2007年04月11日「わが人生の歌がたり」 五木寛之著 角川書店 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 五木寛之さん。いつになったら、「青春の門」を書くのだろうか。
 たしか、私が高校時代だったんじゃないかな。「週刊現代」だかで連載はじめて、映画にもテレビにもなって・・・。どれも筑豊編、青春編なんだけどね。
 松坂慶子さん、吉永小百合さんがやってましたね。織江役が大竹しのぶさんだもん。今度やるときは、大竹さんが母親役だったりして・・・悪夢だね。

 まっ、尾崎士郎の「人生劇場」にしたって、面白いのは青春編だけであってね。全11冊を高校時代に読んで、それが縁か、早稲田に進むことになっちゃって・・・映画に何回もなってるけど、青成瓢吉より飛車角が主役でさ。
 やっぱ、「課長島耕作」にしたって、役員になった瞬間、あとは惰性の産物でしかないのかもね。

 そんなこんなで、五木さんの「ラジオ深夜便」の語りをそのまま活字にした本ですな。
 最後までたどり着いて気づいたけど、3分冊にするらしく、まずは1発目なのね。
 で、生後すぐの頃から北朝鮮から命からがら引き揚げてきて、早稲田に入学する頃あたりまでを、その時々の想い出の歌とともに振り返ってます。

 人にはそれぞれ青春があり、歌があります。とくに、戦争という時代をくぐってくると、歌の想い出もひとしおだと思う。
 当事者でないとわからないことも少なくありません。というのも、戦争のまっただ中でも、淡谷のり子さんのブルースが流行ってたりしたのね。
 時代は暗かったけど、意外と歌は明るくて、そこらへんでバランスをとっていたのかもしれない。
 中で取りあげている歌。戦前の歌でも、私が知ってる歌が少なくありません。たとえば、「サーカスの歌」とか「南の花嫁さん」「雨のブルース」「湖畔の宿」とかね。

 私の好きな「港の見える丘」は戦後の曲なのよ。そういえば、戦後、コロムビアレコードのオーディション1位が平野愛子さんだったもんね。

 さて、五木さんの父親は小倉師範。母親は福岡師範。どちらも教育者。
 でも、校長にはなれないので朝鮮に渡るわけ。で、五木さんも同じ小学校に入ります。日本人は1人ね。けど、子どもにとって、日本人も朝鮮人も関係ないよ。仲良く遊んでた。
 そのうち、日本は戦争に負けて、ソビエトが略奪のかぎりを尽すわけ。それに無抵抗の父親。というよりも、日本人は無力だった。
 戦争に負けるということは、こういうことなんだ。男は奴隷、女は強姦。少なくとも、精神的にはそうだったかもしれない。
 この時、まだ矜恃を忘れずにいたとしたら、それは男の中の男だったかもね。

 少年の目には、自信喪失なんて関係ない。それは大人の世界の出来事であって、戦争という殺し合いが終わったことは、それだけで白黒がセピアに、さらに総天然色に変わるくらいのまぶしい時代の到来だったのよ。

 終戦直後はそんな希望に溢れる「リンゴの歌」と、戦争の後始末を引きずる「かえり船」「星の流れに」が流行してたわけよ。

 歌は世につれ、世は歌につれ・・・懐かしのメロディだね、こりゃ。まっ、本書は五木版懐かしのメロデイだもん、しょうがないや。