2005年10月31日「食品の裏側」 安部司著 東洋経済新報社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

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 さて、著者は食品添加物のトップセールスマンだった人。
 その著者がどうして、こんな本を書いたのか? どうして、添加物の裏側ってこうだよって、真実を伝えて歩くようになったのか?
 いやはや、ホントに怖い。スーパーとかで、食べ物買う時、表示をきちんと見ましょうね。食品添加物どっさり・・・なんてのがうようよしてるんだから。

 ここにインスタントラーメンがあります。で、豚骨味としましょう。
 「ふーん、スープはいったん作ったものを固形物にしてから顆粒にしたんだな。味が凝縮してるから、お湯で戻すんだな」
 と、ふつうは思いませんか?
 ところが、事実は違うのよ。
 数十個の小瓶に白い粉が入ってる。それを次々とスプーンですくって、はい、できあがり。一滴の豚骨スープも使ってないの。
 もちろん、きちんと豚骨スープで作ってるインスタントラーメンもたくさんあると思うけど。

 コーヒー飲む時、横に小さなミルクがついてるね。あれ、牛乳とかミルクって表示されてるの、見たことあります?
 あんな小さなとこに書けないから、たいていは大袋に記してるんだけど。
 ないはず。
 だって、あれ、原材料はミルクじゃないもの。水とサラダ油と添加物。これだけで作ってるの。
 もちろん、ちゃんとミルクを使ってるコーヒー店もいっぱいあると思うけどね。これもチェックしといたほうがいい。

 著者は大学では化学専攻。ですから、添加物についてはスペシャリストなのよ。
 で、添加物の専門商社に入社すると、あっという間にトップ営業マンになっちゃった。

 添加物の御三家というと、漬け物、明太子、それにハム・ソーセージなどの練り物です。添加物の威力を目の当たりにしてビックリ。
 暗い土色、形もドロドロのたらこが、添加物の液に一晩つけられただけで、ベビースキンのぷりぷりタラコに早変わり。
 ベージュ色のしわしわ干しダイコンも、きれいな真っ黄色のたくあんにへーんしん。かじると、ぽりぽりと歯触りまでいい。
 「添加物は魔法の粉だ!」
 「これは天職だ!」
 「もっともっと勉強して日本一の添加物屋になってやろう!」
 こう思ってしまったのです。もちろん、錯覚でした。

 ある調味料会社など、だしの素を作った時、全国展開できる商品になっちゃって、社長が感謝のあまり、「うちにアンタの銅像を建てる!」と言い出しちゃった。

 ところが、そんなある日、長女の3歳の誕生日。家族揃ってお祝いをしてたのね。
ご馳走の中にミートボールの皿があった。かわいらしいミッキーの楊枝がささってるわけです。
 何げなく口に含んだとたん、凍り付いた。
 「これ、俺が開発したミートボールだ!」
 著者は添加物のプロです。食品に混じり込んでいるものでも、100種類の添加物を舌で見分けることができます。いわば、添加物のソムリエ。
 しかし、この時は、奥さんがひと味、加えてたんですね。ミッキーの楊枝にもごまかされた。
 「これ、××のものか?」
 「だって、安かったし、○○(娘)だって好きだからよく買うのよ」
 「ちょ、ちょ、ちょっと、待て待て!」
 
 このミートボールはスーパーの特売用に、あるメーカーから依頼されて開発したものでした。
 発端はそのメーカーが「端肉」を安く大量に仕入れたこと。いまや、ペットフードに利用されているもの。このままではミンチにもならない。けど、とにかく「牛肉」であることは事実。
 「これで何か作れないか?」
 元の状態ではドロドロ。水っぽい、味もない。とても食べられる代物ではない。
 「どうしたら食べられる?」
 まず、安い廃鶏のミンチ肉を加え、さらに増量し、ソフト感を出すために「組織上大豆たんぱく」を加え・・・(いまでも、これはハンバーグには使われてるらしいよ)。これにビーフエキス、化学調味料を大量に投入。歯触りをよくするためにラード、加工でんぷん、さらに結着剤、乳化剤、着色料、保存料、ph調整剤、酸化防止剤も入れる。
 はい、「ミートボールもどき」のできあがり!

 さて、これにソースとケチャップを絡めたらできあがり!
 けど、市販のものを使ってたら採算があいませんね。だから、ここでも食品添加物を駆使するわけですよ。
 まず、氷酢酸を薄め、カラメルで黒くする。それに化学調味料を入れれば、はい、「ソースもどき」のできあがり!
次にトマトペーストに着色料、酸味料、増粘多糖類でとろみをつけると、はい、「ケチャップもどき」のできあがり!
 全部で20〜20種類の添加物が入ってます。
 本来であれば、産業廃棄物にしかならないクズ肉ですよ。それが添加物のおかげで蘇るわけですね。原価は20円程度。それが1バック100円で飛びように売れるわけ。
でも、これ、ゾンビ食品なんです。

 ドロドロのクズ肉に添加物をジャブジャブ投入してつくったミートボール。それをわが子が大喜びで食べているという現実。
 これは父親として胸が痛かったでしょうね。
 それまでは、このミートボールは著者の誇りだったんですよ。ビジネスパースンとしてはね。
 「わが子には食べて欲しくない」
 
 これはメーカーの人にも当てはまります。
 「うちで作ってるものは、わが家では食べさせませんよ」
 「食べないよ。だって、勘でわかるもの」
 作ってる人間が食べられない。それを作らせて食べさせる。
 「俺は死の商人か・・・」
 たしかに、著者の住む町はほかの都市と比べて、アトピーの子どもが多い。その何千分の一は自分の責任ではないか?
 翌日、退職。

 しかし、現実的には添加物なしの食品を揃えることはなかなかむずかしい。だが、添加物の事実を知っていれば対策を打てる。
 いってみれば、水際作戦のようなものかな。
 いま、添加物の翻訳者として全国を飛び歩いています。

 今度、わたしの勉強会でも講義してもらおうと思います。なんてたって、机の上で、いろんな食品、作っちゃうんだよ。おもしろいよね。
 幼稚園の親子講演会ではバカ受けだって。そうだよね。子どもたちが飲んでるジュースがどれだけ砂糖がどっさり入ってるか。目の前でわかりやすく教えてくれるんだから。
 250円高。