2009年07月03日韓国版ベストセラー顛末記

カテゴリー中島孝志の不良オヤジ日記」

 昨年、小生の本が韓国でベストセラーとなったことを本欄でもチラッと書きました。
 ビジネス書というくくりではなく、アメリカの小説等々も含めて全単行本の中で第6位。なんと20万部。これ、韓国の人口を考えるとかなりのものなのだそうです。
 
 実はこのことすっかり失念しておりました。

 ところが、昨日、日本の版元から電話。
「印税振り込まれてきましたよ」
「えっ、なんの?」
「去年の韓国版です」
「あれか? ふ〜ん。嬉しいのお。けど、ずいぶん遅いんとちゃうか?」
「実は・・・」

 事情を聞くと、ご存じのように昨今の韓国経済悪化で通貨であるウォンが暴落(当然、ウォンに対して超超超円高)。
 どのくらい下落しているかというと、一昨年の半分。2年前の35〜40%。つまり、100円儲かるところが35〜50円にしかならないというわけ。
 版元も為替が少しは円安に触れるまで待とうや、ということで、この1年間、様子見だったようです。

 ところがですね。これだけ不況になれば、韓国の出版社自体もどうなるかわからないわけですよ。そしたら現物支給? この際、為替損はしょうがない。現金だよ、現金。明日の1万円より今日の100円だ。見切り千両、損切り万両だ。
 というわけで、振り込んでもらった、ということでした。

 「20万部かあ。イタリアに1年くらい住むか」・・・とチラッと考えたんですけど、これが大きな間違いであることが編集者のひと言で判明。いや、ガックリ。

 日本で出版された場合、たとえば、価格1000円、印税10%としても、印税収入はざっと2000万円になります。イタリアに3年くらい遊学できますよ。
 ところが・・・ですね。韓国の物価は日本の10分の1。なおかつ、翻訳の場合、ものすご〜く「中間搾取(ホント、搾取です!)」が多いんです! 私、いままで100冊くらい翻訳されてますけど、今回くらいこのマージンの多さ(ひどさ)に驚いたことはありません。

 ざっくりいうと、日本側代理店と韓国側代理店がそれぞれ10%ずつ搾取。手数料と源泉徴収が10%搾取。なおかつ日本側版元の著作権使用料として50%搾取(こら、多すぎるぞ!この不労所得め!)。
 あわれ、善良な勤労者(私のこと!)の手に残されたのは20%しかなかったのです。つまり5分の1なわけ。忘れてならないことは、日本と比べて売価が10分の1であること。
 おいおいおい、いったいいくらなの? はい、トホホでした。

 せめてもの救いは、この印税収入をスコーンと忘れていたこと。

 考えてみれば、なにも失った物はありません。にもかかわらず、無くなった物を数え、ある物に気づかない。シェアできることに感謝せず独り占めばかり考えたら、あのグリーディな投資銀行の連中と同じ穴の狢ですよ。

「仰山の人に読んでもろただけでもえやないの。いままで通り、額と脳みそに汗かきなはれ、働きなはれ、お気張りやっしゃ」

 落語「芝浜」の主人公(飲んべえの魚屋)の気持ちがよ〜くわかりましたよ。
 もう一杯いかが? いや、やめとこう。また夢になっちまうといけねえ。