2003年04月28日「ノーベル賞受賞者にきく 子どものなぜ?なに?」「バカの壁」「平成ジャングル探検」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「ノーベル賞受賞者にきく 子どものなぜ?なに?」
 B・シュティーケル篇 主婦の友社 1600円

 わたし、昨年末に『疑問力』という本を出したことがあります。また、一昨年、去年と『質問力』に関する本を二冊出しました(最近、大前研一さんや斉藤孝さんなども追随してますが)。
 この本はまさに、この疑問と質問に関する名著だ、と思います。というのも、子どもが疑問に思う、好奇心を持つ、そして質問する。それに対していい加減に対応せず、ノーベル賞を受賞した科学者たちが真摯に答えているからです。

 たとえば、「どうしてプリンは柔らかいのに、石は硬いの?」
 「どうして貧しい人とお金持ちの人がいるの?」
 「どうして、フライドポテトばっかり食べてちゃいけないの?」
 「愛情って何?」
 「戦争はどうして起こるの?」
 「1+1はどうして2なの?」
 まだまだありますが、こういう質問て、いいですね。
 たしか、アインシュタインだったと思うけど、「1人の賢人の解答よりも100人の愚者の質問に真理がある」と言ってました。
 一見、くだらない疑問や質問。実はそれを突き詰めて考えると、とことん、ものすごく難しいということがわかったりする。ここが面白いんですね。

 だれかが質問すると、その場に動きが生じます。質問は生活を動かすエンジンなんですね。
 たとえば、1人が質問すると、もう1人がその答えを懸命に探し出します。そして、いろんなことを思いつく。ここに進歩があるんです。

 ところで、ノーベル賞はご存じの通り、ダイナマイトの発明者であるスウェーデン人、アルフレッド・ベルンハルト・ノーベルの遺志で作られたものですね。当初、物理学、化学、生理学・医学、そして文学、平和の5つでした。68年、スウェーデン国立銀行が創設300周年を記念して、経済学が加えられました。
 物理、化学、経済学の各賞はスウェーデン科学アカデミー、生理学・医学賞はカロリン医学研究所、そして平和賞はノルウェー議会が選ぶんですね。

 「政治って何?」という質問がありました。回答者はシモン・ペレスというイスラエルのノーベル平和賞受章者です。
 この中で興味深いことを発言しています。

 「国連という組織には、地球上のほとんどの国が集まっています。そう聞くと、すばらしいことのように思えますが、よく見てみますと、国連の中で会っているのは、貧しい国々の代表同士です。では、豊かな国々の代表は何をしているのでしょうか? 彼らは豊かな国同士、別の場所で集まっているのです。たとえば、タボス(スイス)などで、世界経済フォーラム、という会議を開いているのです。
 アナン国連事務総長を世界の大統領だ、と考えている人は1人もいないでしょう。彼は世界中の貧しい国々の大統領であり、苦しんでいる国々の大統領ではあっても、豊かな国々の大統領では絶対にありません。残念ながら、それが現実なのです。
 現在の世界の動きを決めているのは、経済です。大きなコンツェルンの決定が世界の動きを決めているのです。国連で決めることはできないのです」

 さぁ、どうでしょう。まさに、今回のアメリカとイラクの戦争を示しているではありませんか。
 わたしから言わせれば、先進国という象の軍団が、その他の貧しい国々が集まる小さな池の中に躍り込んでいるようなものです。
 「だが、いくら政治の力が弱くなろうとも、政治を見捨てて良いわけではありません」と述べています。

 いま、日本は北朝鮮との間にあるたくさんの問題を解決するために、アメリカ、中国に全権を委ねているようなものです。
 中国など、毛沢東率いる共産軍が、1959年、チベット侵略で何万人という無抵抗の人間を殺戮してきました。
 軍事力がない国は、最後の最後は惨めですな。
 日本人はダライ・ラマ十四世にもなれず、ガンジーにはほど遠く、しょせん、町人なんでしょうかねぇ。
 町人はいつも泣き寝入りするしかないんでしょうか。本物の町人ならば、権謀術数を駆使して、侍を手玉に取ることもできるでしょうが、性根の座らない与太郎では、それもかないませんな。
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2 「バカの壁」
 養老孟司著 新潮社 680円

 著者は解剖学の先生です。元東大教授、いまどっかの先生をしてると思います。
 わたしも著者が東大の先生をしてた時、研究室でインタビューさせてもらったことがあります。たしか、自宅が鎌倉だったと思いますね。
 医学部は出たけれど、卒業以来、相手にしてるのがすべて死人という先生ですね。
 「今日はご遺体が出るな」
 なんとなく勘でわかるそうですよ。
 まっ、そんな話はこの辺でやめといて・・・。

