2017年10月28日歌舞伎「マハバーラタ戦記」

カテゴリー中島孝志の落語・演劇・タカラヅカ万歳!」

 ちょいと変わった歌舞伎ですが、話題作ですね。
 
 「マハー=偉大な」「バーラタ=バラタ族」=偉大なバラタ族の物語ってことです。全18巻=10万詩節超。『聖書』の4倍。日本語訳はいまだに完結してないっす。しかしTVや映画にはなってるわけで。

 今回も4時間超の芝居です。

 88年6月、銀座セゾン劇場で上演されたことがありましたね。上演時間9時間!



 「王国のためになぜ親族で殺し合わなければならないのだ」とアルジュナが沈んでいると、クリシュナが現れて語りかけます。

 「執着を捨てて義務を果たせ」

 家族や友の死に苦しんではならない。彼らは罪により死んでいる。肉体の死は彼らの病んだ魂を純粋で平和な世界へと解放する。正義のために試練を経ることは、平和と邪悪、正義と不実に対する神の勝利として、おまえのこの世での使命を果たすことになる、

 正否、犠牲、結果、報酬にとらわれず、やるべきことをやるだけだ。

 「ダルマ」に徹して「カルマ」を超えろ、つうことですな。

 なぜか? 人の身体というものは「魂」を乗せた船にすぎないわけですよ。身体は消滅しても魂は永遠に生き続けるわけ。いまは、おまえの使命を果たせ、と言いたいのよ。

 『パガパドギーター』の1シーンです。この台詞が聞きたくて見たようなものです。
 


 壮大な物語でして、はじめに、天の神々が人間界をつくり出すところから始まります。そして地上界を見下ろすと、戦争ばかりしているくだらない生き物で、神々はあきれ果てます。しかし、見所のある人間もいる。少し様子を見よう・・・てなわけです。

 バラタ族のなかのカウラヴァ家(クル家)とパンダヴァ家(パーンドゥ家)の対立を軸に物語は進んでいきます。



 ベースにあるのはバラモン教=ヒンズーの原型ですな。カーストで知られてると思うけど。お釈迦さんの仏教もイエス様のキリスト教も、もちろん、バラモン教の影響を強く受けてます。仏教なんてヒンズーでは一分派活動ととらえられてますし、難行苦行のバラモンでは人々は救えない、と易行に転じてしまうのが革命的ですよね。

 ですから、バラモンの神々と仏教の仏は一体化しとるわけでね。ここらへんは原原でじっくりお話するつもりです。

 パーンドゥ王は呪いを受けて妻と交わることができない。神を呼び出す呪文を知っていた妻のクンティが神々との間にもうけたのがユディシュティラ、ビーマ、そしてアルジュナ。王のもう1人の妻と神の間にもナクラとサハデーヴァが生まれます。パンダヴァの5王子ですな。

 クンティには太陽神との間に生まれた子がいたんだけどね。若かったクンティは川に流してしまった。その子カルナを演じるのが主役の尾上菊之助さん。

 太陽神の子ですから生まれながらに耳輪を身につけてるわけで、この耳輪が永遠の生を保障するものなんだけどね。

 義理を果たすためにカルナは実の弟であるアルジュナ(演ずるは松也さん)ら5王子と闘わなければならんのよ。ここらへん、カルナはまるで『日本侠客伝』の「健さん」そのもの。

 「恨みはなにひとつありやせん。浮き世の義理。死んでもらいます」

 たぶん、健さんの大ヒット映画のシナリオもベースは『マハバーラタ戦記』だろうなー。ラスト? まさしく健さんっす。涙無くして語れません。