2006年11月15日「カポーティ」
カテゴリー中島孝志の不良映画日記」
日経のBizPlus連載「社長の愛した数式」が更新されました。こちらからアクセスしてね。毎日新聞Webサイト「中島孝志の おとなの仕事相談室」も更新されてます。よろしくね。
カポーティというと、だれもが「冷血」を思い浮かべると思う。
たしかに、この作品は彼の出世作であり、作家としての名声を決定づけた作品ですな。そのかわり、この作品が生まれるまでの苦悩たるや筆舌には尽くせないものだったようです。
「この作品を書き上げるのに、どれほど長い時間がかかるのか、どれほどの犠牲を払うことになるのか、もしそれを知っていたら、あの時、カンザスで列車を降りずに、地獄を飛び出す蝙蝠のごとく、通り過ぎていただろう」と述べてるもの。
この映画「カポーティ」。ずっと気になってたのよ。たまたま恵比寿にいったらやってんじゃん(ガーデンプレイスシネマ)。即、入りました。
この映画は「冷血」という小説のバックグラウンドとなった犯罪、そして犯罪者を克明に描き出すとともに、カポーティ自身の心の変化も見事に描き出してますな。そして、彼の破滅への過程もね。
役者やのぉ? 全編、声色で通してます。
ある朝、カポーティは新聞を読んでいた。
「!」
ハンターが獲物を見つけたときのように、小説となりそうな格好のネタを発見。この時、彼は完全に作家モードに入っているわけ。
早速、出版社に連絡し、パートナーの助手(「アラバマ物語」の作家)を連れて意気揚々と「一家四人殺し」が行われたカンザスに出かけます。気分はうきうきだったろうね。けど、それが実は彼にとって地獄の一丁目だったというわけ。
1959年11月15日、カンザス州の田舎町で一家四人惨殺事件が発生します。至近距離から顔面を打ち砕いてるんだよ。だから、棺の中の遺体はすべて頭部が白い包帯でくるまれているわけ。
やがて、二人の容疑者が逮捕されます。その中の一人ペリー・スミスという男にカポーティは猛烈な創作意欲を刺激されちゃうのね。
自分とよく似たペリーの生い立ち。カポーティは1924年9月30日、ルイジアナ州ニューオリンズの生まれ。
「両親は4歳のときに離婚。私は幼年時代のほとんどをルイジアナ、ミシシッピー、アラバマの田舎にある親類の家を転々としてすごした」
カポーティの作品の「遠い声 遠い部屋」では、父は離婚して行方不明、母親は病死。孤児同然で叔母にひきとられる13歳の男の子が主人公。「草の竪琴」では母に死に別れ、父親が旅回りのセールスマン。いとこの家に預けられる少年が主人公。あの「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーはセックスが挨拶代わりの女性で、モデルはカポーティの実母だよ。で、ホリーも孤児。
ペリーの母親はネイティブ・アメリカン。育児放棄。アル中、妹たちも若くして自殺。つまり、彼の作品に登場する人間に共通することは「疎外」なのよ。だから、ベリーに自分と共通する匂いを感じ取るわけですな。
けどね、被告に感情移入しながら、被告人が生きている限りは作品が完結できないんだよね。被告と親しくなり、「友人関係」になり、そのため、助命のために弁護人を用意しなくちゃならなくなった。でも、作家としての野心、つまり、この世紀の傑作を早く世に送り出したいという切なる願望もあるんだよ。
ところが、死刑は延期につぐ延期。作品の結末だけが書けず、ずっとペンディング状態。
このジレンマの中でノイローゼになり、アルコールに溺れていきます。
絞首刑の日、ペリーから会いたいという電話が何本も入る。電報まで来る。それでも、カポーティは行かない。最後は取材をともにした友人に説得されて腰を上げるわけ。そして、カポーティの眼前で処刑されるわけ。
カポーティの予想通り、「冷血」はベストセラーとなります。しかし、カポーティはその作品以降、1冊も書けなくなってしまうのね。そればかりか、アルコール中毒で死ぬことになります。
つまり、彼は「冷血」という作品と作家として、人間としての命を引き替えにしたわけですな。
「この作品との出会いは運命だった」
そうなのね。運命なのよ。引き返せるチャンスはいくらでもあったと思う。けど、作家としての野心がそれを押しとどめた。結果、どうなるか、ある程度、予想はついたと思う。けど、いくところまでいかないと止まらない・・・だれか、オレを止めてくれ。そんな気持ちだったんじゃないかな。
カポーティは話術の天才、座持ちの天才。17歳で『ニューヨーカー』誌のスタッフになり、23歳で『遠い声 遠い部屋』を発表。1984年8月25日にロサンゼルスで急死しています。
