2009年03月24日「東急ハンズの秘密」 和田けんじ著 日経BP社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 私、昔、東洋経済新報社という会社にいたのね。そうそう、「会社四季報」の版元。で、そのとき、毎年、東急ハンズからプレス招待がありましてね。特製のカタログなども頂いたりしましてね。ホント、楽しみでした。
 
 そこにいけばなにかある。目的買いの人も暇つぶしの人も、とにかくわくわくする。そんなチャーミングなスポットがハンズ。

 ハンズの超価格破壊が100円ショップかもしんない。ある意味、ホームセンターもそうかもね。
 私がそっと通ってるスポットがもよく似てる。御徒町のモデルガンショップ。ここ、ナイフやライターも扱ってるんだけど、土日は狭い店内がそれこそ芋のこを洗う賑わい。そう、立錐の余地もないんです。
 
 モデルガン? 中学生? いやいや、お客はオヤジばかり。まっ、私もそのオヤジの1人なんですけど。いまはガス弾で実際に発射して遊べますからね。昔みたいに「音」だけで楽しむだけではありません。
 アキバに行けば射撃場もあるしい。ゴーグルつけて、気分はゴルゴ13ですな。

 ここがハンズと同じエンドルフィンが出てるのよ。つまり、わくわくどきどき。なにか新しいものに出会えるスポットなのね。

 著者はハンズで17年間、カリスマバイヤーとして活躍した人。わくわく商品を仕入れたり、どきどき売り場を仕掛けたりね。だから、本書を読むと手に取るようにハンズの凄さが伝わってきます。

 売れない時代にどう売るか? どうすんだべ。その極意を一言で言うと、「素人に徹しろ」ということにあるのかもしれませんな。
 といっても、完全に素人だとちんぷんかんぷんだから、オペレーションのわかる素人ということでしょう。

 効率を追求しても、それはお客様には関係のないことです。
 たしかに。効率性というのは、あくまでもこちら側の話だもんなあ。あちら側には無関係。どんなに効率が良くなったって、売れる売り場になるとは限りません。つうか、下手すると、つまんない売り場で客足が減ったりしますもんね。

 なぜか? やっぱ、情報を発信してないからですな。お客は情報を求めてるわけ。情報が最高のエンタテイメント。最高のご馳走なのよ。どれだけ情報発信できるかどうか。そんな売り場を開発しないとね。

 で、お客さんと同じ目線。同じ周波数に合わせることがポイント。
 でも、これが難しいんだなあ。素人の目線を持ちながら、変幻自在に時代と周波数をチューニングする。これ、プロフェッショナルでないとできません。

 さて、ハンズに行くとわかるけど、素人向けの一般商品だけでなく、いわば業者等のプロ仕様つうか、業務用商品もたくさんありますよね。これをこのまま置いといても売れません。
 じゃ、どうすればいいの?
 はい、翻訳と編集が必要です。

 翻訳つうのは、わかりやすく伝えること。あのね、これね、こんな風にして使うと便利なのよ。こういう伝え方。
 で、編集というのは、お客さんへの見せ方よ。たとえば、著者が仕掛けたことでいえば、檜風呂のプロデュースとかがそうだと思うな。
 これ、ユニークで面白い。画期的。だれもが気づかない。お客さんは当然、気づかない。そこにこんなのどう? こういう提案をする。それがバカ受けする。こんなに楽しいことはないよ。仕事ってのはホント面白い。

 人に感動を与える仕掛けに、著者がいちばんわくわくどきどきしてたと思うな。この本は戦術が詳細に語られてるけど、実は、仕事ってこんなにクリエイティブなんだ、人に感動を与えられるんだ、こんなに楽しいんだ、と語りかける1冊だと思う。300円高。