2003年04月21日「東大講義録」「怒濤の厄年」「おしゃれ生活」
1 「東大講義録」
堺屋太一著 講談社 1600円
02年4月〜7月まで、計12回、時間にして20時間。東大の先端科学技術研究センターにて行われた講義をそのまま本にした1冊。
これ、12年前に「堺屋太一塾」というのを主宰してたことがありまして、そこで話してた内容とほぼ同じですね。もちろん、データはアップデートされてますけど、骨子は同じです。あのときから、すでに持論は完成されてたんですね。
彼が建築家としての能力に秀でていることは知ってましたが、この謎は本書を読んで氷解しました。
元々、二浪して東大に合格するわけですが、本当は建築美学を専攻したかったようです。けど、視力が弱い。蛍光灯の机での模写は涙がこぼれしてしょうがない。眼科医も設計には適していないと診断し、泣く泣く諦めたそうです。
それが、いまや、国の経済設計をする立場になったんですから、人生というのは面白い。何がどう転ぶかわからないものね。
そういう意味でも、いちばんの楽しみは「自分自身」だと思いませんか?
就職に際しても迷います。生涯でベストの成績を収めたのは公務員試験でした。
そこで、懇意にしていた12歳上のドイツ人女性に相談するんです。すると、一言。
「どこに就職するのか迷うのは、何が好きかわかっていないということだ。人間は有利なところを選ぶのではなく、好きなところを選ぶべきだ。何が好きかわかっていないときには、将来、どんな道にも進みやすいところに就職すればいい。いま考えている就職先の中で、出身者が多方面へ進んでいるところを探せばいい」
というと、答えは「役所」とでました。国会議員、公社公団理事、物書き、それに犯罪者もいる。これはテリトリーが広い。兄が大蔵省なんで、通産省にしたというわけです。
入省後、垂直統合論が常識だった時に、水平分業論を説きます。これはいまだに自信、自慢の理論なんですね。
1964年、万博をやろう、やろうと、省内はもちろん、政治家や自治体に盛んに話をすると、これが逆鱗に触れた。
「役所を辞めろ」
「辞めるなら、懲戒免職にしてくれ」
「仕事はちゃんとしてるから、それはできない。自分で辞めろ」
懲戒免職されると退職金が出ないんです。けど、どうせ4年しかいないから、たいしたことありません。そんなこんなで頑張っていると、賛同者が集まってくる。で、とうとう大阪で万博が開かれるということになります。
その次は海洋博ですね。
これは時の総理、佐藤栄作さんに「沖縄の復帰はどうなったら成功なのか?」と質問したことから始まります。
「人口を減らさないことだ」
当時、東大に大内力という学者がいました。この人は、「復帰すれば、15年で人口は4割になる」といってたんですね。つまり、96万人が40万人ですよ。
たしかに、奄美大島がそうでした。根拠はあるんです。
人口を減らさないためには、それだけの人口が食べられるだけの仕事がないといけません。
ところが、そんな仕事があるか?
観光しかないんです。で、10年間で観光客を10倍にするために何をするか?
