2007年02月22日「星を喰った男」 潮健児著 早川書房 650円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 星を喰った男って?
 「星」ってなによ?
 「スター」=主演俳優のことさ。
 そう、これ、脇役人生50年の潮さんの本なのね。といっても書いたわけじゃなくて、いわゆる、「しゃべり下ろし」っていうヤツね。
 聞き手は唐沢俊一さん。

 しかし、まぁ、長編ですな。350ページありまっせ。けど、こういう本は時の経つのを忘れてしまいますね。もう、食事中も風呂、バーでもずっと読んでたもん。

「なにニコニコしてんの? そんなに面白いんですか?」
「最高だね」

 この本、ネットで探したんだよね。
 本の出会いは一期一会なんだけど、書店で発見することもあるし、なにか思い出して、「あの人、本出してないかな?」なんてネットで調査したりしてね。見つかった時には、やったーなんて嬉しくなっちゃう。

 この本の前に読んでたのが、菅井きんさんの本。菅井さんといえば、「必殺シリーズ」の一服の清涼剤ですよ。タイトルが「わき役、ふけ役、いびり役」っての。
 なんてださいタイトルなんだろうね。
 菅井さんだよ、菅井さん。菅井さんの本なら、「婿どのッ!」に決まってんでしょうが! もっとセンスのいいタイトルつけてくれよ、頼むぜ。

 さてさて、潮さんって知ってる? 知らない! そんなことないだろ?
 じゃ、「悪魔くん」の2代目メフィストといったらどう?
 初代は東映の悪役専門俳優の吉田義夫さん。この人、肺がわるくてもね、降板したわけ。で、主役が途中降板する番組てダメだから、弟ってことにしゃった。
 で、弟は兄とちかって悪魔になりきれない人間臭い悪魔というテイストでね。
 これ、潮さんにぴったりなんだ。

 思い出せない? じゃ、仮面ライダーの「地獄天使」というのはどうだろう。ショッカーだよ、ショッカー。
 わかんない?
 よし、じゃ、若山富三郎さん主演の「極道シリーズ」のレギュラーといったらどうだろう。
 もっとわかんなくなった? まっ、そうだろな。

 この本読んでると、脇役のつらさ、楽しさ、奥深さがよっく伝わってきますね。
 ちょっとした演技で誉められたり、評されたりすることを、よっく覚えてるんだよ。それだけ気になってるし、スポットライトを浴びてるわけじゃないからよけい嬉しいんだろうね。
 
 主役みたいに出ずっぱりじゃないんで、ほんの数秒で芝居をするわけ。だから、通行人や死体の役でも、そこに演技を要求されたら、とことん創意工夫しちゃう。
 で、そこに気づいてくれた人を忘れない。いじましく、いじらしいですな。

 いったい何百本の作品に出たかわからないほどですけど、記憶をたぐって面白いエピソードのオンパレード。

 潮さんは東映に入る前に、というより、東映ができる前にすでに東映の前身の大泉映画に入ってるのね。その前には、古川ロッパ劇団を皮切りにいろんな劇団に席を置いてました。
 池袋のムーランルージュでは、2枚目で主役はってたりしてね。

 モリシゲ先生とも共演してんの。天下のモリシゲがまだ自分の楽屋も持ってない頃の話。この頃、日劇小劇場で森繁久弥さんと2人でコントやってたんだよ。
 で、潮さんはモリシゲ先生の頭の回転の速さにビックリしちゃいます。その場の即興でパッとコントを作っちゃうわけ。

「そうだ、俺が強盗になるから、潮ちゃん、紳士になってよ。まず、潮ちゃんが舞台の中央に出てよ。で、俺がピストル突きつけるから、手を挙げて。そして、脱げっていうから、服脱いで俺に渡す。逆に、潮ちゃんは俺の服を着るんだよ。
 で、服着る時にはピストルが邪魔だから服に入れちゃうだろ。すると、潮ちゃんはピストルの入った俺の服を着ちゃうわけ。で、こんなのが入ってましたって、俺にピストルを突きつけるわけさ。で、俺がビックリして手を挙げて暗転。こんな段取りでどう?」
 こんなのが次から次へと出てくるわけ。栴檀は双葉より芳しだよね、やっぱ。

 こんなご機嫌な話が山ほどつまってる1冊。280円高。