2007年11月25日「影の車」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 ふ〜ん、「点と線」ねぇ。まっ、松本清張の名作ですわな。
 芥川賞を受賞し、推理小説へと入っていく彼のターニングポイントともなった作品ですな。
 高校時代、図書館で借りて読んだことがある。

 あの頃のボクは、他人と口をきくのも億劫で「人間嫌い」を気取っていた。暇さえあれば図書館にこもってた。今風にいえば、たんなる「引きこもり」なんだけど。

「われ高利貸しにになりえざりし弁明」とか「二十歳のエチュード」とか、虚無主義の本ばかり読んでた。で、「愛と死を見つめて」みたいな臭い本ははなから無視してた。まさか十数年後に、その著者と会うことになるとは想像だにしてなかった。

 まっ、高校生というのはそんなものにかぶれる時期なのかもしれませんな。

「点と線」かぁ。テレ朝得意のリメイク。これ、定番になっちゃたようですな。「生きる」「天国と地獄」の黒澤明シリーズに続く第2弾松本清張シリーズということですな。

「砂の器」は別格として、というより、あれは橋本忍の脚本が傑作なんであって、小説自体はSF小説の域を出てません。映画を観た人なら、後半、欠伸が出てくると思う。 

「ゼロの焦点」「黒い画集(3部作なんだけどね。ビデオ持ってるよん)」「波の塔」「わるいやつら」「球形の荒野」「けものみち(NHKのがよかったな。名取裕子主演ね)」「空の城(NHKの「ザ・商社」の原作ね。安宅産業倒産の舞台裏を描いた傑作)」「黒革の手帖(テレ朝のヒット作)」「彩り河(好きだなあ、この映画)」「迷走地図」・・・といろいろ読んでは見てきたけど、やっぱ、これでしょ、ベストは!(セカンドベストは「張込み」)


岩下志麻さんが最高! 艶っぽいねぇ。

 なにがいいか。心理描写が怖いんだよ。勝手に怖がって勝手に事件を起こし、勝手に滅んでいく男の物語なんだ。

 なに不自由ない・・・という環境は、ある意味、退屈きわまりないことかもしれませんね。5年後、10年後、下手すると死ぬ直前まで、なにを食べて、どんな会話をしてるかまで見通せたりしてさ。
 
 もし、こんな環境に「変化」があったとしたら、飛びつきたくなるんじゃないかな。
 人はそれを「魔が差した」と表現するかもしれないけど、実は潜在意識は変化を求めてたわけ。「変える」ということが最大のモチベーションなのね。

 舞台は1970年。バスと電車で東京のオフィスに通う男(加藤剛)。面白いことに、日本旅行の営業所に勤めてるの。ホントにある会社、使っちゃっていいのかねぇ。
 バスの中で、幼馴染み(岩下志麻)にばったり。
「奇遇だね。何年もこのバス使ってるんだけど」
「ホント」
 女は東京生命の外務員(これもいいのかね。ホントにある会社だもん)。息子が1人。亭主はすでに亡くなってる。
 男の生活に変化が生まれる。女は自宅に誘う。男も女とバスで出会うことを待ちわびる・・・こうなりゃ、男女の関係になるのは時間の問題だよね? だよね?

 男には妻(小川真由美)がいるんだよ。団地で華道を指導してるの。いまなら、フラワーアレンジメントてことになるんだろうな。
 日曜も生徒の奥さんたちでいっぱい。噂好きで賑やか。つうかうるさい。「ちょっと出てくる」。自然と男は女に家に通うわけ。バスで1つの停留所という近さだもの。
 
 男と女は2人して愛欲の世界にどっぷり溺れちゃう。底なしの快楽の虜(正直、ちと羨ましい!)。

 男は女の息子を手なずけたいんだけど、心の底を見透かされているようで、時々、怖さを感じるわけ。この心理が勝手に事件を引き起こしていきます。

「相手は6歳の子どもだよ!殺意なんかあるか!おまえの妄想だよ」
「あります!6歳でもあるんです!」

 刑事に取り調べられた時、男はこういって抗弁するわけ。その理由はどこにあるか?
 実はこの男。幼少期、女の息子とまったく同じ状況にあったんだよ。そして・・・というお話。