2007年06月11日「虚構」 宮内亮治著 講談社 1575円 

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 著者は元ライブドアの役員。月15000円の顧問税理士から役員となり、挙げ句、ホリエモンとともに逮捕されてしまった人ですね。

 正直で、誠実な本だと思います。取りも直さず、著者の性格が反映されているからでしょうな。

「ホリエモンを陰で動かしていた人物」
「逮捕された3人は業務上横領、背任をしていた」
 これは検察と戦うホリエモン側が防御のために作り上げたい著者のイメージ。実は、ほど遠い人間ですな。

 ライドドア事件の構図は、傍観するところ、駄菓子屋の前で駄々をこねてる子どもがいて、「食べさせたら太る」とわかっていても、欲しがる気持ちもわかるし買うお金もある。「太るかも」とわかっていたけど、「後で運動させればいいや」と買わせてしまった・・・という感じでしょうか?

 「ライブドアに私がいなければ、このようなことにはならなかったはずだ」(公判時の著者の陳述)

 著者とホリエモンとの出会いは1996年2月。ホリエモン23歳、著者28歳の時。 場所は関内の横浜スタジアム前。
 「まさかコイツじゃないよな」
 ジーパン、Tシャツにジャンパー。髪は長く・・・似合っていない。中華街に誘うと、「あれとこれとこれ」。勝手にテキパキ決めて食うだけ食い、さっさと帰る。生意気。

 でも、嫌な感じは持たなかった。大言壮語の主に、役人やサラリーマンにはけっしてない「夢」を感じたからだ。

 前夜どんなに遅くなっても会議にしゃんと参加し、数字に厳しく執拗なホリエモンが変わったのは、2005年4月以降だ。

 ニッポン放送買収を断念。見返りに、1340億円ものキャッシュを手に入れた。若干の持ち株を売却して140億円の現金を得てから。つまり、「きっかけはカネ」。
 群がる女優や女子アナ(やはり中身が透けて見えますな)と派手に遊ぶ日々。30億円で自家用ジェットまで購入。以来、会議にも遅れたり、はしょったりするようになった。

 スポットライトを浴びる快感が忘れられないのか、マスコミへのサービス精神が旺盛なのか、その後も衆院選への出馬、歌手デビュー、宇宙ビジネス等、話題を提供することには事欠かなかった。

 ますます芸能人化していくホリエモン。けど、ライブドア側としても、ホリエモンの露出が増えれば増えるほどポータルサイトとしてのページビューが急増するため、この時期から内部は著者が、ホリエモンは広告塔としての存在という役割分担が鮮明になりつつあったわけ。

 私がホリエモンというか、ライブドアの名前を聞いたのは、近鉄バファローズの買収に名乗りを上げた時だもんね。それまではな〜にも知りませんでした。

 元々、著者は近鉄チームなど買うつもりはさらさらなく、たんなる売名行為が目的で、どこかで手じまうつもりだったらしい。けど、そこに後出しじゃんけんで楽天が買収表明をしたでしょ。負けん気の強いホリエモンがここからがらりと変わるのね。

 幸い、ライブドアは「敗北」したから良かったわけでね。
 ファンには悪いけど、日本のプロ野球はもうダメでしょ。いい選手はメジャーを向いてるしね。「ストロー効果」はここにも現れてますよ。

 さて、ライブドア事件は、2004年9月期決算における利益操作を粉飾として、東京地検特捜部が立件したものなのね。
 これ、完全なる国策捜査だと思うな。経済界の秩序をかき乱す暴れん坊(ライブドア)に対するレッドカード。
 もし、これがライブドア=ホリエモンでなかったら強制捜査ではなく、有価証券報告書の訂正だけで済んだかもしれない。
 同じように、村上ファンドもインサイダー取引と認定された上での逮捕ではなく、証券取引委員会が調べ、金融庁長官が命じる課徴金で済んだかもしれません。

 先に述べたように、芸能人化するホリエモンを見て、これは自分で舵を取るしかないな、と著者が覚悟を決めたのはニッポン放送買収断念後のこと。
 ということは、2005年4月以降なの。2004年9月度の決算は著者主導のものではさらさらないのよね。

 「ニッポン放送を買わないか」という提案は、ご存じの通り、村上さんね。
 彼は優秀なファンドマネジャーで、リターンをどれだけ大きくするかを最優先に考える人。つまり、高値で株が売り抜けることしか念頭にないわけ。
 こういう人物をニッポン放送買収の味方だと考えて、M&Aについて基本的な質問を繰り返すホリエモンは、足下を見られるばかりか、足下を掬われるのは当たり前だよ。

 村上ファンドの持ち株分があるから過半数を押さえた、という自信があったのに、最後の最後になって、「ボク、ファンドマネジャーだから(いま高値なんで)売らせてもらいます」と勝手に売却されたらライブドアとしては天を仰ぐしかないよね。しかも、著者が完全に冷めたのは、この村上さんの申し出にホリエモンがOKしたこと。
 いったいなにを考えているかの、というわけですよ。たしかにね。

 村上さんとしては、ファンドマネジャーとして当然のことをしたわけ。「こんなこともあり得る」と考えておかなかったライブドア、ホリエモンの油断なのよ。
 金融という世界に裏切りは付き物だもの。古今東西、シャイロックの世界なんだから。

 参考までに、金融の仕事は年収も高いし、エリートが集う分野ではあるけれど、あのアメリカでもけっして一流の仕事とは認識されてませんよ。つまり、敬意を表されている仕事ではないの。
 しょせん、金貸しなんだ。金貸しとつきあうには、それなりのリスクを考えないといけないわけ。

 著者が描いていたライブドアの近接未来は、不動産のダイナシティは著者が経営し、セシールとジャック・ホールディングス(現カーチス)の経営はそれぞれ逮捕された2人が当たり、ライブドア本体とファイナンス部門はこれまた逮捕された1人が当たる。
 そうすれば、芸能人化したホリエモンの影響を受けることなくまとな経営ができる、というもの。

 たしかに、点が集まって面になることでなんとか事業体として成立していたライブドアだけどと、彼らが一斉に逮捕された後、「大人の経営者」が舵取りを担当するわけだけど、これらをすべて売却しちゃいました。
 皮肉なものですなぁ。けど、あと数年も経てば、著者のデザインが正解だったかどうか、白黒ははっきりするでしょうね。250円高。