2008年03月20日「テレビショッピング事始め」 境政郎著 扶桑社 1365円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 とうとう通販にも偽装が出てきましたね。つうか、通販のほうがやりやすいっしょ?

 あの船場吉兆だって、中元、歳暮用の「地鶏詰め合わせセット」が実はブロイラーで大儲け。やっぱ、目の前のお客さん相手にインチキはなかなかできないもんだけど、顔の見えない通販客ならいくらでもインチキできちゃうんじゃないの(そういう意味では、セッチーくりそのあの女将さん、かなりしたたかな人ですよ、ホントは)。

 この業界、偽装ニュースで激震ですよ、きっと。沈没する業者も出てくるんとちゃう?

 わかる客にはわかる。わからない客にはわからない。それが味です。
 だから、いくら高かろうが、ブランドだろうが、名店だろうが、そんなもの関係ないの。まずいものはまずい。美味いものは美味い。
 「これ、まずい!」とは言わないけど、「この味、苦手」「これも苦手」「またまた苦手」とか「うまいものはうまい」とはっきり言うことにしてます。それで嫌われるか? 嫌われません。嫌われてもいいしね。

 
 さて、いまや、テレビや新聞・雑誌の広告が頭打ちする中、テレビ通販=テレビショッピングが急拡大してますなぁ。
 昔は深夜にそっとやってたのよ。いつの頃からか午前中に進出し、そのうち夕方を占拠し、いまやケーブルやデジタル放送じゃ24時間専門チャネルまであります。
 庇を貸したら母屋を取られたみたいなもんですな。

 「は〜い、ジャパネットタカタです。みなさん、いいですか?」なんてボーイソプラノで話しかける人気社長までいますよね。

 通販番組のくせに視聴率がそこそこあったりして、ヘタすっと藤原紀香のドラマより高かったりしてね。メンツ、丸つぶれ。「おいおいおい、こうなったらレオパレスも通販すっぞ」なんてね。

 通販番組でも、やりようによっちゃもっと視聴率のとれる企画があんだけどねぇ。ちと安易に作りすぎなんじゃないの?
 もう、昔のタレント復活番組みたいなテイストやめましょうよ。タレントの誉め言葉、みえみえのMC、仕込みのおばさんの感嘆の声・・・わざらしいねぇ。恥ずかしくて見てらんない。

 「36年前(1972年)にテレビ通販を手がけた頃とは隔世の感があるね・・・」
 ディレクター兼リポーターとして、当時、番組に出演してた著者は驚いてるでしょうねぇ。

 「お話を聞かせてくれませんか?」
 去年か一昨年、私のとこにメールが届いたのよ。それがこの著者。FCG総合研究所というフジテレビの関係会社の社長さん。あれ、どこかで見たことあるなと思ったら、ニッポン放送とフジテレビがホリエモンとゴタゴタしてたときのフジテレビのIR担当常務さん。
 インタビューで出ずっぱりだった人なのよ。

 どうして、この私に? 聞いたら、私もすっヵり忘れてたことでびっくり。
 昔、ある本の中で「リビング11」「リビング4」について書いてたのよ。小4の時の思い出話だったと思うけど、「おもしろかったなぁ」「学校から早く帰ってくるとかじりついて見てた」「高崎一郎さんがMCだった」「キンキンの番組でも商品紹介コーナーがあった」なんて書いてたわけ。
 それ、チェックしてたんでしょうね。本、持ってきたもの。

 「テレショップ」はフジサンケイグループが手がけた世界初のテレビ通販番組。そればかりではありません。いま盛んな「ホットペッパー」等のフリーペーパーにしても、「サンケイリビングニュース」をもって嚆矢とするんです。

 さらにいえば、角川書店のメディアミックス戦略にしても、フジサンケイグループはとっくの昔に「電波+通信+紙媒体(新聞・通販雑誌・フリペ)+イベント(武道館イベント)」を同時展開してるわけです。
 
 テレビ通販なんて、スタート直後は「電波の私物化だ!」「主婦の射幸心に火をつける低俗番組だ!」と決めつけられちゃう。非難囂々よ。

 この偏見と誤解を解くために、経営トップから現場スタッフまで一丸となって理論武装したわけ。で、それに見合う信頼感を培うことを忘れなかった。これが大きい。ものすごく大きい。
 継子いじめされないように、些細なこともデリケートに考えて注意した。
 たとえば、商品選択にしてもスタッフが勝手に選ばない。選定会議つう客観的な組織をつくった。で、社内の担当者、社外の専門家が、安全性、機能性、おしゃれ感覚、値ごろ感、希少性、物語性、テレビ映り、在庫、業者の信頼性などをチェックポイントに選ぶわけ。つまり、「プロの消費者」という視点で吟味しちゃうのよ。
 結果、放送直前でも差し替える商品もあったし、「この商品のPSCマークは偽造だ!」とスタッフが見抜いて行政が摘発するきっかけを作ったりもした。

 売り込みを何度も断った業者から逆恨みされてね、「商品選びが偏向的だ」なんて行政に告げ口されたりもした。

 いま、深夜の通販番組見てると、「あと何個!」「売れてます!」とカウント計を表示して煽ってる下品なのが少なくありませんよ。
 こういうのやめたほうがいいね。業者や商品もそうだけど、番組自体がものすごく下品に見えちゃう。こんな軽いMCに釣られて買う客にはなりたくないね、なんて感じるもん。

 「見えないところを見せることに気を使い、衝動買いを煽ることはしなかった」(スタッフ談)

 生活者への情報提供番組という原則を守ったのも、誕生直後からやいのやいの攻撃されたからだと思うね。つけ込まれる隙を見せたくなかったんだよ、きっと。

 いま、テレビ通販は大きな顔してるけどさ、こういう先代の苦心や努力などどこ吹く風でしょうな。1人で大きくなったような顔をしてる。
 初代に名門なし、というね。松下だってトヨタだって、創業当時ははウマの骨。最初は虚業と言われたんです。「ウマの骨」はウマの骨なりにブランドをつくるために必死。で、なんとか実業と認められるようになるんです。
 通販にしたって、ようやく信頼を勝ち得たというのに、がりがり亡者やインチキ業者が汚しちゃいけない。こういうのを「九仞の功を一簣に虧く」というんだよ。300円高。