2003年04月14日「トーキョー金融道」「マンガの描き方」「彼女はなぜ愛され、描かれたのか」
1 「トーキョー金融道」
藤巻健史・成毛眞・松本大著 日経BP社 1400円
言わずとしれた3人です。エコノミスト、マイクロソフトの日本法人社長から投資、コンサルティング会社を創設した人、そして証券会社の社長さん。
この3人、というよりもエコノミストと証券会社の社長という2人の師匠が、経営者である1人の質問にどんどん答えていく、というスタイルになってます。
「えっ、こんなことも知らないの?」という経済の基本的な動きについても、無知を装って質問しているから、読者は読む進めるうちに、いま、日本が抱える経済的な問題についてレクチャーを受け、いっぱしの専門家になれるかもしれません。
東京三菱銀行は不良債権についてはきちんと引当金を積んで処理している。ところが、中にはこの引き当てが甘い金融機関も少なくないわけです。
会社によって、甘かったり厳しかったりしてはスタンダードがなくなってしまって、これは国としての信用を失うことにもなりかねない。
「この国にはジャスティスがななりかけている。これが最大の問題だ。銀行によってやり方が違っていても、それを許し続けるのだとすれば、それは国が潰れてしまう・・・」(松本さん)
「不良債権は結果であって、原因ではない。不良債権を少しでも優良債権に切り換えていく景気回復策が見つからないから、不良債権を悪の権化に仕立て上げた」(藤巻さん)
不良債権問題を処理して、日本経済が良くなるのか かえってデフレが進行するかもしれません。
ところが、円安にすれば、簡単に地価が上がります。担保主義だから、土地の値段が上がれば、不良債権は自然と減っていくというわけです。為替はマーケットが決めるというのは大嘘ですよ。あれこそ、パワーポリティクスが決めるものなんです。不良債権など追わずに円安にすれば、すべて解決するんです。
日本には700兆円の借金があるけれども、これはほとんど円建て。外貨の借金ではない。だから、円安政策を採っても借金は増えません。
中国元がデフレの原因です。円に対して安すぎるんです。
なにしろ、80年には1ドル=1.5元でしたが、それが03年には1ドル=8.3元。同じく、1人民元=160円だったのが、いまや1人民元=13円です。ドルよりも円に対して、ガンガン下がってるでしょう。
これは中国の為替政策です。
格付けについて話します。
自己資本比率が高ければ格付けは上がります。しかし、投資家にとってより大事な数値はROE。すなわち、株主資本利益率のほうなんですね。
たとえば、シティグループなどは、これが18.8パーセント(02年)もあります。日本の金融機関はこの100分の1もありますかねぇ。
格付けはトリプルAよりもシングルA、ダブルAマイナスのほうが儲かるんです。商売に徹することができますからね。
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2 「マンガの描き方」
手塚治虫著 光文社 476円
この4月7日月曜日は「鉄腕アトム」が生まれた日とか。ちーとも知りませんでした。
「科学の子」といわれるアトムです。手塚さんは元々、医師。いや、ついでに医師免許も取ってしまった人。ですから、科学には人並みならぬ関心が強かったはずですね。
けど、この自伝的な色彩の強い本を読むと、アトムを描いた動機が別にところにあるのがよくわかります。
アトムを描いた動機。それは「人間関係」の問題を一貫して描いてきた、という原体験にあります。
手塚さんは焼け跡で青春を過ごしました。幸運なことに、それはマンガの黎明期と重なりました。
その頃、もっとも強い印象的な原体験をします。ある時、町を歩いていると、アメリカ兵に道を聞かれた。相手は6人。かなりへべれけ。スラングも多いし、何を言ってるのか、まったくわからない。
やっとのことで、「ボクは英語を話せない」というと、いきなり殴られた。
年の頃は、手塚さんと同じくらい。そして、笑いながら行ってしまった。取り残された手塚さん。殴られても我慢しなければならなかった。
「そのときくらい心底、腹が立ったことはなかった」
この時の体験が30年間描いてきたマンガに反映されないわけがない。
鉄腕アトムは、人間対ロボットの葛藤を描いた作品なんですね。
「バラ色の未来社会の生活でもなければ、科学万能の賛歌でもない。このマンガに注ぎ込んだテーマは、人間のロボットに対する侮蔑とか差別であり、優位に立った者の行動に対する疑問でもあるのだ」
つまり、虐げられたロボットのコンプレックスと自覚、この両者の間で、人間でもない、機械でもない、アトムという少年の悩みを描いていたのです。
ところで、本書はタイトル通り、マンガの描き方について懇切丁寧にまとめられています。素人がプロになるための心構え的な話を熱く、優しく、そして易しく語りかけています。
机の上にはいったいどんな用意をしたらいいか。出版社にはどう持ち込めばいいのか。先輩として、いろんな話をしています。
250円高。購入はこちら
3 「彼女はなぜ愛され、描かれたのか」
山口路子著 すばる舎 1300円
「絵を見ることと恋をすることは、とても似ている・・・知識ではなく感性・・・感じるか感じないか。とても単純だ。そして、これが『恋』とよく似ていると思うのだ」
著者はアートサロン「時間旅行」の主宰者。雑誌などで、アートを語るエッセイストとして活躍中だ、とのこと。
本書はひと言で言えば、「描いた画家」と「愛され、そして描かれた女」との間に漂う素敵でもあり、また切なく、哀しくもある物語を紡いでいます。
たとえば、モディリアーニ。恋人はジャンヌ。
2人はデッサン教室で知り合う。当時、彼女は19歳。画家を志す学生さん。一方、モディリアーニは33歳。作家のベアトリスとの同棲を解消したばかり。子供を2人もうけ、ようやく世間に知られる存在となっても、お金は麻薬と酒に注ぎ込まれるだけ。
しまいには、健康を害し、腎臓がやられる。そのまま意識不明の重態で亡くなった。まさに「呪われた画家」という評判通りに生きたわけですな。
ジャンヌは出会って3年。彼の死に殉ずるかの如く、身を投げて死にます。
なぜ死んだのか?
「愛と夢。その両方を失ったから・・・」
そうかもしれません。彼女にとって、彼は愛であり、夢だったのかもしれません。
そうか、愛と夢か。
愛したり、愛されたり、愛があれば生きられる。また、夢があればまた生きられる。
愛と夢。これは人間にとって、生きるためのエネルギーだったんですね。
登場する画家は18人。ピカソ、レンブラント、クリムト、モネ、ルーベンス、ロートレックなどなど。というこは、「彼女」もそれだけの人がいるってことです。
愛とか恋とか、ややこしいですな。
わたしは男と女の愛よりも、子供との愛のほうが大事だな。たとえ、子供のほうは愛してくれなくてもね。
でも、母よりも「女」を選ぶ人も少なくないんでしょうね。同様に、父よりも「男」を選ぶ人もいるでしょう。みんな愛せればこんなにいいことはないけどね。
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