 バカの壁。わかりますな。どんなに論理的に話を進めたところで、ある点から先がどうしても進まない。平行線をたどる。わからないのは1人だけ。けど、頑迷固陋で、自分の非を認めない。
 北朝鮮みたいな人間(彼らにしてみれば、日本人みたいな人間)。
 いますねぇ、たしかに。

 このバカの壁にぶち当たったとき、1人、カアーッと熱くなってはいけません。
 なにしろ、相手はバカなんですから。壁なんですから、これは力で押し倒すか、迂回して回るか、ハードルを越えるようにまたぐしかありません。
 「話せばわかる」なんて、大嘘なんです。

 「話してもわからない」ということを著者は痛感したことがあります。
 イギリスのBBC放送が、ある夫婦の妊娠から出産までを詳細に追ったドキュメントを作った。これを北里大学薬学部の学生に見せた。
 薬学部は女子6割、男子4割。
 で、男子の感想が、「こんなことは、既に保健の授業で知ってることばかりだ」。ところが、女子は「大変勉強になりました。新しい発見がたくさんありました」との評価。それ以外にもことごとく対照的な反応だったそうです。
 これはどちらかが「バカ」だ、ということではありません。偏差値は似たようなものでしょう。

 よって立つスタンスというか、情報に対する姿勢の問題なんですね。

 要するに、男子は逆立ちしたって、出産という実感を持てるわけがない。だから、積極的に発見しようという気はない。つまり、自主的に情報を遮断してしまってるわけです。
 これは「バカの壁」の一種ですね。
 一方、女子はディテールまで見て、「新しい発見がある」と言う。

 脳もある意味で、出入力装置ですからね。
 たとえば、脳の中には係数があります。入力をyとし、出力をxとすると、何らかの入力情報にaという係数をかけて出てきた反応がyとなります。
 一次方程式にすれば、y=axとなりますね。

 このaという係数は何かというと、「現実の重み」です。 具体的に言えば、この出産ビデオを見たときの男子ですね。
 a=0(あるいは、限りなく0に近い数値)。だから、結果として何の反応も示さなかったわけです。
 この方程式は、たとえば、アラブとイスラエルの間でも当てはまります。
 イスラエルの主張に対して、アラブは係数が0、アラブの主張に対してイスラエルも0。早い話が、「あんた方が言ってることは現実的じゃない」という結果になります。
 親父の説教を聞かない子供もそうですね。
 もちろん、アメリカとフセインもそうでしょうし、日本と北朝鮮もこの構図です。

 0があれば、その逆もあります。
 無限大ですね。代表的な例では、「原理主義」というやつがそうです。
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3 「平成ジャングル探検」
 鹿島茂著 講談社 1700円

 こういう本、大好きなんです。
 なにしろ、帯に「新橋、歌舞伎町、渋谷、錦糸町、大塚、吉祥寺・・・エロスと混沌の秘境を求めて」なんてあるんですよ。しかも、その上に小さく「高級クラブからデリヘル、韓国エステまで」だって・・・もう早くページを開きたいのはわたしだけではないでしょう。
 ただ、わたしの場合、あくまでも社会学的なアプローチとして勉強したいわけで・・。雑学というか、ルポというか、こういう探検を疑似体験できるというところで、もう満足なんです。

 さて、中身は。

 なにしろ、道案内というか、探検隊の隊長が女子大の先生だから、突撃取材はできません。そこが平口さんやなめだるまの親方、あるいは山本晋也監督とちょっと違うんですよね。
 やっぱり、これはとことん突撃するタイプじゃないと、面白くないよね。
 だけど、各地の風俗、いわれ、歴史などは勉強できます。けどねぇ・・。

 最初が新橋。しかも、あのニュー新橋ビルからスタート。いいところに目をつけてます。
 ここは行ったことがある人はわかるけど、新橋駅前の好立地のビルで、なんというか、勝手気ままというか、フリーダムというか、何でもありというか、一階は金券ショップが乱立し、地下は食べ物屋にゲーム屋、二階以上は風俗店もあれば、マッサージや雀荘、歯科もあれば、なんでもあるんですよね。
 どうして、こうビルのテイストが雑然としているかというと、終戦直後の闇市からの歴史を話さないと進みません(まっ、それは本文を読んで)。
 で、結論としてはビルの中にオーナーがたくさんいるわけですよ。で、契約上、似たような店が出てきても管理組合としては拒絶できないようになってるわけです。だから、金券ショップが当たれば、そんな店ばかりが乱立するというわけです。
 よく言えば、流行を見るのにはいいビルですね。定点観測にはもってこいですもの。

 あと、歌舞伎町がラス前、オーラスは上野です。もちろん、大久保、浅草もあります。

 でも、やっぱり、突撃取材のほうがいいな。ここは女子大の先生という立場ではあまり無茶もできないでしょうから、次は不詳、このわたくしが出張ろうかといま、考えておりますです、ハイ。

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