2003年03月10日「逆常識の経営」「梅原猛の授業 道徳」「勉強ができない子供でも必ず一〇〇点がとれる」
1 「逆常識の経営」
牧野昇著 ベストセラーズ 1600円
牧野さんは三菱製鋼では、技師として活躍。また、MN法という金属関係の特許まで取ってます。ねっからの技術屋さんであり、技術から経済を見通す目を持ってます。
そこで、三菱総研ができる時に、その看板になったわけですね。
東大では柔道部でかなりの猛者ですよ。
若い頃(20年前かな)、この人とホテルに2日間缶詰になって、本をまとめたことがありました。たしか、「五大技術革命が日本を変える」というタイトルだったと思うけど、やはり、現場の技術についてものすごく詳しいわけ。
いま、彼が注目しているのは「電・光・石・化」。こういうキーワードを作るのが大好きなんですね。
電光石火とは、電気、光技術、石油、化学ですね。この分野はまだまだ伸びるというわけです。
当時もいまもとうですが、技術屋だから、現場の情報が大好きなんですね。唐津一さんもそうですね。
やっぱり、実際にモノを見ないと判断できない。それが技術屋のいいところですよ。
本書もそんな情報がたっぷりです。
牧野さんは小渕首相に「デフレ克服のために四つの提言」をしたんですね。
1市場にある債券、証券を買い取る。
2デノミを実施する。
3相続税無しの無利子国債を発行する。
4インフレ政策を採る。
最近、日銀が株式の買い取りなどをはじめましたけど、もうずいぶん前から提案されてたんですよね。もし、小渕時代にこのアイデアを採用されていたら、ここまで事態は悪くなってなかったでしょうね。
もっと昔、ソロモンブラザーズにヘンリー・カウフマンという人がいました。
この人はかつて長期金利の歴史的転換を的中させた人で、経済見通しでは神様のように言われた人ですよ。
彼が来日した時、記念講演会があり、牧野さんと意見の交歓があったんですね。
牧野さんは橋本内閣の金融ビッグバンについて、「早すぎる」と批判したんです。この大規模金融自由化のモデルはイギリスの証券業です。
あのサッチャーですら、10年の時間をかけ、しかも、証券分野だけであった。それを日本は銀行、保険も含めて、いますぐやろうとしてるんです。
カウフマンの懸念は不幸にも的中します。
一気に改革を急いだために、金融不安が巻き起こり、不良債権処理に手が回らなくなってしまった。
弱い金融機関は態勢を立て直す前に、潰れてしまった。
いま、日本の金融が弱いのも、これがいまだに響いてるんです。
資本主義への改造を急いだロシアは失敗し、じわりじりと変えていった中国は大成功。日本も勝つか負けるかといったアメリカ流ではなく、「わが道を行く」というヨーロッパ流のビジネススタイルのほうが合ってるような気がします。
米国信仰の旧大蔵省が金融業界をめちゃくちゃにした、と言っても過言ではないでしょうね。
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2 「梅原猛の授業 道徳」
梅原猛著 朝日新聞社 1300円
以前、ここで紹介したのは『仏教』でした。今回の新刊は『道徳』です。
前回同様、京都の洛南高校付属中学3年生に行った授業12回を元に作ったものです。
ところで、いま、学校で道徳なんて教えてないでしょ。わたしの頃はまだありました。そのうち、生活と名前を変えてしまいましたけどね。
道徳なんていうと、なんか戦前の修身とかギリシャ哲学、中国古典など、とにかく古くさい建前を連想してしまいますものね。
でも、道徳が滅びる時、すべてが滅びるんでしょうね。
「日本人全体に道徳性がゆるんでいるんです。日本人全体の道徳心が麻痺している」
かなり、警告を発しています。
政治家に道徳を説くことは、牛や馬に論語を説くことに等しいかもしれませんが、以前は、道徳心があった経営者、商売人、そして官僚、教育者の間にも道徳心なんて消えてますもの。
梅原さんは生まれてすぐ、母親が亡くなっているそうです。「子供を生んだら死ぬよ」と言われたのに生んだんです。覚悟して生もうとしたんでしょう。
それで、すぐ伯父さん夫婦に預けられます。そのまま育ちますが、今度は父親の母校である中学を受けると、ビリのほうでようやく合格。だから、成績がまったく悪い。
これは名古屋市内に住む別の伯父宅から通ったんですね。
あまりにも勉強ができなかった。父親は優秀で学歴も立派なものですから、「こいつはアホや」とみんなから「アホ」呼ばわりされていたらしい。
それに怒ったのが養母でした。
「猛はアホじゃない。父親よりもずっと頭が良い。わたしの元で勉強させたら、必ず成績は良くなる」と言って、強引に引き取るわけですよ。
おかげで、片道2時間半もかかって登校せざるをえなくなった。
けど、彼はこの養母のひと言に発奮するんですね。
