2004年06月14日「マーケティング22の法則」「流行る店」「三つのお願い」
1 「マーケティング22の法則」
ジャック・トラウト著 東急エージェンシー 1456円
勝てるマーケティングの法則を22のポイントと豊富な事例による解説で検証した好著。
しかし、マーケティングの本ほど「後付け理論」はありませんな。
現場では仮説、実験、結果の検証、対策立案、再挑戦・・・こんな繰り返しでマーケットや消費者に受け容れられる「勝てるマーケティング」に仕立て上げていくのが、マーケティングなわけです。
いわば、勝てるマーケティングの裏には死屍累々たるマーケティングの理論と実践があるわけですな。
というわけで、本書はポイントを絞り込んで法則化してるってわけ。
たとえば、「一番手の法則」。
マーケティングの基本の基本は「先頭を切れる分野を創造すること」にあります。
ここ、勘違いというか、錯覚してる会社も人も多いけど、間違えちゃダメですね。かくいうわたしも八年前に痛感しました(詳しくは言わないけど)。
比較優位では勝てないんです。勝つためには一番手でないといけないんです。
かつて、松下電器は「まねした電器」と揶揄されるほど、ソニーなどの開発会社の後追いをしていました。当時、副社長を務めていた人など、「すぐ製品化できるのは基礎技術があるからだ。いつでも追いつける自信があるからだ」と言いました。そこから、「ソニー・モルモット論」も登場したのかもしれません。
この背景には、全国28000店もの販売代理店があるという強みがありました。対するソニーはたったの1500店しかありませんからね。松下にとっては、販売店の多さが勝てるビジネスモデル、勝てるマーケティングの法則だったわけです。
けど、この法則もすでに終わりを告げています。
量販店の台頭、通販の普及、その他いろいろの変化がありますけど、ポイントはブランド価値に注目する顧客が増えているからではないでしょうか。
「似た商品だけど、やっぱりこれじゃないとダメ」
やはり、一番手の商品が欲しいわけですよ。たとえ二番手商品のほうが付加価値があったとしてもですよ。いわば創業者利益です。
いかに後発でいい商品を作っても、一番手を追い越すためにはものすごいエネルギーが必要になってくるんですね。そのエネルギーが松下の場合は膨大な数の販売店が寄与していたというわけです。
著者はこんなたとえで言及しています。
・大西洋を最初に単独で横断飛行した人物の名前は?
もちろん、チャールズ・リンドバーグですね。
・では、大西洋を二番目に単独飛行した人物の名前は?
これは出てこないでしょう。トリビアでもね(正解はバート・ヒンクラーです)。
どんなカテゴリーであれ、マーケットをリードするブランドは、顧客の心に最初に入り込んだものなんです。マーケティングにおいて、もともムダな行為は「人の心を変えようとすること」にあります。
じゃ、ある分野で一番手になれない場合はどうしたらいいのよ?
そう、その時は一番手になれるカテゴリーをこしらえるしかないんです。
大切なことは、「この新商品は競合商品よりどこが優れているか」ではなく、「どこが新しいか」なんですね。
「知覚の法則」では、ハーレーダビットソン社がオートバイメーカーとして知覚されていることが、実は同社の車の足を引っ張っている、と喝破。その車の品質がどんなに良くても、なのね。
たとえば、コーラ。
味の面ではニュー・コークがベスト。次がペプシ、次がコカコーラ・クラシック。これはコカコーラ社の調査だから、ベストは自社商品になってるのかな。
けど、実態は一番がクラシック。二番がペプシ、三番がニュー・コークなわけ。
これ、どう説明する?
「わたしたちは信じたいと思うものはを信じる」
同様に、味わってみたいという商品を買うわけ。ソフトドリンクの世界の戦いは、純粋に味の戦いではなくて、知覚の戦いなんですね。
この指摘は面白いと思う。
ここ、心理学的なアプローチでいくらでもマーケットを動かすことができるってメッセージですよ。
コカコーラが勝つには、ニュー・コークを捨てなければダメですな。これが足枷になって、実はブランドが曖昧になっちゃってるのよね。
てなわけで、ほかに「カテゴリーの法則」「心の法則」「集中の法則」「独占の法則」「二極分化の法則」などなど、22の法則が解説されています。
ここで大切なのは裏読みができるかどうか。それとすべてアメリカ企業を中心とした外国のケースばかりですからね、これを日本企業の商品とどう連想しながら読み進めることができるか。
これがポイントかな。
150円高。
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2 「流行る店」
吉野信吾著 日経BP社 1400円
チェーン店とかじゃなくて、居酒屋、焼鳥屋、和食店、イタリアン、なんでもいいんだけど、オーナーが新規出店をするとき、どうすればいいかをまとめてる1冊。
著者は元々、「ポパイ」の編集者だったんだけど、商業施設の設計やプロデュースをしてるうちに、飲食店の新業態をプロデュースするようになったみたい。
たとえば、麻布十番に「ラッキー酒場」ってのがあるんだけど。これ、似たような店を五反田、恵比寿、自由が丘でも見たことあるけど、もし、チェーン店でなければ、このラッキー酒場のコピーですな。
この店は、昭和30年の普通の家をイメージして提案したもの。
だって、まだ大江戸線もない頃の麻布十番で、絶対に失敗が許されないという条件で作ったものだもの。
あの頃、麻布十番は不便でしたね。わたしゃ、歩くのが好きだし、タクシーという手もありますから六本木よりも行ったと思うけど、ホント、町全体は商店街、下町なのよ。そこに小洒落た店がぽつん、ぽつん。
その中にこういう変な店が登場したわけ。
普通の家だもの。この中に普通のちゃぶ台があって、周囲は映画のポスター(もちろん、当時の)とか、当時の流行歌が流れてるわけ。いわば、横浜のラーメン博物館の居酒屋版よ。
で、志村けんさんがふらりと寄ってから、口コミで芸能人とかに広がったというわけ。そういえば、先週も深夜番組に登場してました、この店。
というような、プロデュースをしてたのです、この著者は。
結論です。300ページほどありますが、前半の200ページは読む必要はありません。ポイントはラストの100ページです。
ここからが各論というか、細かいアドバイスなのね。
たとえば、飲食店の利益率。これは25パーセントが適正水準。これが基本。あまりに高ければ、いずれ愛想をつかされる。低ければ、店じまい。
ねっ?
