2009年06月19日「大恐慌 失われる10年」 浜矩子・高橋乗宣著 李白社 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「不景気も底を打った」という論調が目立つ中、「これから二番底があるぞ」という論調も根強くありますな。
 では、この2人の著者はどうかというと、どちらでもないんです。
 ???
 つまり、これから一番底が来るんだ、というわけ。二番底じゃない。底はこれからだよ。まして、「不景気の底を打った」なんてさらさら考えられない、というわけ。

 私? まったく同感。これから暴落が始まります。オバマさん。安部さんや福田さん、そして、たぶん麻生さんと同じ轍を踏むことになる・・・と私は考えてます。

 米国にとって、GMとAIGは「第2のベトナム戦争」になるでしょうな。
 オバマさんは今後、緊急に350〜400万人の雇用創出をしようと考えてますけど、グリーンエネルギー対策だけでは足りず、結局、「バイ・アメリカン条項」を展開せざるをえないでしょう。日本やヨーロッパの手前、いったん引っ込めるポーズをとりましたけど、結局、議会も認めましたよね。「削除案」は否決。

 「バイ・アメリカン条項」って、今回が初めてではありませんよ。アメリカって、ものすごくいい加減な国で、いやいや、言葉を換えれば、柔軟な国で、自分に都合が悪くなるといくらでもルールを変えちゃうの。なにも、WBCの野球だけじゃないんです。
 自由経済だ、規制撤廃だ、と言っておいて、ある日突然、規制しなきゃいかん、とコロッと変わる。

 日本のようにいったん決まると、バカの1つ覚えで守り抜こうとするお国柄じゃないんです。プリンシパルなんていくらでも変わるんです。
 節操がない? いえいえ、利にさとい、機を見るに敏と言って欲しいですな。

 ニクソンショック(1971年)直後がまさにそうでしたね。あの頃、鉄鋼、自動車、家電、ハイテク商品などで、日本と貿易摩擦がピークだったでしょ。保護貿易を徹底するために、甚大な関税、課徴金、制裁金を日本企業に課してきましたよね。国内では、物価と賃金の統制までやってました。
 えっ! アメリカって自由主義じゃなかったの?

 最近、貿易摩擦って聞かなかったでしょ? なぜ?
 米国は製造業やめちゃったから。摩擦というのはライバルだから発生するの。歯牙にもかけなくなると、摩擦なんて起こりません。

 最近、賃金の統制やってますよ、アメリカは。オバマさん、金融危機を引き起こした金融機関の経営者たちの収入規制なんて始めちゃったでしょ?
 これ、おかしいと思いませんか? たしかに、ここまで会社を傾けた連中だもの、株主代表訴訟に持ち込んでもおかしくありません。なんで、膨大な退職金にリムジンで見送らなきゃあかんねん、と日本人なら考えます。
 けど、これは金融危機になる前の経営者たちに対してならわかります。

 これからは再建しなくちゃいけないんでしょ? いままで以上に支払うことを約束しなくちゃ、だれも火中の栗なんて拾わないと思いますね。儲けたヤツにはそれなりのリターンを保証してやんなきゃ。アメリカの活力というのは良かれ悪しかれ、こういう文化にあるんです。
 いきなり、日本の企業文化に合わせられるわけがない。

 ところで、金融危機、すなわち、バカなマネーゲームを引き起こした報いですけど、このマネーゲームの胴元は「ジャパンマネー」にあったんです。
 どん欲なカジノの親玉が新手の賭場を開帳した。そこに裏からどんどんマネーを流し込んだのがジャパンマネー。なにしろ、歴史的にも希有な「0金利」でしたからね。
 で、「0金利はそろそろやめたいんですけど」と何度も言ってた日銀総裁に対して、政策決定会合(日本銀行)に出てきては、「まだまだ続けなければいけません!」と何度も何度も注文をつけてた人物がいます。
 竹中平蔵さんですね。「0金利を解除するなら日銀法を変えてでも日銀総裁の首をすげ替えるぞ!」と迫っていたとは、お里が知れますな。

「揺りかごから墓場まで」で知られる英国ですが、高福祉のために財政が傾いて、いわゆる、「英国病」になってしまいました。
 英国病からの脱出のために、1979年に首相に就任したサッチャーがしたことは、規制緩和、改革開放、外資導入です。つまり、ここ数年、アイルランド、アイスランド、ハンガリー等々が展開していた政策です。たぶん、「英国の成功」をビジネスモデルにしたんでしょうな。
 もしかすると、クリントンの米国、つまり、財務長官ロバート・ルービンも国家の投資銀行化を考える中で参考にしたかもしれません。

 英国は「ビックバン」のおかげで、ロンドン・シティからロスチャイルド系の銀行を除けば、英国の金融機関は消えてなくなりました。たしか、マーチャントバンクの老舗モルガングレンフェルはドイツ銀行に、ウォーバーグはスイス銀行(のちUBSに買収)に、クラインオート・ベンソンはドイツのドレスナー銀行に買収されてたと思います。
 金融機関は買収されたけれども、シティは生き残れた。いや、発展し続けました。英国の法人税の2割はシティに属する企業が払っているほどですからね。こうして、金融機関のテナント屋=ウィンブルドン化が進んだわけですね。

 ずっとポンド安で輸出も盛んでした。けど、そこにはランドローバーではなく、日産やホンダの車が英国からどんどん外国に輸出されていったわけ。

 98年当時、橋本龍太郎内閣は外国為替法の大改正を行いましたよね。「金融開放=日本版ビッグバン」を展開しようと考えたわけですが、英国とは雲泥の差でまったく機能しませんでした。
 04年には1人あたり国民総生産で英国に逆転されました。原因はもちろん、ビッグバンの失敗にあります。
 しかし、長い目で見るとこれが幸いしているんですね。

 ユーロも一枚岩ではありません。いまが最大の正念場でしょう。チェーンはいちばん弱いところから切れますからね。
 いま、あちこちに綻びが出てきてますよ。

 金融危機直後、ドイツはトルコ人などの外国人に対してドイツ語とドイツ史の試験を始めるようになりました。ECBに相談無しに、国内ドイツの銀行の国有化、預金全額保護を決めました。
 アイルランド、アイスランドもそうです。

 金融立国英国をモデルに、借金とレバレッジでカネがカネを生む、外資依存、他力本願、人のふんどしで相撲を取る政策に舵を切り、大失敗。
 金融監督、金融規制は各国財務省に、金融政策はECBが担当するという「ねじれ現象」が命取りにならないといいですが・・・。300円高。