2006年03月15日「ナベプロ帝国の興亡」 軍司貞則著 文藝春秋 1600円
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ナベプロこと、渡辺プロダクションは芸能会社の「北極星」だったんだなぁ。そんなことがよくわかる本です。
ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、梓みちよ、木の実ナナ、奥村チヨ、望月浩、森進一、布施明、なべおさみ、藤田まこと、野川由美子、クレージー・キャッツ、ブルーコメッツ、ドリフターズ、加山雄三、沢田研二、小柳ルミ子、天地真理、キャンディーズ、吉川晃司・・・タレント250名、社員110名。
といっても、この中で知らないタレント、たくさんいると思うんだよね。
それにお笑いの人が入ってないでしょ。さまーずとかホンジャマカとかさ。
なぜかというと、この本、いまから15年も前のなのよ。なんで今ごろ読んでるかというと、仕事場を整理してたら出てきたの。
あっ、この本、ずっと探してたやつだ。
「ちょっと遅いんだよなぁ」と思いつつチラチラ見てると、ふんふん、ふんふん、とそのまま読んでしまいました。
もっと早く読めばよかった!
「興亡」という通り、創業期から全盛期を迎えて、そのまま衰退・・・というシナリオなんだけど、それは15年前の本だからね。
実は吉本興業の中邨さん(元社長、会長)もホリプロの堀威夫さんも私がプロデュースしたんだけど、いまでも思い出すのは、15年前に中邨さんが言ってたこと(この人、門外漢の私には愚痴とかなんでもこぼしてたからね。当時、社長の予定は中島さんに聞いたほうが早い、と秘書が言ってたくらいです)。
「ナベプロがお笑いタレントを育てようと考えてるらしいけど、どう思います?」
「えっ、お笑いでしょ? 棲み分けができてるんじゃないですか? お笑いは吉本の天下でしょう?」
しかし、中邨さんは危機感を持っていましたね。もちろん、松竹芸能についてはもっと熱い視線をおくってたと思うけど。
このセンスというか、感覚は経営者として立派ですね。
15年前、ほかの芸能プロダクションがどんどんのしてきてました。
たとえば、ホリプロ(山口百恵など)や田辺エージェンシー(タモリ、堺正章など)、それにサンミュージック(松田聖子など)。松田聖子など、元々、ナベプロの九州支社が大推薦し、家族にも内諾を得て、本社にぜひスカウトするようにと履歴書をおくったにもかかわらず、「がに股で魅力無し」と却下。
でも、お笑いがブームになりそうだ、と仕込んだタネが、いま、花開いてる。これをだれが仕込んだかはわからない。けど、ダメなことばかりではなかったね。
ナベプロは渡辺晋という人が創業した会社。奥さんは美佐さん。
元々、晋さんは早稲田の苦学生。終戦後、「アメリカの音楽が金になるぞ!」と寮の仲間から聞いて、あわててギター、ベースをはじめる。なんの素養もない。けど、寮には後に音楽で一流になる人間がいた。
で、懸命に頑張る。
同時に、即席ジャズバンドを進駐軍の倶楽部などに送るマネジメントにも精を出す。これが性にあった。
当時、そんな仕事をしていた人間は5000人いたらしい。でも、その後、会社組織にして、タレントを集め、ダントツの成功を収めたのはこの人だけだった。
1位ナベプロ、2位ホリプロ。でも、その差は10倍もの差があった。
どこが違ったのか?
