、蛮カラですわな。けど、英語、ドイツ語、フランス語、漢籍にいたるまで、猛烈な詰め込み教育で細胞の1つ1つにまで染み込ませましたね。
一方、人間教育の側面も忘れてはいませんでした。教授の薫陶、盛んなスポーツ、おおらかな世間の目・・・いずれも若者が人間としての骨を作るには重要なものばかり。あの夏目漱石が五高(熊本)と一高(東京)で英語教授をつとめていたことは有名です。
同時に、先輩後輩というさらに濃いぃ中で育まれる友情はいまでは想像もできないでしょうな。
旧制高校の卒業生が、ジジイになったいまも年1回必ず東京に集まっては弊衣破帽で寮歌祭に参加するのも、たんなる郷愁の念だけでは説明できない「なにか熱いもの」がありますよ。
主人公は七高野球部のエース(若き日の三國さんは俳優座の新人和田光司くんが演じます)。
戦争でかけがえのないチームメイトを次々に喪う中、「天才的なバカになれ!」と主人公に教えてくれた七高名物の先輩(緒形直人)と南方戦線で遭遇します。ただし、こちらは軍医、相手は傷病兵ですけどね。
戦況、日本に利あらず、いよいよ部隊は撤退しなければならなくなります。この恩ある先輩をも見捨てなければならない運命にさらされるんです。
「あまんさぁは生きろ。おいにかまわず・・・♪ほくしんななめにさすところ・・・」
「先輩、すみません!」
2006年11月3日は、明治から続く伝統の「七高−五高」の対抗野球試合。しかも、ちょうど100年目という記念すべきゲームです(これは事実!)。
学制変更でそれぞれ鹿児島大学、熊本大学と名前は変わってますけどね、幕末以来の因縁にも則って、毎年、「挑戦状」をたたきつけては「戦争」をする記念行事なんですな。鹿児島と熊本の県境にある川上哲治記念球場には全国からOBが駆け付けてきました。
「今日の試合はじいさん連中が主役やけん、うちらは怪我せんように適当にやろや」
「了解、了解」
ところが、試合が進んでいくとじいさん連中の応援がすさまじい。その熱気が現役の大学生の心を突き動かしていきます。
「前言撤回! 命がけでやるど!」
主人公の孫がマウンドに立っています。しかし、怪我が響いてもう投げられない。
その時、胸にZマークのユニフォームを着た若者がマウンドに静に歩み寄ります。
「あれは上田勝雄じゃなかと? 上田先輩の弟たい」
戦死した主人公の弟。兄よりもスピードボールを投げた七高のエース。見れば、ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト・・・そしてキャッチャーも、昭和19年のあのメンバーが守備位置についています。フィリピン・レイテ沖で死んだもの、南方戦線で行方がわからなくなったもの、ビルマで果てたもの・・・彼らはいまここで心の底から愉しんで白球を追っているのです。
わたしは♪戦争を知らない子供たちの1人です。戦争がチラッとでも出てくる映画、ドラマはすべてといっていいほど暗いものばかりですね。
けど、そんなことはない。どんなに暗い時代だって、若者がいて、青春があって、恋をしたり、喜んだり、笑ったり、友との語らい、親子のふれ合いはあったはずなんです。
そうか、これは「昭和19年のプレイボール」ともいうべき熱血青春映画なんだ、とわたしは見ました。
いまどきの日本で、じいさんと孫が連れ立って見に行くようなことはないでしょうが、若者には新鮮な感動が、リアルタイムで共感できる年輩の方には去りし日々への思いが、それぞれのメンタルスクリーンに浮かんでくるのではないでしょうか。
映画って目の前のスクリーンじゃなく、心のそれに投影されたものを観てるんですもんね。
今年、私は70本の映画を劇場で観ました。中でもとびっきりの超お勧め映画といってもいいでしょう。
監督は『ハチ公物語』『遠き落日』『大河の一滴』『草の乱』などで知られる神山征二郎さん。記念すべき25本目の作品です。
出演は三國連太郎、緒形直人、林隆三、佐々木愛、大西麻恵、神山繁、北村和夫、織本順吉、鈴木瑞穂、犬塚弘、滝田裕介、土屋嘉男、三遊亭歌之介、高橋長英、斉藤とも子、河原崎建三、永島敏行、坂上二郎・・・の各氏。ナレーターには山本圭さん。
実力派揃い。ある意味、日本演劇界の総力をあげた一作ともいえますな。
シネマスクエアとうきゅう(新宿)で12/22(土)から公開。初日は主演俳優と関係者の挨拶もあります。ぜひご覧下さい。
ひと言で言うと、製作者のピュアな良心がじんわり伝わってくる映画ですな。
面白い映画や巧い映画、あるいは儲かる映画はあるけど、最近、こういうのないよねぇ。
タイトルが少しむずかしいようだけど、これ、旧制七高(鹿児島)の寮歌のタイトルなんですね。
えっ、そんなに古い映画? いやいや、現代の映画ですよ。けどね、主人公(三國連太郎さん)の心の中には忘れられない青春の光と影がたっぷり詰まってるわけ。
旧制高校なんて知らないでしょ? いまや、すっかりないもんね。
戦後、日本を統治するアメリカは、2度と日本が復活できないよう壊しに壊したシステムが3つあります。
1つは憲法でした。これは国づくりの基本です。「憲法9条」による日本軍解体です。
2つめは財閥の解体。財閥とは「選択と集中」を具現化したビジネススキームなのよ。軍隊に続いて日本の経済を徹底的に弱体化させる狙いです。
そして3つめが学制でした。
日本は資源も何もないアジアの小国ですけど、大国ロシア、中国にも勝ち、英蘭も蹴散らしているんです。アメリカにしても、八木アンテナの通信技術さえきちんと評価していればミッドウェー会戦で負けることはなかったのでは?
