2007年09月14日「企みの仕事術」 阿久悠著 ロングセラーズ 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 実は、阿久悠さんの本はかなり読んでるのよ。昔から。
別に「瀬戸内少年野球団」のファンだからというわけではないのね。
このサイトでもそこそこ紹介してきたと思うよ。

 なぜ、彼に惹かれるかというと、なんかねぇ、仕事的に似てるのよ。共感するというより、同じ方向で仕事をしてるという感覚があんのね。

 理由?

 ご存じの通り、彼は「スター誕生」で10年間審査員を務めました。で、1つの歌の作詞だけに留まらず、見せ方、売り方、展開のしかた・・・つまり、プロデュースを請け負ってるからね。ここが似てるんだなぁ。
 だから、共感すんの。

 私も自分の本より他人のプロデュースのほうが圧倒的に多いわけ。で、やっぱ、1冊の本だけまとめりゃいいってわけにはいかないのね。
 少なくとも、その会社なり著者(経営者とかね)が世の中に出るようにシナリオを描くわけ。

 まず1冊目はこれ、2冊目はこれ、3冊目はこれというように、最初の段階で3冊分の企画を考えちゃうわけね。で、こういう方向でヒジネスを展開しようって、マーケティング的視点で方法論、スケジュール、予算等もすべて考えちゃう。

 これ、プロデュースなのね。

 もち、テレビ番組とのタイアップとか、情報番組、ニュース番組へのタイムリーな情報提供とか、とにかく、展開チャンスを仕掛けるわけ。
 似てるんだなぁ、こういう仕事のスタイル。

 ヒットメーカーの阿久さんの秘密というか、コツは「予感にアンテナを張る」ということに尽きるかな。
 たとえば、キーワード(流行語)でもみんなが使い出したら遅いのよ。
 だれか鋭い人間が違う分野で使い出す。「それ、面白い!」と思ったら、それを違う土俵で売り出すことを考える。これ、切り口を変えるっちゅうことでしょ。
 で、こんな切り口のネタを100本くらい用意するわけ。

 それがピンクレディの一連のヒット作とか「雨の慕情」「また逢う日まで」等につながるわけ。

 ピンクレディなんか、元々、「白い風船」ちゅうフォークデュオでデビューさせようって話がビクターからあったんだよ。これに頑強に反対したのが阿久さんなのね。
 たしかにスタ誕に出場したときは、フォークギター抱えて冴えないサロペット着た田舎モンだったけど、いきらなんでも、このスタイルじゃ売れねぇよ、と思ったわけ(でも、清水由貴子はこのフォーク・スタイルでデビューしてたな)。
 
 でもね、こんな阿久さんでも、「オレ、作詞やめようかな」と思ったことがあんの。
 1975年のことね。アイドル売り出しでピークを迎えてる頃かもしれない。
 けどさ、この2曲が出たときにはうちひしがれたみたい。つまり・・・これはオレが書く詩ではなかったかという自問自答つうか自虐つうか。悔悟つうか、発奮つうか。

 その1つは「シクラメンのかほり」よ。

♪真綿色した シクラメンほど
 すがしいものはない 

 出逢いの時の きみのようです
 ためらいがちに かけた言葉に

 驚いたように 振り向くきみに
 季節が頬を染めて 過ぎていきました♪

 言葉を紡ぐだけで1つの映画ができましたね。この広がりに圧倒されたんだと思う。
 これ、オレが作るべき詩ではなかったか・・・。ショックだったと思うよ。

 もう1つは「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」。

♪ハマから流れて 来た娘だね
 ジルバがとっても うまくってよォ
 三月前まではいたはずさ

 ちいさな子猫を拾った晩に
 子猫と一緒にトンズラよ

 あんた、あの娘のなんなのさ!♪
 
 このオシャレな詩。全篇、台詞。しかも、1人語り。けど、ストーリーが動き始めるでしょ。
 ああ、これ、オレが書くべき詩だった・・・わかる気がするな。300円高。