ナベプロ成長神話のスタートは、やはり、テレビ時代の幕開けと比例している。
映画が一流、テレビは三流。だから、映画俳優はテレビには出ない。予算もなかった。ラジオにすらバカにされる始末。
そのラジオのディレクターをしていた「すぎやまこういち」という人物がフジテレビに出向する。そして、新番組を担当する。これが「ヒットパレード」だ。
しかし、フジテレビ内でもだれも相手にしない。予算もない。けど、意地でスタートした。ないない尽くし、局内に理解してくれる人もいない。四面楚歌。
ダメもとで晋さんに相談。
「外国の歌を日本語で歌わせる? 面白いね」
この人だけが理解してくれた。
「ただ働きでいいよ。うちのタレントを出そう。そのかわり、全力を尽くして大成功させよう」
実態はただどころか、毎回、ナベプロの持ち出し。当時のお金で毎週50万円のロス。1年続けば2000万円のロス。
1カ月前だというのにスポンサーもつかないけど、この番組に賭けた。
それが大成功。
以降、ほかのテレビ局でも番組構成、CM制作、映画製作にまで進出した。「シャボン玉ホリディ」「8時だよ、全員集合!」「なんである、あいである」・・・。
そのほかに、レコード会社を向こうに回して原盤権、いまでいう著作権ビジネスにも進出。これで大儲け。
「あぁなりたい、あんな会社にしたい」
みながその仕事のやり方を注目し、そして真似た。だから、「北極星」だと言ったわけ。
しかし、そんな星でも墜ちる時は墜ちる。興亡だもの。亡もある。それについては、本文にじっくり書いてある。
ひと言で原因をいえば、会社が大きくなりすぎたことか。
大きくなれば、自信も持つけれども、そこに傲慢、慢心という危険もつけいって来やすいものね。
ナベプロ凋落を決定づけたのは、日テレの「紅白歌のベストテン!」という番組が、ナベプロ肝いりのオーディション番組「あなたならOK」(テレビ朝日)とかぶった時のこと。
いつもは温厚な晋さんがなんと言ったか?
「そんなにうちのタレントに出てもらいたければ、放送日を変えたら?」
この一言に切れたのが、日テレの制作責任者だった井原高忠さん。
「ナベプロのタレントは今後、一切出さない。ブロダクションと局が喧嘩すれば、必ず電波が勝つ!」
といっても、なんといってもたくさんのタレントを抱え、ベストテンに必ず入ってくるはず。
そこで相談。だれに? ホリプロ、田辺エージェンシー、サンミュージックといった、その他の芸能プロダクションの経営者たちにだ。
この人、元々、慶応時代にバンド活動をしてたのね。で、リーダーをつとめるバンドの後輩にいたのが堀威夫さん、堀さんの弟分が田辺昭知さん。サンミュージックの社長の相沢さんも同じバンド仲間。ナベプロの晋さんもそうだけど、バンドをマネジメントしてた人たちがそのままプロダクションになり、経営者になってたわけ。
だから、相談すれば話が早い。みな、OKしますよ、そりゃ。
いわば、巨人ガリバーにみなで立ち向かっていったという感じかな。
図体が大きくなると、どうしても、コミュニケーションが悪くなる。
どんな会社でも、「社長! ちょっと話が」なんて気楽だったうちはコミュニケーションも良かったけど、秘書室なんてものができると垣根ができちゃうでしょ?
「ちゃんとアポをとってから来てください」なんてね。これが見えない壁を作ってしまうんだな。
大きくなれば、フットワークが鈍くなる。その鈍さは幹部、スタッフ、マネジャーたちでいくらでもサポートできる。
だが、それはあくまでも経営者に直言したり、経営者が聞く耳を持っているということが大前提であることは言うまでもない。ここが弱かった。アキレスの腱だ。
人材は優秀であればあるほど個性が強い。彼らを活かさなければ、どんな会社にも未来などない。どんどん優秀な順に辞めていく。
タレントの独立、解散も増えてきた。森進一、小柳ルミ子、痛かったのはキャンディーズ。社長も副社長も知らない中に「普通の女の子に戻りたい」という宣言をされてしまったのだ。
アミューズ(桑田佳祐など)を経営する社長はキャンディーズの元マネジャー。
「スターといえども、不安でしょうがない。売れれば売れるほど、社長と話をしたがるもの。しかし、一度もそんな機会がなかった。もし3人とわたしを含めて一度でも食事会でもしていたら、事態は変わっていたと思う」
「ああはなりたくない」
ほかの芸能プロダクションの経営者たちはそう考えたと思うよ。いわば、反面教師。これもナベプロが北極星だからできるわけです。
歯牙にもかけないという会社じゃないもの。なんつったって、芸能プロの王者だからね。250円高。
ナベプロこと、渡辺プロダクションは芸能会社の「北極星」だったんだなぁ。そんなことがよくわかる本です。
ザ・ピーナッツ、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、梓みちよ、木の実ナナ、奥村チヨ、望月浩、森進一、布施明、なべおさみ、藤田まこと、野川由美子、クレージー・キャッツ、ブルーコメッツ、ドリフターズ、加山雄三、沢田研二、小柳ルミ子、天地真理、キャンディーズ、吉川晃司・・・タレント250名、社員110名。
といっても、この中で知らないタレント、たくさんいると思うんだよね。
それにお笑いの人が入ってないでしょ。さまーずとかホンジャマカとかさ。
なぜかというと、この本、いまから15年も前のなのよ。なんで今ごろ読んでるかというと、仕事場を整理してたら出てきたの。
あっ、この本、ずっと探してたやつだ。
「ちょっと遅いんだよなぁ」と思いつつチラチラ見てると、ふんふん、ふんふん、とそのまま読んでしまいました。
もっと早く読めばよかった!
