2004年09月13日「東横インの経営術」「もうおうちへかえりましょう」「手紙魔まみ、夏の引っ越し」
1 「東横インの経営術」
西田賢正著 日本評論社 1260円
いま、ホテル業界はその70パーセントが赤字だと言われてます。
しかも、ホテルの場合はレストランとか披露宴、祝賀会といったイベント企画の売上が7割近くあるのが常識ですね。
けど、レストラン部門をまったく持たないビジネスホテル、東横イン(社長・西田憲正さん)は連日、活況を呈しているのです。
わずか16年で、いまや、チェーン展開は来年5月にオープンするホテルでちょうど100店舗とか。まだどんどんできてます。
たしかにホテルは高い。かといって、カプセルホテルでは味気ない。安心感もない。なにより、隣のいびきが気にかかる。
その点、東横インのサービスはいたれりつくせりなのです。
低価格維持のために、自販機のジュース類は百円据置。
宿泊料に商品券、ビール券、図書券、テレホンカードなどの金券を額面で利用することもできる。新聞は無料、朝食のパン、コーヒー、おにぎりと味噌汁も無料、ズボンプレッサーは各部屋備付、もちろん、無料。
変わったところでは、ベッドはセミダブル並であり、すべてのホテルで禁煙フロアが設置されていますし、インターネットも使えます。
リーズナブルなサービスと低料金を両立。
それを実現したものは、徹底したローコスト・オペレーションにあります。
この経営手法は、まるっきり既存のホテル業とは対極にあるのです。
「ダメなやり方を裏返せば、成功する」
社長の西田さんはホテル業とは無縁の素人。なにしろ、いまでも電気屋さんなのです。
「時間を従来の枠で考えず、有効に使う」
立地は駅から近く交通の便がいいこと。
料金は、昔の駅前旅館並で庶民的な値段であること。施設は近代化されたホテル様式。支配人、フロント社員を地元で採用し、特に支配人には女性を配し、「旅館の女将さん」としてホテルを切り盛りしてもらうこと。二十四 時間勤務。ただし、出勤日は週二日という勤務システム。
「昔の駅前旅館のくつろぎと安らぎに近代的な合理性と利便性を加え、ゆとりある快適な生活空間を作り出そうと努力している」
「定年感謝祭」と銘打って日曜、祝祭日には六十歳以上を対象に低価格でサービスしたり、キュービーネット(十分千円の理髪チェーン)と提携し、一部のホテルに開設していたり・・・。
このビジネスは地主に土地を提供してもらい、そのオペレーション指導を請け負って利益を生み出すものです。
となると、マンションと違って、大家としてはホテルの修理の必要もありませんし、テナントの出入りに苦労することもありません。すべて東横インが家賃を払うというのだから、かなり率のいいニュービジネスなんですね。
200円高。
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2 「もうおうちへかえりましょう」
穂村弘著 小学館 1470円
著者は歌人です。といっても、知らない人が多いかも・・・。短歌なんて、読まないし、詠まないしね。
短歌というと、俵万智さんの「サラダ記念日」がやっぱりメジャーになるのかもしれません。彼女はこの作品でたしか角川短歌賞かなにかを取ったと思いますけど、この時の次点が著者だったようですね。
ところで、短歌って、目の付け所というか、直感というか、センスというか、とにかく、感覚と表現力が勝負の世界だと思うのです。
この本はそういう意味で、著者の感覚の鋭さ、ものの見方、考え方を垣間見るにはいいかも。
「大学生活最後の春のこと(中略)。麻雀の最中に、対面のスギタニがふっと顔を上げて、お前とつき合うと女の子はブスになるよな、と言った。ぎくとする。ほかのふたりも牌を見つめたまま、静かに頷いている(中略)、やっぱりそうか、と思う」
うすうすそんな感じがしてたらしいですね。
過去のガールフレンドを思い浮かべてみると、みんな可愛い人だった。
ところが、つきあい始めると、なんだか表情がどんよりして、動きが鈍くなり、いきいきとした魅力がなくなってしまうのだった。2カ月が8キロ太ったり、風邪を引きやすくなる人も出てくる。
早い話が、疫病神ってことですな。
十数年後、レストランのサラダバー(食べ放題、取り放題ということ)の前にいると、妙に気になる女性が一人。
特別な美人ではないけれども、オーラというのか、とても楽しいことをしているような雰囲気があるわけ。
キラキラ輝いている。
で、どうしてだろうと考えると、わかった。
連れがいたんですね。男です。
この男性とサラダを取る時でも目で合図したり、楽しくコミュニケーションを取っているわけ。
この喜びと安心感によって、支えられている美しさだったわけですね。
本当に幸福そうだった・・・。
たしかに。
翻って、わが身を考えると、彼女に食事を作ってもらっても「美味しい」とも言わなかった。おまけに、ジュース、コーヒーを飲んでも、必ず底に一センチほど残す。
「どうして必ずちょっとだけ残すのよ!」
怒っているわけではなく、張りつめている悲しそうなわけ。
「おまえとつき合うとブスになる!」
その秘密がこれだったのです。
でもね、でもね、これが私だったら、「おまえとつき合うと女は悪魔になる!」と言われてるでしょうな。
ブスと悪魔。
いったい、どちらがいいでしょうか?
150円高。
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3 「手紙魔まみ、夏の引っ越し」
穂村弘著 小学館 1680円
てわけで、鬼才穂村弘さんの9年ぶり書き下ろし歌集です。
まみさんからもらった手紙の数はなんと591通。
最初は穂村弘先生、「終バスにふたりは眠る紫の(降りますランプ)に取り囲まれて」の歌、大好きですというファンレター。
やがて、宛名は「穂村弘様」となり、「穂村さん」「ほむほむ」「ハロー、金のひつじさん」「六等星のみつけ方を教えてくれたひとへ」「編み物童貞ほむへ」「ひょむひょむ」「爪に半月のないあなた」「ほむほむ まみの内出血」と変化していきます。
可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に墜ちてゆくこと
「あー。あー。マイク・テスッ、あいしてるあいしてるあいしてるあいしてる」
氷メロンの山よりふいと顔あげて、ここらで舌をみせたげようか?
早く速く生きてるうちに愛という言葉を使ってみたい、焦るわ
午後四時半の私を抱きしめてくれるドーナツショップがないの
ゴーゴンとメデューサ、どっちがかわいいの? そっちになるわ、みつめてご覧
こんなにもふたりで空を見上げてる 生きてることがおいのりになる
夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう
どう、テイストが感じ取られた?
180円高。
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