2007年12月01日「張込み」

カテゴリー中島孝志の不良映画日記」

 松本清張といえば、私の場合、これと「霧の旗」なんです。
 なんというか、人間の心が場面場面でくるくる変わる。その心理変化、心理描写に好奇心があるんですね。

 人間は環境の産物です。素質だけでなく、条件が大きな影響を与えます。
 殺人事件にしたところで同じですね。虫も殺さない人でも殺意を覚え、そして実行に移してしまうこともあります。癌で苦しむ妻のもとに何度も借金の無心にやってくる姉。死後、借用証がぞろぞろ出てきたとしたら、身内としては切れて当たり前。殺意を覚えて当たり前・・・かもしれません。

 だれにでも殺意という素質はある。たまたま条件(環境)に恵まれなかった。殺人という大罪を冒さない理由はただそれだけのものだと思います。 


女の命は恋ですな。

 橋本忍脚本、野村芳太郎監督の名作です。
 主演は大木実さん。コンビを組む刑事に宮口精二さん。「七人の侍」にも出てましたね。

 質屋殺しの共犯(田村高広)を追って、鳥栖までやってきた刑事2人。3年前に別れた女(高峰秀子)に連絡があるはずだと、おんんの家の向かいの宿屋に張り込む。映画は延々とこの張込みシーンが続きます。
 しかし、飽きないんですねぇ。

 たぶん、人間には他人の生活を覗き見たい。その本性を暴いてみたい、という意識があるんですね。多かれ少なかれストーカー趣味があるんです。
 
 この女は20歳も年の離れた、しかも3人の子どもを持つケチケチ銀行員の後妻となります。1日300円(当時)の生活費を支給され、代わり映えのしない平々凡々な日々を過ごしているんです。

「年よりずっと老けてますね。あの女のいったいどこに、殺しをする男との恋愛なんてあるんでしょうか?」

 猛暑の中の張込み。エアコンなんてありません。3日経ち、4日経ち、それでも現れない。
 いつの間にか、刑事はこの女が可哀想になってきます。実は、不幸な生い立ちの娘との結婚に踏み切れないでいたんですね。その女と二重写しに見えてきたんですね。

 男に出し抜かれた刑事は、女と男を追います。そして、温泉宿で逮捕します。ほんの数時間。あの無表情な女が生気を見せ、はつらつとした人生を生きたつかの間でした。

 刑事は男を護送する駅から電報を打ちます。「東京ニ戻ッタラ結婚スル」。そして男にも「まだ若いんだ。これからいくらでもやり直せるんだ」と言い含めます。