2004年07月26日「セックス・ボランティア」「運をつかむ人 16の習慣」「anego」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「セックス・ボランティア」
 河合香織著 新潮社 1500円

 「週刊新潮」に連載されてる時に、少し読んでました。わたし、基本的に連載ものって読まないんです。
 あとで単行本になった時に、一気に読んでしまえばいいでしょ?
 どうせ単行本にする時、連載原稿の中身をさらに充実、膨らませて、まとめることが多いもんね。

 このテーマ、深刻ですな。
 障害者の性って、ともすれば、無関心、いや、そもそも気づかない。気づこうとしない分野ですものね。

 けど、やっぱり恋愛はしたいし、性欲だってあります。
 いい女をみたら、「やりたい!」と思うし、いい男と会ったら、「抱いてもらいたい」と思うわけ。
 これって、自然でしょ?

 けど、自然じゃないの。自然じゃない人が少なくありません。

 なぜって?

 自分でセーブしちゃうからです。

 障害者だから恋なんかしちゃダメ。どうせ相手にされないんだから、自分が傷つかないためには、最初から諦めることよ。
 こういう「訓練」を物心ついた時から、周囲に強要されるし、自分でもそう考えるようにしてきた。
 だから、自分の本心をセーブしちゃう。

 そこに性の介助者が現れた。ボランティアですね。
 「セックス・ボランティア」は障害者の性の解決をするのが使命。
 
 たとえば、ソープランドに連れてってあげる。
 けど、以前は十六軒目でようやくOKになったってこともあるとか。

 恋のコーディネートもしてあげる。恋って、「こうでぃねーと」いけないってなわけです(これ、代表的なオヤジギャグなんだって)。

 竹田さんは昭和7年、栃木県の生まれ。
 新生児黄疸にかかって、脳性マヒになりました。おさない頃から手足が不自由。機能回復のために手術を何回も受けます。肋膜炎、気管切開で声を失い、いま、車いすの卓上に置かれた文字盤を使って会話する生活。

 五十一歳までセックス経験のなかった彼が、突然、どうして風俗店に行きたくなったのか?
 「オツキアイ シテイタ ヒトガ ナクナッタカラ」
 十五年間、つき合っていたそうです。相手はみどりさんという看護婦さん。

 せっかく知り合ったものの、五十日後に病院を辞めちゃうのね、この女性・・・不治の病で。
 病院を転々とし、それでも改善できなくて、その間、竹田さんと交互に見舞いに訪問したり、されたり。
 で、自分の未来に絶望し、ノイローゼになり、そして鉄道自殺。

 みどりさんとセックスしなかったの?
 「クチ・・・ト・・・ク・・・チ」
 キスどまり。
 「イチド・・・ダ・・・ケ」

 子どものような恋。

 「好きだ」とクチに出してはいけないと心で決めてた。

 なぜって?

 本当の恋だから。

 「イチド デ イイカラ カノジョト セックス シタ・・・カッタ」

 文字盤の上に涙がこぼれ落ちた。

 二〇〇三年六月、みどりさんのお墓参りに行くことを決心します。もちろん、ボランティアがいなければできませんよ。

 東北のある町。田圃脇の林の中、小さな小さなお墓。

 二十三年間も来られないでゴメンね。

 「ムネ ガ イッパイ ズット・・・アイ ニ キタカッタ サビシカッタ」
 「アヤマッテ・・・イタ コンナニ オソクナッテ」

 あの世はあるんでしょうか?
 「ワカラナイ」
 「デモ アッテ ホシイ カノジョ ニ アエル カラ」

 人って、愛し、愛されるために生きてるんだよね。これ以上の価値って、わたし、ないと思います・・・けど、それすら封印しなければいけない・・・なんて、哀しすぎるよなぁ。
 400円高。
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2 「運をつかむ人 16の習慣」
 マーク・マイヤーズ著 三笠書房 1400円

 運って、いちばん難しいテーマですな。
 みんな、幸運になりたいって考えてるでしょ?
 お寺に行っては祈願し、神社に行っては祈願し、教会に行っては祈願し、霊能者、易者の前でも祈願し・・・もうお願いばっかり。
 「だって、こうすると運がよくなると思って・・・」

 運のためならなんでもします!

