2003年03月24日「気張る男」「会社の再建 3つの戦略」「お江戸週末散歩」
1 「気張る男」
城山三郎著 文春文庫 476円
これは原理原則研究会のメンバーから推薦があった本で、すぐ読みました。
たしかに良かったなぁ。気張る男か。
丹後国間人(たいざ)村。「弁当忘れても傘忘れるな」というお国柄で生まれた松本重太郎。元々は松岡姓だったけど、元の元という意味で松本に改名しました。
10歳で郷里を勝手に飛び出た子供の判断です。
「長男じゃないから勉強するしかない」と父親に言われ続けて、どうせ出るなら早いほうがいいと判断したまでのこと。
最初は大阪の店に手配してくれる人がいたけど、はぐれて勝手にその店に行って自分で収まってしまう無鉄砲さ。
でも、機転が利いてやる気満々。遺漏のない仕事振り。見ている人は見ているものです。
ウシという女の人が自分の父親に掛け合って、店を持たせます。
そして、先読みが当たって儲けに儲けます。
当時、武士に下された金録公債を集めて、第百三十五国立銀行を設立。その頭取に収まるんですね。
この時代、国立銀行はあっちこっちにできましたけど、この国立という意味は「国法に則った」という意味で、国営ということではありません。
関西以西の鉄道、繊維会社はほとんど彼がつくったものです。だから、「西の渋沢栄一」と呼ばれるんですね。
「政府にたかって生きる東京の経営者とは違う」という自負がありました。まし
同世代の実業家に安田善次郎がいました。こちらの方が6歳上。家出してきたのはまったく同じ。
重太郎は人情を絡めると弱いのに対して、こちらは銀行家ですね。公私の金はきちんと分ける。冷徹な経済感覚で動きます。
ですから、どうしようもない鉄道会社など、郷里のものだろうと出資を打ち切ったりします。
で、重太郎は経営陣に泣きつかれて肩代わりしたりします。
結局、どうなったか?
銀行がダメになるんですね。無担保で経営者の実力本位で貸し出してますからね。
アンドルー・カーネギーに憧れ、北アイルランドにまで出かけて会いに行きます。そして、晩年は彼のように社会福祉をしたかったんでしょうな。
でも、銀行が潰れてそれも叶わないまま。
彼の孫に松本重治という人がいます。同盟通信社の常務理事をしてた人ですね。エール大、ウイスコンシン大出身で、ロックフェラーとツーカーの仲でした。
彼の名前は終戦時、大日本帝国憲法改正の際、「第二次松本案」という名称で日本史の教科書に出てくると思います。あの日本国憲法を起草したのがこの人です。
NHKを見てたら、これ、来週の月曜から衛星番組で放送するんですね。ちいとも知りませんでしたけど、帯コピーをチェックすると、たしかに書いてあります。
そういうことだったのね。
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2 「会社の再建 3つの戦略」
高塚猛著 かんき出版 1400円
著者はリクルートに入社し、22歳で営業所長として抜群の成績を収めた後、就職情報、住宅情報事業の責任者を歴任、それから福岡グランドホテルの総支配人などで活躍。
4年前にダイエーの中内オーナーからスカウトされて、ダイエーホークス、ダイエー・シーホークホテルの代表取締役に就任。以来、破竹の勢いで経営再建に成功・・・ということらしいです。
会社の再建というのは、やっぱり人ですねぇ。
ダメな社長は何をやらせてもダメだし、できる社長は業界など関係なく、再建してしまうでしょ。業界のノウハウがあればあったで有利になりますし、無ければ無くてもそれが有利になりますものね。
有利にできるかどうか、有利にするかどうか。それはトップで決まります。
といっても、抽象的でさっぱりわからないでしょうから、もっと具体的に述べます。
再建というのは単純です。売上を増やし、経費を減らす。鉄則はこれだけでしょ。
では、どうすれば売上が増やせるか?
