2007年02月23日「鈍感力」 渡辺淳一著 集英社 1155円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「日経のBizPlus」に連載中の「社長の愛した数式」が好評で1日5万人を軽く超えるアクセスがあり、日経が驚いているそうです。自慢ではありません。
 「BizPlus」には20人近くの執筆者で計18万人の読者がいるのですが、小生のコラムがダントツ人気なのです。けっして自慢ではありませんよ。
 これ以上に毎日新聞のウエブ「おとなの仕事 相談室」のほうがアクセスが多いんですよね。いったい、何人くらいに読まれてるか気になるところです。いやいや、けっして自慢ではありません。

 日経のBizPlus連載「社長の愛した数式」が更新されています。ここ数回は「トヨタシリーズ」です。毎日新聞Webサイト「中島孝志の おとなの仕事相談室」も更新しています。


 「安倍首相は支持率が下がったことをそんなにきりきりする必要はない。いい意味での鈍感力が必要だと思う」
 な〜んて、小泉さんがエールを送ってました。さすが、電通がいろいろアドバイスしてるだけあってコピーを考えるのがお上手なこと。
 けどさ、これ、渡辺さんのバクリでしょ?

 鈍感力ねぇ。出版された時は唖然としたね。だって、私、まったく同じタイトルで原稿用意してたもん。ただし、私のは仕事、ビジネスでの鈍感力だけどさ。
 どうすんのかって? もち、ボツにします。だって、二番煎じなんか出したくないじゃん?

 渡辺さんも「愛ルケ」「失楽園」「化身」と話題になる作品を連発してるけどね、大変だったのよ。浅田次郎さんだって、悔しい下積み時代があったしね。
 私がいちばん最初に渡辺さんの作品を読んだのは「阿寒に果つ」でしたね。高1の時でしたね。
 当時、多感な美少年でいつも憂いを秘めてたことから、だれ言うとなく、「小田急線の若君」と呼ばれるようになってたらしい。「らしい」というのは、後日、追っかけファンの1人から聞いてわかったことだからよ。
 で、その後、「無影燈」ね。これはTBSが田宮次郎、山本陽子、中野良子の皆さんでドラマ化したね。中井君もやってた?

 けどさ、医師から作家になる頃は、せっせと原稿を描いては編集者のとこに送ったり、で、読んでもらえなかったり、いろいろとストレスがあったらしい。
 
 渡辺さんと同じ作家の卵たちは何人もいたの。で、有馬頼義先生が主催されてた「石の会」で勉強してたのね。相撲とりでいえば、幕内の一歩手前くらいの作家たちが集う会ですね。

 この中に渡辺さんが羨望するほどとっても才能豊かな人がいたそうです。いずれ大きな賞を必ずとるだろう、と確信するほど溢れる才能の持ち主だったのね。
 けど、この人、デリケートでセンシティブでね。根暗でうじうじしてんのね。
 なにかの賞に漏れたりすると、もう大変。電話をかけると、やっぱり暗い。落ち込んでるわけ。まっ、だれだって落ち込むよ。けど、渡辺さんの場合は、「あのバカ、この小説のすばらしさがわかんるぇのか。このぼんくらが!」と酒呑んでクダ巻いてそれで終わり。
 翌朝はすっきり。で、また原稿用紙に向かうわけ。編集者からたま〜に電話があったりすると、「絶好調です。すごい作品書いてますから!」な〜んて口から出まかせ言っちゃう。
 こういう芸当ができないよ、彼は。電話があっても落ち込んだまま。
 こんな人には電話だってかけにくいよね。で、やっぱ、編集者も電話しなくなるわけさ。

 結局、この人は豊かな才能を持ちながら、文壇という世界に上がることなく消えていきましたよ。もったいないことですな。
 この人に「鈍感力」があればねぇ・・・。

 医者にもいたんだよ。渡辺さんがぺえぺえの頃にいた医局にね。
 手術するとき、主任教授は助手たちを罵倒しながらするわけ。文句ばかり言ってるわけ。いつもね。で、これでまいっちゃう人もいた。けど、その中に助教授で「はいはい」といつも2回こたえて返事する人がいたらしい。
 「ぶつぶつ」「はいはい」「なんだかんだ」「はいはい」てな具合。これ、絶妙な合いの手でね。スムーズにオペが進んでいくわけよ。
 ところが、これ、教授のほうはいくら文句、罵倒しても覚えてないの。手術室から出たらまったくちがう人だから。で、この「はいはい」の人も手術室を出たら、あれだけ罵倒されてることをすっかり忘れて、ビール呑んでニコニコしてるわけ。
 渡辺さんはあっけにとられるばかりだったってさ。

 で、数十年経って、なにかの会合でこの「はいはい」の医師を見たわけ。札幌郊外の大病院の理事長になってるんだけど、挨拶したら、あの時のまんま。「はいはい」とこたえるわけね。
 あっ、そうか。この先生、なにも聞いてないんだ。ただ相手に合わせてただけなんだ。
 この鈍感力あればこそ、これだけ成功したんだなと痛感したそうです。
 まっ、そういう話。しかし、まいったねぇ。まったく同じタイトルで出版するつもりだったんだよ。
 まっ、どうでもいいけどね。私、鈍感力では負けないから。