2004年04月12日「出る杭も5億稼げば打たれない!」 「俺が黒字にしてみせる!」「欲望の迷路」
1 「出る杭も5億稼げば打たれない!」
平田進也著 小学館 1000円
著者は日本旅行に勤める営業マン。添乗員もやってます。
「ナニワで噂のスーパー課長」といえば、もうこの人。学生時代からテレビにでまくっていたそうな。
たとえば、「探偵! ナイトスクープ」「おはよう朝日です」とかね。
「探偵!」はわたしも大好きで関西に住んでた時はよく見てましたよ。
東京だと、とんでもない時間帯に放送されてるけど、たまに見てるよ。これが東京では視聴率取れないのがわからんのぉ、こんないい番組。
あと、あれなんて言ったかなぁ。局アナ(男ばかり)がずらり並んでバラエティしちゃうの。
で、この人はそれらを含めて何百回も出てるわけ。
面白いことが好き。コテコテの関西人ののりなんですね。で、テレビに出て、番組の中でタダで宣伝させてもらったりね。
ところが、こんなやり方を苦々しく見てるヤツがいるんですよ。
「ゲリラ商法だ」とかね。悔しかったら、本人の前で言えばいいのに。こういうタイプに限って陰で言うわけ。
わたしも経験あるからよくわかります。
「おまえの勝手な行動でみんなが迷惑してるぞ。そんなことよりルーティンワークを優先しろ!」
ホント、科白まで一緒です。
サラリーマン社会というのは、目立つ人間は打たれます。
で、「負けるもんか」と台湾旅行ツアーを「おはよう朝日です」で宣伝。これで670人もお客さんを集めちゃった。シンガポールでは600人。
こんなこと、普通の集客では絶対実現できませんよ。
だから、彼は5億稼げば打たれない、と言い切ってるわけ。
打たれてるという意識あるわけ。けど、それをお客さんをたくさんとって跳ね返してるわけですな。
でもね、ホントは5億稼ごうと打つんですよ、組織というのは。
この人、先々週の日曜日にもテレビ東京に出てましたな。東京人を関西で一泊二日、バス旅行で楽しんでもらうという企画。
題して、たしか「平田進也と行く コテコテ関西人になる旅」だったっけかな。まっ、こんなテイストの企画ですよ。
添乗員はやるわ、司会はやるわ、男芸者になりきるわ。相棒の桂小枝みたいな部下と一緒にお客さんを徹底的に楽しませるエンタテイナーです。
ホント、ナニワのこてこてエンタテイナーでおまんがな。
いまや、この人の回りには平田ファンという集いができてます。
営業マンはやっぱりこうでなくちゃいけません。
会社の看板を使ってどんどん自己実現する。いつか、会社の看板がいらなくなる。そのうち、自分の看板のほうが大きくなる。
いま、彼のお客さんはトータル6500人もいるんです。しかし、これを8倍増やそうとしています。
そうすれば、甲子園球場が満杯になるからですね。これで会社と貸借対照表、損益計算書が逆転するんです。
ある時、お客さんとの会話。
「今度、ハワイツアーを企画しようと思ってます」
「よっしゃ、ほな20人で参加するわ!」
「おおきに」
「ただし、条件がある」
「なんでしょうか?」
「一度でいいから、シェラトン・ワイキキホテルのハノハノルームで食事がしたい。これができるんやったらOKや」
これ、めちゃくちゃハードル高いですよ。
というのも、ハノハノルームはワイキキを一望しながら食事ができるレストランとして超人気スポット。多人数はとても無理。
現地に確認すると、ディナーはおろか、ランチタイムも向こう3カ月は満杯。
「そこをなんとか」
「どうにもなりません。ムリなものはムリです」
さて、どうする?
そこで、彼はどうしたか?
彼の信条は「どんなことになっても諦めないこと」。
ディナーはムリ、ランチもムリ。
「ならば、その間はどうなってるの?」
つまり、3時くらいにランチにしちゃえばいいんですよ。
めでたくセーフ。
こんなに人気のある平田さんですが、彼が旅行業に目覚めたのはいつなんでしょうか。
1980年、入社1年目。
1人でツアーに添乗員として参加した時のこと。「志賀草津高原ルート」を2泊三日で回るというもの。
不安的中!
