2004年04月26日「視聴率の戦士」「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」「陰の季節」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」


1 「視聴率の戦士」
 伊藤愛子著 ぴあ 1600円

 テレビ業界のヒットメーカー16人にインタビューした本。
 売れっ子脚本家でもある三谷幸喜さん、「踊る大捜査線」の君塚良一さん(前回紹介済み)、宮藤官九郎さん、テレビプロデューサーとしては、フジの貴島誠一郎さん、大多亮さん、関口静夫さん、日テレの土屋敏男さん、とかね・・・考えてみりゃ、そうそうたるメンバーじゃん!

 ひと言で表現すれば、「俺たち、こんな気持ちで番組作ってるんだぜぇ」という熱い思いが伝わってきます。

 彼らに共通するのは、自分が携わった番組(映画)は視聴率の小数点第一位までしっかり覚えてるってこと。
 「過去の栄光」ということもあるし、「復讐」「臥薪嘗胆」「怨念」という気持ちもしっかり持ってるし。前、日テレのディレクターだかが担当番組の視聴率をあげようとインチキしたのがバレたけど、やっぱり一喜一憂しちゃうみたい。
 まっ、彼らには視聴率が成績表だものね。

 けど、スタンスとしては「自分が面白けりゃ、それでいい!」だって。
 まっ、尻をまくらないと、こんな厳しい仕事できませんよ。だって、視聴率とってる番組ブロデューサーなんて、用もないのにテレビ局内の各フロアに顔出すわけ。肩で風切手歩いてるもの。
 ところが、担当する番組が次から次へと視力検査(視聴率が低いわけ)というプロデューサーはだれにも顔を合わせたくない。天中殺が過ぎるまでは、貝みたいに引きこもっちゃうわけ。
 まっ、営業マンは毎日、毎月、こんな思いをしながら、仕事してるんですけどね。

 「木更津キャッツアイ」「池袋ウエストゲートパーク」など、本放送の時は視聴率あまり稼げなかったのに、DVDになったら爆発。
 これ、「踊る大捜査線」もそうだった。
 なぜか?
 そもそも、これを見てもらいたい対象の視聴者って、この番組やってる時間、家でテレビなんか見てる人じゃないのね。
 にもかかわらず、そういう人相手の番組作っちゃった。これ、ミスマッチ。
 そういう事情を考慮すれば、案外、視聴率的には健闘したんじゃないかな。

 「同情するなら金をくれ!」というセリフで評判になった「家なき子(日本テレビ)」。あの子役から抜けられない女優さんの出世作なんだけど、これ、元々は「フランダースの犬」のようなイメージで作ろうとしてたらしい。
 元々はいい子が主人公だったわけ。
 「なんか、もう一つパンチがないなぁ」
 で、悪ガキのキャラクターに反転しちゃったら大ブレイク。「土9」のイメージを破壊してしまいました。

 「テレビをつけっぱなしにして、脚本、書いてる」(君塚良一さん)
 手塚治虫さんも同じ。テレビに気をとられたら、「負けた」と書き直したほどですからね、あの方。
 参考までに、わたしもそうなんです(わたしの場合、ラジオとCDも同時につけてますけど)。
 「自分のことしか考えていない。自分の番組だけ成功して欲しい、ほかのはすべてこけてほしい。そのくらいじゃないと勝てない。勝負というのはそういうものですよ」
 これは大多亮さん(フジテレビ)。いいねぇ、そうだよ。その調子!

 わたし、インタビュー本、大好きです。だって、肉声が伝わってくるじゃない。

 だから、インタビューすることも大好きです。情報ってのは一次情報がいちばん美味いんだよね。生ものって言ってもいいね。
 それに反して、第三者が介在したインタビューは、いわば、出前のラーメンみたいなもんかな。漬け物か。じゃ、聞き書きはっていうと、それはもう乾き物かレトルト食品て感じかな。
 250円高。
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2 「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」
 北尾トロ著 鉄人社 1238円

 いったい、なんちゅうタイトルかね。
 で、あなた、言える?
 わたしゃ、言えません。
 なんでかな。

 「嫌な人間」と思われたくからか。けど、「鼻毛、出てますよ」と親切で言ってるのに、嫌なヤツって思われるかな。
 「面倒?」
 うーん、それもちょっと違う。
 「どうでもいいこと?」
 そうかもしれない。たしかに、そんなこと、どうでもいいじゃん。
 「他人のことだしね?」
 ・・・そうかもね。
 「やっぱし、他人なんてどうでもいいんだ?」
 だから、そんな風には思ってないけど・・・。
 「でも、内心はそう思ってるでしょ?」
 うん、って冗談じゃない。曲解しないで欲しいな、わたしは親切な男なのよ。
 「親切と優しさって違うじゃん?」
 おっ、おぬし、なかなか鋭いこと言うなぁ。

