2006年05月26日「沈まぬ太陽」 山崎豊子著 新潮社 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 ホリえもんが拘置所内で貪り読んだ1冊だそうです。
 『不毛地帯』『華麗なる一族』の山崎豊子さん原作です。小説としては傑作ですな(事実はかなり違うみたいだけど)。

 この本を差し入れてもらった気持ち、どことなくわかります。
 孤立無援、四面楚歌、仲間の裏切り、人徳不足、得意からどん底へ。
 「1人になってもやってやる!」
 きっとエネルギーをチャージしたかったんだと思うな。
 けど、日航機墜落事故の御巣高山にまで行くくらいだから、よっぽど共感したんでしょうな。

 というわけで、ちょっとご紹介しましょうか。

 舞台はだれがどう見たって、これ、日本航空です。そう、航空会社を舞台にしたロマンと非情の小説なのね。

 主人公の恩地元は乞われて労働組合委員長に就任するわけ。
 労働条件の改善をもぎ取るために懸命に活動。
 
 組合員のために労働交渉をすることは、企業の役員や上層部には許せない。
 なぜなら、彼が就任するまでは御用組合ですから、経営者の言いなり。委員長も出世の階段として委員長を考えていたからね。
 当然、ストなんか考えない。
 ところが、彼は首相搭乗機をストで飛ばせなくしようと画策。官僚出身の役員、政府に頭が上がらない経営者ばかりの会社では責任問題に発展する。ここがねらい目。
 揺さぶりをかけたわけ。

 当然、報復人事を受けます。会社から危険分子扱いされて、嫌がらせを受けます。
 カラチに飛ばされ、イランに飛ばされ、その後、就航してないナイロビに単身赴任。数十年も家族とバラバラの生活をするわけ。実母の死に目にも会えない仕打ち。

 そうこうする中、利益至上主義のこの航空会社では大事件が発生します。
 飛行機墜落ね。責任逃れをし、保身ばかり図る経営陣。その中で遺族と対話を続け、なんとか信頼を得ていく恩地。再建者として火中の栗を拾う会長に見いだされ、恩地は本社にカムバックします。しかし、その会長も政治家と官僚によって、志半ばで退任させられてしまう。

 小説としてはものすごく面白い。とくに、日航の経営がめちゃくちゃだから、よけい真実みがある。
 けど、どこまでいってもやっぱ小説。その点をきっちり弁えて読まないとね。「すごい、こんな人がいたんだ!」と感動してるホリえもんには悪いけどさ。200円高。