大阪駅集合。40人ものお客さんを前にして、声は上づり。新幹線への誘導もままならず、乗り遅れそう。
お客さんのほうが慣れているから、さっさと動く。
名古屋で弁当を積み込むのに、業者との連絡をチェックしてないからどこにいるのかわからない。
業者のほうで探しまくってくれて、なんとか受け取り損なうことは避けられた。
バスに乗り換えても、観光案内がまったくできない。
お客さんは彼のダメさ加減に全員、呆れ果てているわけ。
で、どうしたか。
「添乗業務は未熟だけど、この旅が少しでも快適になるように一所懸命やらせてもらおう」
どこにでも見てる人はいるものです。だから、仕事には手を抜いてはいけないんです。
お客さんの中でリーダーだったのが、尼崎警察署の署長さん。
「アンタはな、この旅行がはじめてとゆうとったけど、ほんまになんも知らんのやな。客のほうがよう知っとる。添乗業務としては最悪や。でもな、この2日間見させてもろうて、アンタが偉かったのは、客のために一生懸命やってたことや。客は全部見とるもんやで、どうしてくれてるかいうのを。でな、これはアンタに対する、みんなからの気持ちやからとっときい」
で、渡されたのが紙袋に入ったたくさんの硬貨。
これ、泣けますよ。だって、硬貨だもの。千円札とか1万円札とかに両替されてない裸のまんまだもの。「金一封」とか書かれてない紙袋だもの。
形ではなく心が伝わって来るじゃないですか。
これが原点。だから、この仕事、辞められないのよね。
サラリーマンっていいなと思います。わたし自身、サラリーマンを13年もやりました。どんなに分からず屋の上司、会社だって、お客さんはちゃんと評価してますよ。
外部の人間のほうがよっぽど正当に見てます。
「頑張れ、平田さん!」と声を掛けたくなるよね。
250円高。
購入はこちら
2 「俺が黒字にしてみせる!」
杉野正著 かんき出版 1400円
著者は元ユニチャーム、エイチアイエス、そして、そこから出向のような形で「しなの鉄道株式会社」の社長に就任した人。
ホントはエイチアイエスの新規事業開発部長で、田中長野県知事に頼まれて、社長候補を探してたわけ。
ついでに勝算(再建できるかどうか)のリサーチをして、エイチアイエスの社長と田中さんに報告。
「しなの鉄道は絶対に再建できます!」
実はそもそも社長にしうとしていた人間はネガティブな意見を言ってて、田中さんはどうも乗り気ではなかった。
ところが、こんな元気のいい報告が飛び込んだものだから、「あなたがいい!」とラブコールを送られてしまったわけです。
この人、言ってみれば、プロのサラリーマンだから、「君、行ってくれ」といわれるままに転任。
そこから、この再建物語はスタートします。
といっても、この鉄道会社はとんでもない「ザル会社」でして、従業員も親方日の丸にどっぷり漬かってるんですね。
しなの鉄道とは、長野新幹線開業にあたって、旧信越本線の軽井沢と篠ノ井間をJRから譲り受ける形でスタートしたんです。並行在来線と呼ばれる全長65キロの路線です。
開業から5年経っても、JRから買い取った103億円の返済目処はまったく立っていませんでした。
赤字になって当然、という負け癖がついてる会社だったんですね。
「3カ月で黒字にできない会社は3年かけても黒字化するわけがない!
これが彼の哲学です。
で、まず県庁からの出向者にはすべて帰ってもらった。人件費の圧縮ですね。
それからいままでの経費をすべて見直し。当然ですな。これは建設費からトイレットペーパーまですべて見直しました。
すべて3割引で契約するように指示を出します。
「3割削減できなければ、判子は押しません。支払いはしませんから」
自腹で払えという意味ですね、こりゃ。
この路線の売上を分析すると、通勤、通学、それ以外のお客がそれぞれ三分の一ずつでした。
この人数を彼は前年対比できっちり毎日毎日、比較するわけ。
乗客数が減ってる場合、なんらかの原因があるはずです。曜日や気候の影響かもしれない。イベント列車の有無かもしれない。
こうやって原因を探ると、流れがわかるんです。
で、どうして減ったのか、増えたのか。その理由を駅長に電話してチェックさせる。
答えは現場にあるんです。
イベント列車がなくて減っているなら、月末に走らせるように企画すればいい。打つ手打つ手を数字で、毎日毎日、きっちりつかんでいくんです。
しなの鉄道の乗車料金も値上げしました。7割引だった定期券も5割引に変更。
県内の私鉄乗車賃としなの鉄道の乗車賃をキロ当たりで計算して比較すると、JRが1キロ当たり13円40銭、しなの鉄道10円、ほかの乗車賃は平均40円。
これでは赤字になって浮かんでこないのも当たり前だよ。
こうやって、ようやくメスが入ってこのどん底第三セクターが蘇っていきます。
200円高。
購入はこちら
3 「欲望の迷路」
本橋信宏著 宝島社 1800円
著者の本は何冊か、ここで紹介していますね。つい最近も紹介しました。
で、本書は講談社の「フライデー スペシャル」に連載されていた「ガチンコ・ルポ」をまとめた本ですよ。
いや、痛快、痛快。どうして、これ、講談社が単行本にしなかったんだろう。
ガチンコだから、やらせは一切無し。
まず、編集部から取材費をもらいます。で、いろんなフーゾクに体験潜入しちゃうの。
たとえば、伝言ダイヤル、現役スッチー在籍フーゾク店、カリスマフーゾク嬢、超高級デートクラブ、芸能人裏ビデオ、出会い系サイト、不倫願望の人妻などなど。
これでもか、これでもかという企画がどんどん続きます。
裏ビデオなんて、チラシに書かれた先に電話して、何度も届けてもらうわけ。どれもインチキなんだよね。
4回くらい騙された後、「当社は法律に触れるような商品は扱っておりません」というメモが入ってるというわけです。
何度騙されても、いったいどんな仕組みになってるか、本当に来るのか来ないのかを調査するルポだから、大枚はたいて続けるんですね。
スッチーも同じ。レースクイーンもそう。人妻もそう。
いやはや、フーゾクって凄いですね。
最初から終わりまで、すべて体験談だ綴られてます。フライデーの腕利きカメラマンが盗み撮りした写真も掲載されてます。
疑似体験できる文章がなかなかいい。
250円高。購入はこちら