この会社はホテル業ですから、お客が増えるべく、仕掛けを考えるわけですね。
たとえば、ホテルで大きいのは結婚式でしょ。となると、どうしても大安が混みますよ。平均して、だいたい1日20組はあると言いますからね。これはドル箱だから、きっちり押さえておきたい。しかも、このイベントはあまり値切られないでしょ。
でも、ホテルにはほかにもたくさんの祝宴があるわけですよ。「開業何周年」というのもあれば、米寿の祝いというのもある、もちろん、展示会もある。このイベントを大安にする可能性も少なくありませんね。
結婚式は縁起を担いで大安にするケースが多い。であれば、年間通じて、大安はすべて結婚式用に押さえて、ほかのイベントは取らない。ほかのホテルに譲ってもいいくらいです。
もう一つ、友引や仏滅に結婚式を増やすべく仕掛ける。
大安、仏滅というのは「易経」から来てまして、陰暦で決まります。しかも、毎年、月日が移動するんです。だから、今年は大安、来年の記念日は仏滅。こういうこともたくさんあります。
「仏滅でも結婚式がおかしくない」と教えてあげればいい。キリスト教式結婚式なら、仏滅なんて関係ないものね。もちろん、ディスカウントもあります。
さて、経費を減らすにはどうすればいい?
まず、数字をきちんと洗うことです。数字は嘘を付きませんものね。
そして、業界の優秀なケースとすりあわせる。まずはそのロールモデルに追いつくまで頑張る。
まずは固定費を下げる。下げた後は、固定費を変動費化する。
人件費を下げるにしても、一人一人の収入は増えるようにしたい。となると、人件費は下げるというよりも、一定にしておく。
「人を採用して、その分、一人頭の収入を減らすか、それとも一人二役でもなんでもして増やすか?」
これを従業員に選択させてもいいと思うのです。
ダメな会社というのは生産性が悪いんです。だから、生産性を上げればいい。生産性があがる仕掛けを提案する。
そのためには、従業員がついてくる意識改革が大事ですね。
「あぁ、なるほど」
「やればできるじゃないか!」
「面白い!」
こういう言葉を従業員から引っ張り出す仕掛けがポイントです。
この時、気をつけるのは若い人は変化や期待に対してやる気満々です。気をつけるべきは役員と部長レベルですね。この層が「抵抗勢力」になる可能性が強い。面従腹背ということも少なくありません。
だから、上から下まで一人一人にインタビューを継続的にすることがポイントです。いったい、どんな姿勢で仕事に取り組んでいるか。改善策を持っているかどうか。すなわち、頭と手足がバランス良く動いているかどうか。
ここが大事ですね。
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3 「お江戸週末散歩」
林家こぶ平著 角川書店 705円
書店に行くと、「こぶ平」とあったんで、買いました。すると、今度はこぶ平から正蔵という大名跡を継ぐとか。
いや、たいしたもんです。
こぶ平さん、落語、うまいですよ。勉強してます。この人、5年経ったら、大化けするとわたしは思います。
ですから、彼が出ると聞いた高座はよく出かけるようにしています。
彼の父親は「爆笑王」として知られましたけど、これはずっと続いた落語の「型」をぶっこわした革命家であったからですね。しかも、あれだけむちゃくちゃやって、師匠たちからお小言を食らわなかったほど、年寄りに愛された人でした。
でも、「落語家」としての力量はもう一つだったと思いますよ。
こぶ平さんのほうがずっと上だと思います。
で、本書は江戸の歴史から東京散歩までをカバーした内容になってます。
この本、こぶ平さんが書いたんじゃありませんね。奥付を見ると、編集プロダクションの名前がありますもの。
こぶ平さん、そんなに散歩してる暇なんてないものね。
でも、そこかしこにこぶ平さんが書いた、しゃべったと思われる節が見受けられます。そこを探すのも面白いのではないでしょうか。
たとえば、落語に出てくる地名やエピソード。「八百屋お七」などはまさにそうですね。彼女の墓は回向院に祀られてますものね。
まっ、そういうわけで、江戸の蘊蓄がそこかしこに散りばめられた1冊です。
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