自分自身で棚卸しの計算をする時のコツ。それは仕入れた飲食材をすべて使い切ったとして勘定するわけ。つまり、在庫ゼロとして計算します。
その上で、25パーセントの利益率になっていれば、その月は成功とみなす。
経営はそんなに複雑ではありません。支出よりも収入が多ければいいわけです。もちろん、人件費や税金、家賃も勘定に入れないといけませんけどね。。
適正在庫はワインセラーなどが充実しているケースを除けば、ざっと20パーセント以下にしておくべきです。つまり、在庫調整もこの範囲で考えろ、ということです。
よくあるけど、チラシを外で配っちゃダメ。
ランチはやっちゃダメ。
ハッピータイムを設けちゃダメ。
だって、考えてみればわかるけど、チラシ配ってる店ってろくなのないもの。「いま、空いてます」「がらがらです」というメッセージだもの。
ランチでいくら美味しくたって、夜、同じ店に行くかなぁ。
「前日の食材を使える」
「どうせ家賃は一緒だし」
「少しでも稼ぎたいし」
こんな理由でランチをはじめます。もちろん、「店を知らせたい」という気持ちもあるでしょう。
すべてをパフォーマンスで計算すればいいと思うけど、売上と人件費、人のやりくり、消耗度、手間暇などをすべて考慮に入れると、うまいマネジメントの店でも、まっ、赤字にならない程度といったところでしょう。
わたしの知人が経営する横浜元町のバーでもランチをやってます。朝五時まで生ピアノと外国人シンガーのジャズ、ブルースを聴かせる店ですけどね。深夜もお客がそこそこ入ってます。
でも、やはり、「ランチは赤字にならない程度ですよ」と言ってました。厨房に三人、人を入れてますけど、これで赤字にならないんだから立派なものだと思いますよ。
飲食店を経営しようという人には最適じゃないかな。
コンサルタントが書くような標準的な本ではないから、それなりに生身の息づかいが感じられる内容になってます。
150円高。
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3 「三つのお願い」
ルシール・クリフトン著 あかね書房 1260円
光村図書版の国語教科書(4年生)に載ってる童話ですな。
「自分の生まれ年に発行された1セントコインを拾うと、3つの願いが叶う」という逸話があります。
ゼノビアという女の子は生まれ年のコインを拾います。
最初は信用してなかったけど、「この寒さ、どうにかならないかしら」と言った途端に、太陽が輝きだして温めてくれるのてす。
「あれ、いきなり望みが叶っちゃう」
友達のビクターが驚きながらも、あと2つの願いを考えようよと促します。
残りの2つの願いって、いったいどんなものなんでしょうかねぇ。2つの願いも見事に叶えてしまいますけど。
何なんだろう?
願いって、普段から温めてないと出てきませんね。
受験生なら「合格」?
就職活動してる人なら「内定」?
片思いの彼女なら「恋の成就」? ってところかな。
けど、求めてる時が辛いけど楽しいね。手に入れちゃうと、次の願いをまた探さないといけない。手に入れられなければ、願いはずっとフリーズしたまま。
でも、もっと本当に大切な願いがどこかから現れてくるかもしれません。
すると、その瞬間、「いままで思い描いていたあの願いって、いったい何だったの?」となってしまうでしょう?
人生ってそんなものじゃないか、と時々思うことがあります。
願いは一種の熱病かも。冷めないと、その価値がわからないってやつね。
ゼノもいつも一緒に遊んできた親友のビクターと喧嘩したり、母親のアドバイスを聞いたりしながら、本当に大切な願いに気づいていきます。
たった31ページの絵本だけど、いろんなことに気づかせてくれる1冊・・・です。
350円高。
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