アカデミー賞5部門にノミネート。4部門で受賞。カポーティ役のフィリップ・シーモア・ホフマンは最初から終わりまでハイトーンの声色で好演。見事に主演男優賞を受賞した作品でもあります。
カポーティというと、だれもが「冷血」を思い浮かべると思う。
たしかに、この作品は彼の出世作であり、作家としての名声を決定づけた作品ですな。そのかわり、この作品が生まれるまでの苦悩たるや筆舌には尽くせないものだったようです。
「この作品を書き上げるのに、どれほど長い時間がかかるのか、どれほどの犠牲を払うことになるのか、もしそれを知っていたら、あの時、カンザスで列車を降りずに、地獄を飛び出す蝙蝠のごとく、通り過ぎていただろう」と述べてるもの。
この映画「カポーティ」。ずっと気になってたのよ。たまたま恵比寿にいったらやってんじゃん(ガーデンプレイスシネマ)。即、入りました。
この映画は「冷血」という小説のバックグラウンドとなった犯罪、そして犯罪者を克明に描き出すとともに、カポーティ自身の心の変化も見事に描き出してますな。そして、彼の破滅への過程もね。
役者やのぉ? 全編、声色で通してます。
ある朝、カポーティは新聞を読んでいた。
「!」
ハンターが獲物を見つけたときのように、小説となりそうな格好のネタを発見。この時、彼は完全に作家モードに入っているわけ。
早速、出版社に連絡し、パートナーの助手(「アラバマ物語」の作家)を連れて意気揚々と「一家四人殺し」が行われたカンザスに出かけます。気分はうきうきだったろうね。けど、それが実は彼にとって地獄の一丁目だったというわけ。
1959年11月15日、カンザス州の田舎町で一家四人惨殺事件が発生します。至近距離から顔面を打ち砕いてるんだよ。だから、棺の中の遺体はすべて頭部が白い包帯でくるまれているわけ。
やがて、二人の容疑者が逮捕されます。その中の一人ペリー・スミスという男にカポーティは猛烈な創作意欲を刺激されちゃうのね。
自分とよく似たペリーの生い立ち。カポーティは1924年9月30日、ルイジアナ州ニューオリンズの生まれ。
「両親は4歳のときに離婚。私は幼年時代のほとんどをルイジアナ、ミシシッピー、アラバマの田舎にある親類の家を転々としてすごした」
カポーティの作品の「遠い声 遠い部屋」では、父は離婚して行方不明、母親は病死。孤児同然で叔母にひきとられる13歳の男の子が主人公。「草の竪琴」では母に死に別れ、父親が旅回りのセールスマン。いとこの家に預けられる少年が主人公。あの「ティファニーで朝食を」のホリー・ゴライトリーはセックスが挨拶代わりの女性で、モデルはカポーティの実母だよ。で、ホリーも孤児。
ペリーの母親はネイティブ・アメリカン。育児放棄。アル中、妹たちも若くして自殺。つまり、彼の作品に登場する人間に共通することは「疎外」なのよ。だから、ベリーに自分と共通する匂いを感じ取るわけですな。
けどね、被告に感情移入しながら、被告人が生きている限りは作品が完結できないんだよね。被告と親しくなり、「友人関係」になり、そのため、助命のために弁護人を用意しなくちゃならなくなった。でも、作家としての野心、つまり、この世紀の傑作を早く世に送り出したいという切なる願望もあるんだよ。
ところが、死刑は延期につぐ延期。作品の結末だけが書けず、ずっとペンディング状態。
このジレンマの中でノイローゼになり、アルコールに溺れていきます。
絞首刑の日、ペリーから会いたいという電話が何本も入る。電報まで来る。それでも、カポーティは行かない。最後は取材をともにした友人に説得されて腰を上げるわけ。そして、カポーティの眼前で処刑されるわけ。
カポーティの予想通り、「冷血」はベストセラーとなります。しかし、カポーティはその作品以降、1冊も書けなくなってしまうのね。そればかりか、アルコール中毒で死ぬことになります。
つまり、彼は「冷血」という作品と作家として、人間としての命を引き替えにしたわけですな。
「この作品との出会いは運命だった」
そうなのね。運命なのよ。引き返せるチャンスはいくらでもあったと思う。けど、作家としての野心がそれを押しとどめた。結果、どうなるか、ある程度、予想はついたと思う。けど、いくところまでいかないと止まらない・・・だれか、オレを止めてくれ。そんな気持ちだったんじゃないかな。
カポーティは話術の天才、座持ちの天才。17歳で『ニューヨーカー』誌のスタッフになり、23歳で『遠い声 遠い部屋』を発表。1984年8月25日にロサンゼルスで急死しています。
アカデミー賞5部門にノミネート。4部門で受賞。カポーティ役のフィリップ・シーモア・ホフマンは最初から終わりまでハイトーンの声色で好演。見事に主演男優賞を受賞した作品でもあります。