2008年07月13日「情報力」 佐藤優・鈴木琢磨著 イーストプレス 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 北朝鮮が6カ国協議に戻ってくるとか。アメリカがテロ国家解除を決めました。
「拉致のことは忘れない」などとブッシュはひと言も言ってないのに、どういうわけか、日本ではそう言ったことになっている。福田政権が困るから、そう言ったことにしてほしい。そのように理解した・・・というポーズを国民に示したいわけですな。早い話が出来レース。

 にもかかわらず、福田さんは対北朝鮮問題に奇妙に自信を持っています。
 なぜなんだろう? もしかすると、拉致被害者を何人か帰す・・・という言質をヒルさんあたりから取っているのかもしれませんな。この情報を最大限に生かすのは・・・選挙中か選挙直前でしょ。
 もし、読み通りだとすれば、これも日米のシナリオ通りということになります。

「北朝鮮はふつうの国になりたがっている」

 そういうことなんでしょうな。

 さて、本書ですけど、朝鮮語の達人とロシア語の達人の対談。というか、情報交換ですな。

 1990年、金丸信という政治家が訪朝しましたね。もちろん交渉には失敗し、彼1人、金の延べ棒をもらって帰ってきた、といわれてますな。

 このとき、暗唱に乗り上げたのは、大韓航空機爆破事件の工作員金憲姫の日本語教師李恩恵問題を取り上げたから。
 この李恩恵と拉致されたは田口八重子さんのことなんだけど、北は一貫して否定してします。これは韓国のでっちあげだというむちゃくちゃなことまで言ってるわけ。
 この問題について、北が触れたくない理由は、この事件は金正日の親筆指示書によるテロだからなのね。つまり、これを突っ込むとドン様の犯罪であることが知られてしまうわけ。こりゃ困るわな。

 で、頓挫してしまいました。

 2002年、小泉純一郎首相が訪朝します。このとき、金正日がOKを出した理由は、小泉政権が長期化する。この独断的な男なら国交回復は期待できる・・・と読んだからですね。

 お互いに不幸だったのは、北朝鮮問題の素人にもかかわらず、野心ばかり強い田中均という役人に交渉を任せてしまったこと。
 このおかげで、外交が振り回されるばかりか、北に対して日本は拭いがたい損失を被ることになるわけ。

 小泉さんの第2回目訪朝は、1回目と打って変わって冷遇されました。冷遇どころか、恥をさらしにいっただけ。これこの役人のミスに対する北の意趣返し。

 福田さんは「拉致被害者全員死亡」という北の説明を鵜呑みにし、この役人と謀って小泉さん、安部さんにもぎりぎりまで知らせなかったことは有名な話ですな。あいかわらず、退官してもこの役人を重用してますけど、ミスリードされることは必至ではないでしょうかね。

 生徒会長金子ならずとも、そこんところ、大変心配しております。

 小泉訪朝と前後して、北は明らかに方針転換しています。それは「後継者問題」。
 正業に転じる腹を固め、大量破壊兵器のセールス自粛を決定していたらしい。けど、そのためにはカネがほしい。体制のリストラをするには資金がなければ話にならない。

 たしかに、小泉さんとの共同宣言でも「賠償」ではなく「韓国式」の経済協力でいくことで合意はできていたわけ。日本からすれば、賠償なんてとっくの昔に済んでるわけで必要なし。けど、カネがなけりゃ何でもやるのは、どんな世界でも同じこと。

 いま、アメリカがテロ国家の指定解除をしつつあるのは、北の体制内における転換をサポートしようという発想がベースにあるのかもしれませんな。

 北朝鮮はいくら締め上げても効果はありませんよ。「ほしがりません勝つまでは」とかつて言っていた日本同様、餓死者が出ても平気だもの。
 なにより、国民は自分たちだけが飢えていることを知らなければなおさらそうですよ。

 ならば、その「ちがい」を国民に知らせてやる。そのためには国交を回復して、彼我の「ちがい」を国民に体感させてやったほうがいい。

 金正日体制の崩壊? このまま現状維持でも同じこと。ならば、中国やロシアよりもアメリカに庇護してもらうほうがまだ安全・・・と踏んだのかもしれませんな。200円高。