 てなわけで、本書はトロさんによる突撃体験記です。

 たとえば、タイトルの鼻毛もそうだけど、「死ぬほどマズイ近所の蕎麦屋」に行って、「マズイ」「どうにかしろ」と直言してみる。これはこんな反応かな、というものでした。

 車内やお台場でひとりポツンとしてる男に向かって、「話、しない」「飲みに行かない」と誘ってみる。このリアクションがサイコーだぜぃ。やっぱ、ホモと間違えられるよな、これじゃ。

 車内でマナーをわきまえない人間に文句を言ってやる。これは予想できました。だって、相手がワンパターンの反応しかできない連中だもの。

 「42歳・フリーライター」が売り物になるのかどうか・・・。ハローワークに行って確認する。しかも、履歴書もちゃんと書いて応募し、面接に行くって企画。ここまでくると、「電波少年」の中高年版だよ。この結果は・・・まっ、予想通りでした。

 その他、たくさんたくさんトライしてます。

 つまり、普段、やれそうでできないこと。それをやっちゃおうという試みなんです。
 どれもハラハラしちゃう。「もう止めようよ」と気の弱いわたしなんて、ページを閉じたくなっちゃいます。
 けど、最後まで読んじゃった。

 いちばん良かったのは、「23年前、高校生の時に好きだった同級生に、この年になってコクる」という企画。これ、いいなぁ。懐かしいなぁ。
 「一瞬であの頃に戻った」って、トロさんは言ってます。たしかにそうかも。
 これ、芸能人にさせてた番組、あったよね。

 ここで一つ歌を。
 「初恋はレモンの味にて、少しすっぱく、少しほろにが」ってか。
 そういえば、最近、カラオケで「初恋」、唄ってないなぁ・・・。明日、行こうか。
 250円高。
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3 「陰の季節」
 横山秀夫著 文藝春秋 446円

 相変わらず、はまってます。当サイトでも、もう三回くらい紹介してるんじゃないかな、この人の本。
 仕事が手につきませんな。
 困るんだよね。だって、わたし、自分が書いてナンボなんですから。人の原稿読んでナンボなら、編集者になるとか、書評家になるとかね。
 まっ、とりあえずいきましょうか。

 内容は「陰の季節」「地の声」「黒い線」「鞄」の四つの作品が所収されています。

 まずタイトルにもなってる「陰の季節」は、警察の外郭団体ポストをどうしても降りてくれない人が出てきた。
 これは困りますよ、こういう縦社会は。縦社会だから、上がつかえてると下はあがれないのね。縦の関係だから。
 降りてくれないと、次の天下り待ちの人が着任できないわけ。

 「いったいどうして?」
 「おまえ、説得して退任させろ!」

 こんな命令を主人公は受けるわけ。
 で、この居座ってる人って、元県警刑事部長さんなんです。
 「娘の結婚式も決まったんで、やはり、肩書きが現役のまま送り出してやりたいのでは?」という思惑かなぁ。
 違うんですよね。
 この人、朝から晩まで社用車で現地に視察に行くわけです。いろんなトコにね。
 警察時代、管内で婦女暴行事件、婦女暴行殺人事件が発生して、これが迷宮入りになってたんですね。

 実はこの事件を追って、まだ刑事してたんですよ。
 いったい、なぜ? 主人公は今度はそれに関心をもって追いかけます。

 「地の声」というからには、天の声ってのもあります。小説のイメージとしては天地の地だな。
 というよりも、この人の作品はほとんどが「地」なんだよ。「裏」とか「下」とかね。「陰」もそうでしょ? ネガにスポットライトを浴びせて浮き上がらせる。そこにテーマをもってきたわけ。
 「地の声」は「生活安全課長(昔の防犯課長のこと)がクラブのママとできてるぞ」という密告から始まる内偵活動。
 警備畑から刑事課に「ベルリンの壁」異動となった男とコンビを組んで調べます。
 さて、なにが出てくるか。

 周囲からバカにされながらも、懸命に警察一家の中で誠実に仕事をしてきた男(生活安全課長)。その男が最後に逆転を狙います。その姿には共感するなぁ・・・。
 生きてきた証、働いてきた証。

 「おまえは十分よくやった!」

 自分で自分に卒業証書を出したいものですよ。


 「黒い線」は手柄を上げた婦人警官が失踪しちゃう事件。
 この婦人警官って、「顔FACE」という小説に登場する婦人警官なんだよね。「へぇ、あの子がねぇ」と感じて読みました。
 これは面白くなかったな。時間のムダでした。

 「鞄」は曇天返しを楽しみに。
 まっ、読んでみてよ。
 250円高。購入はこちら