 たしかに・・・。一所懸命さだけでは成功しないものね。プラスαがないとね。
 このプラスαを運に求めちゃうわけさ。

 「運がいい人」ってのは、いいことが起こった数が多いわけではありません。「いいこと」しか記憶に残っていないのよ。
 で、「運が悪い人」ってのは悪いことばかり起きてるわけじゃなくて、「悪いこと」しか記憶に残ってないの。
 運の善し悪しって、そういうことだと思うよ。

 結果がよければ運がよかった。結果が悪くても、「いい勉強になった」と考えちゃう。心の切り換えスイッチがポジティブで、アファーマティブで、アサァーティブで・・・。まっ、ある意味、手前勝手に考えちゃうのよ。
 だって、起きたことはしかたないじゃない。クヨクヨしたってはじまらないじゃないの。
 ならば、すべてを過去という時間の中にたたみ込んで、「キャリア」にしてしまうのよ。端から見ても、そのほうがずっと健全だと思うな。

 てなわけで、「16の習慣」っていったいどんなものか、まったく覚えてないけど、自分なりに運の法則というか、幸運を招く習慣を考えといたほうがいいかもね。
 150円高。
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3 「anego」
 林真理子著 小学館 1600円

 実は著者の小説を読むのは、今回がはじめて。「絶対、これ、読め」と強く推薦されたんで、買ってしまいました。

 正解!

 エッセーは何冊か読んだことありますし、週刊誌の対談は軽妙洒脱で面白いですよね。
 「よく、こんな質問できるよなぁ」と感心することも少なくありません。

 彼女の人気の秘密が、これ一冊でよーくわかりました。エッセー以上に面白かったですね。

 主人公は「三十代半ば、独身、子無し」・・・といえば、酒井順子さん流にいうところの「負け犬」。
 負け犬の条件とは三つありまして、「嫁がず、産まず、この年で」。平たく言うと、主人公のことでしょ?(未婚とは離婚経験のある場合も含まれるそうです)。

 もてるんですね。
 どさくさのバブル入社で人気商社に勤め、スタイル抜群、美人だし、セフレもそれなりにいるし、けど、どういうわけか、結婚とは縁がない。

 こういう人、知り合いにもたくさんいます(というより、「三十代、独身、子無し」の女性のほうが魅力的な人が多いのは、どういうことなんだろね?)。

 後輩の女性社員からも慕われてるから、「アネゴ」って呼ばれてるわけ。
 実際、セクションの垣根を越えて、後輩からは相談がたくさん舞い込んで来ちゃう人。
 これは子どもの頃からそうだったようで、「おまえ、もう男のほうは諦めろ。それだけ女にもてるんだから、そっちで頑張れ」と身内から変な誉められ方をされちゃう始末。

 で、こんな頼りになる、イカした主人公が、社内のトラブルシューターとして活躍する。それがこの小説。

 合コン、お持ち帰り、セフレ、見合い、失恋、かりそめの恋、そして泥沼・・・と、この世代の女性が体験しがちなパターンのすべてが満載。

 体験者には「あぁ、そうそう、私もそうだった」と共感を呼び、未体験者からは「女って危ない職業なのよね」ってリスクマネジメントにもなる一冊・・・てとこかな。

 けど、わたしのような男の読者にとっては、どういう読み方ができるんだろう?
 女性心理の勉強?

 さぁて、いろいろあるでしょう。
 けど、楽しんで読む。これがいちばん。教訓なんてしゃらくさいことは考えなくていいの。感じるところを感じればいいわけ。
 だって、小説ってそういうものでしょ。
 300円高。
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