「興亡」という通り、創業期から全盛期を迎えて、そのまま衰退・・・というシナリオなんだけど、それは15年前の本だからね。
実は吉本興業の中邨さん(元社長、会長)もホリプロの堀威夫さんも私がプロデュースしたんだけど、いまでも思い出すのは、15年前に中邨さんが言ってたこと(この人、門外漢の私には愚痴とかなんでもこぼしてたからね。当時、社長の予定は中島さんに聞いたほうが早い、と秘書が言ってたくらいです)。
「ナベプロがお笑いタレントを育てようと考えてるらしいけど、どう思います?」
「えっ、お笑いでしょ? 棲み分けができてるんじゃないですか? お笑いは吉本の天下でしょう?」
しかし、中邨さんは危機感を持っていましたね。もちろん、松竹芸能についてはもっと熱い視線をおくってたと思うけど。
このセンスというか、感覚は経営者として立派ですね。
15年前、ほかの芸能プロダクションがどんどんのしてきてました。
たとえば、ホリプロ(山口百恵など)や田辺エージェンシー(タモリ、堺正章など)、それにサンミュージック(松田聖子など)。松田聖子など、元々、ナベプロの九州支社が大推薦し、家族にも内諾を得て、本社にぜひスカウトするようにと履歴書をおくったにもかかわらず、「がに股で魅力無し」と却下。
でも、お笑いがブームになりそうだ、と仕込んだタネが、いま、花開いてる。これをだれが仕込んだかはわからない。けど、ダメなことばかりではなかったね。
ナベプロは渡辺晋という人が創業した会社。奥さんは美佐さん。
元々、晋さんは早稲田の苦学生。終戦後、「アメリカの音楽が金になるぞ!」と寮の仲間から聞いて、あわててギター、ベースをはじめる。なんの素養もない。けど、寮には後に音楽で一流になる人間がいた。
で、懸命に頑張る。
同時に、即席ジャズバンドを進駐軍の倶楽部などに送るマネジメントにも精を出す。これが性にあった。
当時、そんな仕事をしていた人間は5000人いたらしい。でも、その後、会社組織にして、タレントを集め、ダントツの成功を収めたのはこの人だけだった。
1位ナベプロ、2位ホリプロ。でも、その差は10倍もの差があった。
どこが違ったのか?