往復で5時間。風呂に入って食事をすると、もう寝ないといけない。でないと、朝、間に合わないからです。この間、1時間だけある。
その1時間で勉強したそうです。
中間試験でいきなり2番です。「カンニングだ」と先生から言われたものの、以来、この成績は落ちなかったそうです。
「わたしの集中力はこの時、磨かれた」と言ってます。また、「生母と養母の2人の利他のおかげで生きている」とも。これが道徳心ですね。
ところで、縁というのは不思議ですね。
本居宣長という国学者がいます。あの小林秀雄が『本居宣長・古事記伝』という作品を書いてますが、この人、元々は松阪の医者だったんですね。でも、国学を勉強したい、日本の学問をしたいという夢を持っていた。
そういう時、国学の大家である賀茂真淵が伊勢参りにやってきます。
そして、ひと晩、じっくり話し合うことができました。
「わたしは『万葉集』を研究したが、まだ古事記という立派な本の研究はしていないから、あなたがやってはどうですか」
このひと言が効きました。あの名著はひょんなひと言がきっかけになってるんですね。
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3 「勉強ができない子供でも必ず一〇〇点がとれる」
松下啓志著 講談社 1500円
著者はちょっと年配の金八先生みたいな人です。
なぜって、落ちこぼれ、不登校といった子供たちに勉強を教える塾を主宰し、しかも成果をあげてるんですね。
塾の勉強代しかとらないのに、親子面接を何回も行ったり、進路のことで学校に掛け合ったり、特別特訓を行ったりと忙しいことこの上ない。
著者自身、苦学しながら24歳でのときに寝屋川に塾をオープンしたんです。
その哲学は、勉強ができないのは頭が悪いからではない。方法さえ間違えなければ、学力は確実にアップするというものです。
「授業の進み方についていけなかった。だから、あるところからわからなくなる。けど、そこまで戻れば理解できる」
「わかるところまで戻って試験をすれば、百点をとれる」
「そして、自信が湧いてくる」
こういうわけです。
むかし、公文教育研究会の公文公さんがお元気な時に新大阪の本部でじっくりお話を伺う機会がありました。
あそこも「ちょうどの勉強」を推進してました。できる子供にはどんどん進ませる。それが「ちょうど」だからですね。一方、わからなくなったら、わかるところまで戻して勉強させる。それがちょうどだからです。
これと似てるよね。勉強というのは、基本的にそういうものでしょ。
背伸びしても、できないものはできませんよ。できるようにするには、やはり、積み上げていかなければなりませんもの。
落ちこぼれというのは、どこかでこの積み上げができなくなった子供なんですね。いわば、情報遮断された地点に戻れば、回復できるわけです。
問題は、自ら情報を遮断しているのか。遮断したくなかったけど、全体の進行上、放っておかれたか。この二つのに一つですね。
放っておかれたら、わかりませんもの。そんな子供に授業は苦痛以外の何ものでもありません。こうなると、オリンピックじゃあるまいし、参加することに意義など感じません。だから、どんどん出なくなる。結果として、落ちこぼれはますます増えていきます。
毎年、高校を中退する者が10万人、留年は40万人、不登校は7万人だといいます。
親にもたくさん問題があります。他人のことなど言えるレベルではありませんけど、「成績が上がったら離婚しない」という親とか、中学生の男の子だけ残して、小さな二人の女の子を連れて、男と逃げた母親とか、ひどい親が出てきます。
そんな子供のために奔走してるんですね。
ところで、ここは塾ですから、当然、一流の学校に合格する生徒も少なくありません。
旺文社のデータによると、難関大学に合格するには平均3500時間の勉強をしなければいけないそうです。
しかし、これはあくまでも平均。1日当たり10時間、それを1年間きっちりやれば、この時間量になります。
でも、やりかたによってはいくらでも能率が上がります。
ここの合宿特訓では、そんなに時間をかけなくても合格できるらしいですよ。
たとえば、文系志望者なら、1カ月半〜3カ月間、ただし1日10〜17時間、がんがんやる。すると、偏差値30が50、60、70と上がっていくらしいです。
コツは、ビデオ学習と教材、そしてもう一つは5人ひと組の共同勉強にあるとのこと。
いま、塾は個別学習が中心です。わたしの頃とは全然違うんですね。教室がパーテーションで区切られていて、先生がその辺を歩き回る。そして、生徒の質問に答えていく。そんな指導スタイルですね。
でも、わたし自身は集合学習のほうが伸びると思っています。とくに、勉強のできる子供はこれに限ります。勉強って、共鳴効果があるんですねよね。
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