セオドアとフランクリンの2人のルーズベルト大統領は、日本という国がいるかぎり、環太平洋からユーラシアへの覇権を広げることは不可能だ、と考えていました。
そこで日本のリーダー教育を根元から叩き潰すために狙い打ちされたのが、「ノブレス・オブリージュ=真のエリート教育」を展開していた旧制高校です。これで一高(東大)、三高(京大)などのナンバースクールは昭和25年を最後に跡形もなく消えて無くなりました。
もし最後の卒業生が生きていれば、いま76〜78歳くらいになるんじゃないでしょうか。
高下駄に黒マントをなびかせ、頭には白線帽、腰には手ぬぐい。寮歌をがなって、一升瓶をかかえストームを囲む。まっ、蛮カラですわな。けど、英語、ドイツ語、フランス語、漢籍にいたるまで、猛烈な詰め込み教育で細胞の1つ1つにまで染み込ませましたね。
一方、人間教育の側面も忘れてはいませんでした。教授の薫陶、盛んなスポーツ、おおらかな世間の目・・・いずれも若者が人間としての骨を作るには重要なものばかり。あの夏目漱石が五高(熊本)と一高(東京)で英語教授をつとめていたことは有名です。
同時に、先輩後輩というさらに濃いぃ中で育まれる友情はいまでは想像もできないでしょうな。
旧制高校の卒業生が、ジジイになったいまも年1回必ず東京に集まっては弊衣破帽で寮歌祭に参加するのも、たんなる郷愁の念だけでは説明できない「なにか熱いもの」がありますよ。
主人公は七高野球部のエース(若き日の三國さんは俳優座の新人和田光司くんが演じます)。
戦争でかけがえのないチームメイトを次々に喪う中、「天才的なバカになれ!」と主人公に教えてくれた七高名物の先輩(緒形直人)と南方戦線で遭遇します。ただし、こちらは軍医、相手は傷病兵ですけどね。
戦況、日本に利あらず、いよいよ部隊は撤退しなければならなくなります。この恩ある先輩をも見捨てなければならない運命にさらされるんです。
「あまんさぁは生きろ。おいにかまわず・・・♪ほくしんななめにさすところ・・・」
「先輩、すみません!」
2006年11月3日は、明治から続く伝統の「七高−五高」の対抗野球試合。しかも、ちょうど100年目という記念すべきゲームです(これは事実!)。
学制変更でそれぞれ鹿児島大学、熊本大学と名前は変わってますけどね、幕末以来の因縁にも則って、毎年、「挑戦状」をたたきつけては「戦争」をする記念行事なんですな。鹿児島と熊本の県境にある川上哲治記念球場には全国からOBが駆け付けてきました。
「今日の試合はじいさん連中が主役やけん、うちらは怪我せんように適当にやろや」
「了解、了解」
ところが、試合が進んでいくとじいさん連中の応援がすさまじい。その熱気が現役の大学生の心を突き動かしていきます。
「前言撤回! 命がけでやるど!」
主人公の孫がマウンドに立っています。しかし、怪我が響いてもう投げられない。
その時、胸にZマークのユニフォームを着た若者がマウンドに静に歩み寄ります。
「あれは上田勝雄じゃなかと? 上田先輩の弟たい」
戦死した主人公の弟。兄よりもスピードボールを投げた七高のエース。見れば、ファースト、セカンド、サード、ショート、レフト・・・そしてキャッチャーも、昭和19年のあのメンバーが守備位置についています。フィリピン・レイテ沖で死んだもの、南方戦線で行方がわからなくなったもの、ビルマで果てたもの・・・彼らはいまここで心の底から愉しんで白球を追っているのです。
わたしは♪戦争を知らない子供たちの1人です。戦争がチラッとでも出てくる映画、ドラマはすべてといっていいほど暗いものばかりですね。
けど、そんなことはない。どんなに暗い時代だって、若者がいて、青春があって、恋をしたり、喜んだり、笑ったり、友との語らい、親子のふれ合いはあったはずなんです。
そうか、これは「昭和19年のプレイボール」ともいうべき熱血青春映画なんだ、とわたしは見ました。
いまどきの日本で、じいさんと孫が連れ立って見に行くようなことはないでしょうが、若者には新鮮な感動が、リアルタイムで共感できる年輩の方には去りし日々への思いが、それぞれのメンタルスクリーンに浮かんでくるのではないでしょうか。
映画って目の前のスクリーンじゃなく、心のそれに投影されたものを観てるんですもんね。
今年、私は70本の映画を劇場で観ました。中でもとびっきりの超お勧め映画といってもいいでしょう。
監督は『ハチ公物語』『遠き落日』『大河の一滴』『草の乱』などで知られる神山征二郎さん。記念すべき25本目の作品です。
出演は三國連太郎、緒形直人、林隆三、佐々木愛、大西麻恵、神山繁、北村和夫、織本順吉、鈴木瑞穂、犬塚弘、滝田裕介、土屋嘉男、三遊亭歌之介、高橋長英、斉藤とも子、河原崎建三、永島敏行、坂上二郎・・・の各氏。ナレーターには山本圭さん。
実力派揃い。ある意味、日本演劇界の総力をあげた一作ともいえますな。
シネマスクエアとうきゅう(新宿)で12/22(土)から公開。初日は主演俳優と関係者の挨拶もあります。ぜひご覧下さい。