2006年08月16日「あやし うらめし あなかなし」 浅田次郎著 双葉社 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 お盆ですね。しかも、今日は送り火。
 13日の暁に火(迎え火)を焚いて彼岸よりお迎えし、そして、16日の夜にお送りする。
 ご先祖供養には欠かせない風景ですね。

 夏の風物詩の「花火」にしたって、元々は、そんな意味があるものです。ていうか、火には魂の供養の力が籠められている、と考えられているケースが世界中、いたるところにありますよね。

 さて、本書は7つの優霊物語とのこと。幽霊じゃないんですね。優霊。別に幽霊の「幽」は幽玄の幽なんですけど、どうも「お化け」を連想させてしまうようで、映画「ゴースト」のイメージを付与したかったんでしょうな。

 夏の夜長にはうってつけの逸品だと思います。

 ネタバレになるんで、小説を読もうてな方はここからはカットして頂いたほうが宜しいようで・・・。
 1つだけご紹介しておきましょうかね。

 男は40歳、独身。父を送り、母を送り、いまや完全な独り身。
 まぁ、気軽でいいといえばそうなんですが、「孫の顔が見たかったよ」という母親の最後のひと言はボディブローのように効いたようですな。
 別にいままで女性との縁がなかったわけではありません。いやいや、それどころか、子どもを孕ませたことさえあったんですよ。

 で、その女、名前を美奈子っていうんですがね、無口でいかにも水商売には不向きな女でしてねぇ、こんなのが酒場で本当に勤められるのかと不思議でしたよ、はい。

 大学を出て就職したばかりの頃、男は美奈子を両親のもとに連れてきたことがあったんですよ。
 でもね、「まだ若いんだから」「女の人を連れてきたんでびっくり」なんて言って、2人の話を聞こうともしなかったんです。で、いたたまれずに30分ほどで帰ってしまった。
   
 その後、男は美奈子を捨てるんですね。で、美奈子は男の実家に近い私鉄に飛び込んでしまう。自殺ですな。
 そりゃ、警察は動いたと思いますよ。けど、一切の関わり合いを男は避けた。
 女のほうもあまり肉親の情愛とか縁の薄し人間だったようで、ただ1人、兄嫁だけがあまりに不憫だと思ったんでしょうか、自殺のの動機ってやつを女の知合いに聞いてまわったことがあったようです。
 もちろん、男は美奈子とのことなどお首にも出しませんでしたがね。

 「一杯だけ、いいかな」
  盆提灯を買うついでに、いや、酒を飲むついでに盆提灯を買いに銀座まで出た。しかし、馴染みの店はやっていない。
 「葉月か・・・。こんなとこにこんな店があったんだ」と路地に足を踏み入れます。
 「私もいただいていいかしら? 今日は酔えそうだし」

 結局、新盆の手伝いと称して、女は男の家にやってきます。
 
 「いい男で、お金持ちで、やさしくって、どうしてご縁がないのかしら」
 「少なくとも、やさしくはないな。きみは呪いを信じるかい」
 「こわいこといわないでよ。なに、それ」
 「つまり、その恨みとやらが通じたらしい。嫁さんにしようかなと思ったとたん、いつも別れるはめになった」
 
 葉月との身体の相性はものすごくよかった。酒が回りきらない中にお互いを求め合った。明け方になって眠りに落ち、また、愛し合った。自分のどこにこんな力があったのか、というほど何度も回復し、そのつど、何度も何度もまぐわった。

 「ごめんください」
 大雨の中、坊主をしている幼馴染みがびしょぬれになってやってきた。
 「無理しないでもいいのに」
 「でも、送り火のあとにご供養っていうのもな」
 
 「実はな、おまえのおじさんとおばさんに呼ばれて来たんだよ」
 亡くなった父と母から頼まれて? なぜ? どうして?
 ちょうど時間となりました。あとの続きは本屋さんでよろぴこ。