ナベプロ成長神話のスタートは、やはり、テレビ時代の幕開けと比例している。
映画が一流、テレビは三流。だから、映画俳優はテレビには出ない。予算もなかった。ラジオにすらバカにされる始末。
そのラジオのディレクターをしていた「すぎやまこういち」という人物がフジテレビに出向する。そして、新番組を担当する。これが「ヒットパレード」だ。
しかし、フジテレビ内でもだれも相手にしない。予算もない。けど、意地でスタートした。ないない尽くし、局内に理解してくれる人もいない。四面楚歌。
ダメもとで晋さんに相談。
「外国の歌を日本語で歌わせる? 面白いね」
この人だけが理解してくれた。
「ただ働きでいいよ。うちのタレントを出そう。そのかわり、全力を尽くして大成功させよう」
実態はただどころか、毎回、ナベプロの持ち出し。当時のお金で毎週50万円のロス。1年続けば2000万円のロス。
1カ月前だというのにスポンサーもつかないけど、この番組に賭けた。
それが大成功。
以降、ほかのテレビ局でも番組構成、CM制作、映画製作にまで進出した。「シャボン玉ホリディ」「8時だよ、全員集合!」「なんである、あいである」・・・。
そのほかに、レコード会社を向こうに回して原盤権、いまでいう著作権ビジネスにも進出。これで大儲け。
「あぁなりたい、あんな会社にしたい」
みながその仕事のやり方を注目し、そして真似た。だから、「北極星」だと言ったわけ。
しかし、そんな星でも墜ちる時は墜ちる。興亡だもの。亡もある。それについては、本文にじっくり書いてある。
ひと言で原因をいえば、会社が大きくなりすぎたことか。
大きくなれば、自信も持つけれども、そこに傲慢、慢心という危険もつけいって来やすいものね。
ナベプロ凋落を決定づけたのは、日テレの「紅白歌のベストテン!」という番組が、ナベプロ肝いりのオーディション番組「あなたならOK」(テレビ朝日)とかぶった時のこと。
いつもは温厚な晋さんがなんと言ったか?
「そんなにうちのタレントに出てもらいたければ、放送日を変えたら?」
この一言に切れたのが、日テレの制作責任者だった井原高忠さん。
「ナベプロのタレントは今後、一切出さない。ブロダクションと局が喧嘩すれば、必ず電波が勝つ!」
といっても、なんといってもたくさんのタレントを抱え、ベストテンに必ず入ってくるはず。
そこで相談。だれに? ホリプロ、田辺エージェンシー、サンミュージックといった、その他の芸能プロダクションの経営者たちにだ。
この人、元々、慶応時代にバンド活動をしてたのね。で、リーダーをつとめるバンドの後輩にいたのが堀威夫さん、堀さんの弟分が田辺昭知さん。サンミュージックの社長の相沢さんも同じバンド仲間。ナベプロの晋さんもそうだけど、バンドをマネジメントしてた人たちがそのままプロダクションになり、経営者になってたわけ。
だから、相談すれば話が早い。みな、OKしますよ、そりゃ。
いわば、巨人ガリバーにみなで立ち向かっていったという感じかな。
図体が大きくなると、どうしても、コミュニケーションが悪くなる。
どんな会社でも、「社長! ちょっと話が」なんて気楽だったうちはコミュニケーションも良かったけど、秘書室なんてものができると垣根ができちゃうでしょ?
「ちゃんとアポをとってから来てください」なんてね。これが見えない壁を作ってしまうんだな。
大きくなれば、フットワークが鈍くなる。その鈍さは幹部、スタッフ、マネジャーたちでいくらでもサポートできる。
だが、それはあくまでも経営者に直言したり、経営者が聞く耳を持っているということが大前提であることは言うまでもない。ここが弱かった。アキレスの腱だ。
人材は優秀であればあるほど個性が強い。彼らを活かさなければ、どんな会社にも未来などない。どんどん優秀な順に辞めていく。
タレントの独立、解散も増えてきた。森進一、小柳ルミ子、痛かったのはキャンディーズ。社長も副社長も知らない中に「普通の女の子に戻りたい」という宣言をされてしまったのだ。
アミューズ(桑田佳祐など)を経営する社長はキャンディーズの元マネジャー。
「スターといえども、不安でしょうがない。売れれば売れるほど、社長と話をしたがるもの。しかし、一度もそんな機会がなかった。もし3人とわたしを含めて一度でも食事会でもしていたら、事態は変わっていたと思う」
「ああはなりたくない」
ほかの芸能プロダクションの経営者たちはそう考えたと思うよ。いわば、反面教師。これもナベプロが北極星だからできるわけです。
歯牙にもかけないという会社じゃないもの。なんつったって、芸能プロの王者だからね。250円高。