2018年04月10日「米中貿易戦争」をめぐる株価乱高下のカラクリ。。。

カテゴリー中島孝志のとってもいい加減な市場観測日記」

 私の友人で某大型地域で新聞販売業も営んでいる方がいます。
 普通、新聞販売業といいますと、毎日なら毎日、読売なら読売、と系列化されていますが、この地域はすべての新聞を扱っているのです。

 たとえば、「従軍慰安婦についてでたらめ書いてる朝日新聞などいらねえ。もう配達するな、明日から読売に換えるからな!」と怒っているお客さんがいても、「はい、わかりました。いままでありがとうございました」と言うだけ。お客さんが電話で読売新聞に注文すると、結局、「あれ、おまえ、昨日、朝日配達してたヤツじゃねえか!」となるだけなのです。

 どの新聞を読もうと、どの新聞をやめようと、その販売店が独占。独占禁止法ならぬ独占販売禁止法に抵触するような商売をしているのです。

 「中国と交渉を続けるつもりだが、貿易戦争になる可能性もある」

 ムニューシン財務長官の発言です。いま、米中がしていることは・・・ジェームズ・ディーン主演映画『理由なき反抗』を彷彿とさせる「チキンレース」そのものです。



 5日の相場ではそれほど動きがなかったので、「株価に影響ないな」とひと安心。ぐっすり寝て起きたら572ドルもの暴落! おいおいおい、起こしてくれよーーー。
 トランプ相場はおちおち寝てはいられないのです。

 「500億ドルの中国製品に25%の関税を課す」と発表したのが3日。翌々日には「新たに1000億ドル(10兆6000億円)の関税を課す」だもんね。中国の報復(中国は4日、米国産品=大豆と航空機など500億ドルに25%の関税をかける)に対する報復です。

 いかにもトランプらしい反応です。



 しかし、金融政策から財政刺激策へと転換したトランプは、関税政策の中でも知的財産権については妥協しない、と思います。前回述べたように、これからのアメリカを考えますと、貿易収支、経常収支、国際収支を改善して財政を黒字に転換させるには「第一次所得収支」で儲けるしかありません。

 というのも、アメリカの製造業はあまりにも対GDP寄与率が低すぎるからです(14%しかありません。参考までに日本でも18%しかありません)。

 製造業こそが「労働生産性」の牙城なんですが、実はロボット化で今後、新たな工場でも建設しない限り従業員は増えません。日米ともに従業員が急増しているのはサービス産業であり、こちらはどうしても「生産性」が上がらない体質なのです。ロボット化できる産業としにくい産業。労働生産性はサービスという1人1人のお客さんごとに要求される価値が変わるからこそ上がりにくいのです。

 参考までに、「労働生産性」とは従業員1人1人の付加価値をはかる物差しです。高ければ高いほど効率化され、労働の質が高くなることを示します。付加価値を働いている人数で割ると算出できますから、労働生産性を高める方法は2つ。分子=付加価値を増やすか、分母=労働量を減らすかです。

 では、新工場が増加するかといえば、アメリカ企業は無理です。なにしろ、アメリカで失業率が増えた真因はGMやフォード、GEが落ち目で国内生産では儲からない。中国などの労賃が地域に移転していったからです。失業で喘ぐアメリカを救ったのがホンダ、トヨタ、パナソニックであり、その関連企業です。

 資金環流に関してきわめて低税率(15.5%)で処遇する、というエサをばらまいても、すでに競争力のないアメリカ製造業が国内回帰することは期待できないでしょう。
 というのも、工場建設とは設備投資です。設備投資は未来のリターンを期待して行うものですが、残念ながら、決定するのは現在のCEOです。
 設備投資をして現金を減らすより、その分、自社株買いをしたり配当を殖やして、株主のご機嫌をとるほうが自分の人気と任期にメリットがあります。ボーナスもたくさんもらえるでしょう。5年先のリターンよりも半年先のリターンを優先する。朝三暮四をありがたがる猿並みの人物が外資系企業CEOの実像です(日本国内にある外資系雇われ経営者も似たようなものです)。



 さて、中国でもビジネスが盛んなのはボーイングとキャタピラーです。いずれもダウ銘柄です。
 この2つがダウを大幅に下げました。





 ダウは日経平均株価と同じやり方で株価を算出しています。単純平均株価=採用銘柄合計÷採用銘柄数です。TOPIXのような加重平均ではありません。



 となると、どうなるか? 「値がさ株(株価の高い銘柄)」が幅をきかせてしまうのです。日本ではユニクロとかKDDI、東京エレクトロンにキーエンスなどがそうです。上位5銘柄で日経平均株価の20%を決めてしまいます。上位25社で50%を決めます。逆に言うと、日経225の下位50銘柄は暴騰しようが暴落しようが影響度は0.6%しかありません。つまり、あってもなくても変わらないのです。



 さてさて、ボーイングがダウ30種平均株価の中でどれだけの寄与度(影響度)があるかといえば、ほぼ10%です。キャタピラーは5%です。この2つが暴落すればダウの15%に響くのです。0.1%の世界ではありません。
 ダウに影響を与えるトップ銘柄がボーイングなのです。だから、ダウが暴落した、というわけです。

 では、中国におけるボーイングの受注残はどれだけあるかといえば、1%未満です。
 中国が輸入する中小型機を製造できるのはボーイングとエアバスしかありません。エアバスは9年分の受注残を抱えていますから注文に応えられませんし、なんといってもボーイングがダントツです。
 「結局、ボーイングから買うしかない」
キャタピラーも同じです。コマツや日立建機に換えてくれればいいですが、「結局、キャタピラー」となるでしょう。

 実質的にデファクト・スタンダード(和製)であることがいちばん強いのです。


ボーイングは軍事産業ですよ。

 では、中国はどうでしょうか? 残念ながら、付加価値のある商品はありません。中国の輸出品で付加価値のあるものはすべて日本製です。「安かろう、悪かろう」の商品しか中国にはつくれません。
 残念ながら、アメリカの貧困層はそういう中国商品がなければ生きていけません。毒性のある塗料が縫ってあるおもちゃで死亡事故が頻発しましたが、それでも中国製の安かろう、悪かろう、と買うしかないのです。

 100円ショップならぬ99セントコーナーがアメリカの貧困層が暮らす地域のコンビニにはあります、「ハインツ製?」と思いきや、似たような名前、似たような色と形で騙す中国製商品がやまほど詰まれています。しかし、それしか買えないのです。
 中国の「売り」は安いことだけです。少し高くすれば韓国製に負けます。日本製に勝とうとするなら採算度外視で臨むしかありません。

 つまり、付加価値などまったくありません。安さだけで商売する国の末路が見えてきます。

この勝負、トランプが勝ちます。世界に発信した「アメリカ ファースト!」はいままでアメリカ経済に依存してきた国々に、「内需拡大しろ!」というメッセージです。日本はいまも昔も、あの高度経済成長期ですら完全な「内需国家」でした。トランプに言われる筋合いはありません。
 しかし、中国と韓国は内需国家にしなければいけません。そういう意味で、輸出国家に舵を切って国家ぐるみでウォン安にして日本家電メーカーを蹴散らしたつもりの李明博元大統領が逮捕されるのは当然です。

 参考までに、日本は最終完成品はお披露目として販売しているだけで、部品で大儲けする、というビジネスモデルです。中国製、韓国製のスマホが売れれば売れるほど、日本の部品メーカーが儲かるのです。


 さて、今日の「通勤快読」でご紹介する本は「おまじない」(西加奈子著・1,404円・筑摩書房)です。