「戦後最大のツーリズム・プロデューサー」といわれたアラン・フォーバスは何といったか。
観光開発に道路、飛行場、ホテルといったものはサポーティング・エクイップメントにすぎないず、アトラクティブであること。
第一はヒストリー(歴史)、第二はアクション(物語)、第三はリズム&テイスト、第四にガール&ギャンブル、第五はサイトシーイング、第六はショッピング。このうち、3つあればなんとかなる。
まっ、こういうことです。
で、これらの要素を育て上げていくんです。
ふつう、政治学の教科書には「政治とは有効資源の効果的配分だ」と記されていますが、やっぱり、配分ではありませんね。政治は創意工夫です。知恵と努力で、いくらでも価値を生み出すことがわかります。
150円高。購入はこちら
2 「怒濤の厄年」
三谷幸喜著 朝日新聞社 1100円
いま、なかなかチケットがとれない舞台といえば、「奇跡の人」(大竹しのぶ主演)か「オイル」(野田秀樹作・演出)か、それとも・・・著者の作品か。
「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」「彦馬がいく」、いまだと、ちょうどミュージカル「オケピ!」の開催中ですね。「バッド・・・」では、伊東四朗さんとか角野卓造さん(「笑う世間」の中華料理屋のおやじさん役)、それに沢口靖子さんに生瀬勝久さんなども出演してました。
さて、本書は『ありふれた生活』の続編になります。朝日新聞の夕刊に連載されてたやつね。
で、今回は舞台『You are The Top』の主役鹿賀丈史さんが、初日を翌々日に控えて急性盲腸炎で降板。突然の代役探しとか、学生時代からの仲間である伊藤俊人さんの死など、著者の周囲には事件が目白押しです。
代役探しでは、慌てふためく中、「なせばなる ならねばならぬ 何事も ナセルはアラブの大統領」なる、昔々のギャグがファクスで流れてきたり(上部に示された番号をリサーチしたところ、差出人は井上陽水さんと判明)、なんと浅野和之さんは一週間足らずの稽古で大役をこなしてしまいます。
役者の集中力というのはものすごいものですね。
伊藤俊人さんという役者は存在感がありましたね。名バイブレーヤーで、いい味出してる役者でした。
著者とは大学からずっとやってきた仲間なんですね。で、葬儀委員長。なんにもしないけど、笑える弔辞を読もうと努力したけど、やっぱりだめでした。
人の縁というのは面白いものです。そして、哀しいものです。会うは別れのはじめとか、知らぬ私じゃないけれど・・・という唄がありました。
著者がアメリカ映画でとくに印象に残った作品があります。そりいずれもがコメディなんです。
たとえば、まじめな警官がコールガールに恋をする話。戦争中の捕虜収容所で仲間を切ったスパイを見つける話。そして、二人の男性ミュージシャンが女だけのバンドに女装して潜り込んで旅をともにする話。
これらの作品がいったいなんだか、わかりますか?
ヒントはすべてビリー・ワイルダーの映画だということです。後日、この事実を知ったとき、著者は「芝居は監督が作るんだ」と知ったそうです。
これが脚本家、演出家へのスタートラインについた瞬間だったのかもしれません。
250円高。購入はこちら
3 「おしゃれ生活」
大橋歩著 小学館 1365円
著者は著名なイラストレーター。『LEE』『クロワッサン』に連載されたものです。
最近、よく、「友達母子」という言葉を聞きますね。母親が異常に若くて(若作りの賜か?)、後ろから見ると同世代に錯覚してしまうというコンビです。テレビでもお目にかかりますが、ファッションも娘と同じなんですね。洋服はもちろん、髪型、靴、靴下、化粧まで・・・。
「あぁら、娘さんの友達かと思ったわ!」
「おほほほ、そんなぁ」
顔はにこにこ。この驚かれる瞬間がたまらないんでしょうな。
でも、ホントは「この人、かなり無理してるな。騙されてあげよう」という親切心からなんですね。
若作りに励むのも結構ですが、わたしは著者が指摘するように「年相応の美しさ」がいちばんだと思います。
40歳といわれれば、40歳に見える。50歳といえば、50歳に見える。
けど、そのすべてに「素敵な40歳」「カッコイイ50歳」に見える人です。
そんな女性がたしかにいます。
悲惨なのは、若いのに「おばさん」ぽい人ですね。
これ、女子高生にもいますもの。ルーズソックスに茶髪。超ミニスカート。でも、スタイルも顔もすべて「おばさん」。自分の個性を理解しないで、ほかの子と同じということが「個性」と勘違いしちゃうんでしょうね。
ところで、「素敵」にはいろんな要素があります。
服装だけじゃありません。ヘアスタイル、メイキャップ、姿勢、歩き方、話し方、笑い方、そしてそして、何よりも「生き方」ですね。
ジーンズに白いTシャツだけで、ものすごいオシャレという人もいます。ポイントは自分の長所、短所をよく認識してるってことです。
自分にあったオシャレをする。これがベストです。
150円高。購入はこちら