2006年06月16日「歌丸ばなし」  桂歌丸(聞き書き) うなぎ書房 2100円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 歌丸さんの噺家人生の来し方を辿ったものですな。まっ、こんな内容になるでしょうと想像がつきます。
 けど、新しい発見がいろいろ。

 いまや、歌丸さんといえば、「笑点」の看板スター。なにしろ、日テレって、「金魚屋さん」て業界で呼ばれてるの。
 その心は? 「夏はいいけど、冬さっぱり」ってね。
 ほら、夏は巨人戦があるからさ(いま、巨人戦では視聴率は取れないよね)。なもんで、日テレを代表するのは「笑点」という番組なのよ。

 笑点には、いまのレギュラー出演者のほかにいろんな噺家が出演してきました。いちばん好きだったのは、三遊亭小円遊さん。キザが売り物の噺家ね。歌丸さんと端っこに座って、ケンカばかりする犬猿の仲でウケてたの。
 次に、梅橋さん。元の小痴楽ね。この人は切れる噺家でね。三大話や謎かけなんかさせたら天下一品。たとえば、弔いとかけて・・うぐいすと解く。その心は?
 泣く泣く埋め(梅)に行く。
 お見事、山田くん、座布団3枚!

 どちらも酒が原因で若死にしましたね。ザンネン!

 歌丸さんは昭和11年、横浜は真金町の生まれなのね。私の近所ですよ。だって、よく会いますもん。道で会うと、わかりません。普通のじいさま。
 で、元々は富士桜という遊郭のせがれなのね。といっても、お祖母さん子。だから、わがまま。このわがままが原因で噺家生活もしくじります。
 歌丸さん、見たからに反骨精神旺盛でしょ。一筋縄ではいかない人。

 中学3年の時に、弟子入りします。
 だれに?
 歌丸だから、桂米丸か? ビンゴ! ただし、これは2番目の師匠。元々は古今亭今輔さんだよ。
 けどね。ちょっとしくじっちゃって(これ、噺家特有のジャーゴンね。トラブッたってこと)。2年半というもの、師匠のとこに行けなかった。もち、席亭にも出られません。
 で、ドサまわり。けど、食えないでしょ。だから、ポーラのセールスマンやってたんだって、奥さんと。しかしねぇ、歌丸さん、化粧品なんて詳しくないでしょ。ポマードと洗顔クリームを間違えてお客から偉く怒られたらしい。だから、奥さんが稼いでたわけ。
 その後、取りなしてくれる人がいてね。今輔師匠にわびを入れるわけさ。

 けど、1度、出て行った弟子を入れるのは具合が悪い。なにより、本人が縮こまってしまう。それを案じて、今輔さんは惣領弟子の桂米丸さんに預けます。
 でもさ、ご両人とも新作落語派でしょ?
 いま、歌丸さんは完璧古典派だもんね。落語の神様、三遊亭圓朝の「牡丹灯籠」「真景累ガ淵」なんて大ネタやってますよ。
 でもね、元は新作なのよ。

 「もう新作はできません」だって。でも、新作に切り換えた時には、しばらく、殿というところを社長なんて言っちゃってたらしい。

 趣味の渓流釣りは有名ですよね。この人、落語に関する自著は一冊もないの。今回の本だって、絶対に、聞き書きの相手(インタビュアー)に押されてしぶしぶOKしたんだと思うよ。けど、釣りに関しては出版してんだよね。
 「噺家は噺を聞いてもらうもの、読んでもらうなんて、そんな野暮なこと・・・」
 そう思ってたはずだよ。

 ほかに、化石集め、切手集めだって。化石集めっていえば、新宿紀伊国屋本店の地下一階に化石屋さんがあんだよ。キレイなんだよね。若い店員さんがいます。
 「売れる?」って、何回聞こうと思ったか。聞いたら、歌丸さん、ここの常連だってさ。やっぱいるんだ、お客さん。まっ、いなきゃ、店なんかオープンしないわな。
 けど、化石だよ? 歌丸さんは恐竜の卵の化石を2つ14万円で買ったってさ。
 なんというか・・・「これで玉子が何個買えると思ってるの?」と富士子さんから怒られるのもわかりますわな。

 てなことで、歌丸さん好きにはたまらない1冊。270円高。