2002年12月23日「社長が戦わなければ、会社は変わらない」「仏音」「デザートのカリスマ」
1 「社長が戦わなければ、会社は変わらない」
金川千尋著 東洋経済新報社 1400円
著者は信越化学工業の社長さん。むかし、ここの社長が自民党の衆議院議員をしてましたね。小坂善太郎さんだったかな。
この会社。超優良企業で、GEのウェルチさんが絶賛したという評判です。
経営はすべて数字です。成果が勝負。どのくらい凄いかというと、この不況下、7期連続で最高益更新という快挙です。
「わたしは何回も経験してますが、需要家が熱狂的に商品を欲しがる時期がある。この時、飛ぶように売れて品不足になる。それに煽られて、過剰な設備投資などすると熱狂が冷めた後に取り返しがつかなくなる。現状を過小にも過大にも評価しない。いま、どうなのかをきちんと客観的に見ることが大事」
この人、建前なんかはあてにしない。
「従業員は使用人」と断言。従業員はボスではないんです。ボスは株主。従業員は企業の一部であって、株主にどう報いるか。それを経営者とともに実現していくこと。これが大事ですね。
会社を強くするためには、従業員に協力してもらわなければならないんです。従業員を幸福にしなければ、協力などしてくれない。従業員を幸福にするということは、会社を強くするための手段なのだ。
「会社経営は社会のため」というのは偽善に過ぎないんです。会社は大儲けして、税金で報いる。この主張のほうがすっきりしてます。
この会社の意思決定は早いですよ。
なぜか。
よくあるパターンではないからです。「事業案を会議にかけ、全役員が揃って相談するといったことはしない」
事情をよく知らない人の意見など、一般論の域を出ませんからね。本当に知ってる人間だけで十分でしょ。あとは、やるかやらないか。経営者が責任もって判断すればいいんですよ。
かつて、この会社には財務担当者が十数人もいた。
「この仕事、一人か二人じゃできないのか?」
「取引銀行の数が多いので不可能です」
「よし、わかった」
取引銀行の数を減らすんですね。
新卒なんて将来的に見れば別ですが、即戦力にはなりません。人件費を含めた営業利益で各部門を評価すれば、本来なら、どの部門も新卒など欲しがらないんです。
その意識が無く、各部門とも互いに競争するかのように新卒を欲しがった。そこでどうしたか。
新卒採用〇にするんです。
また、意味のないローテーション。これは百害あって一利無し。
人事部に人事権を振り回させたら、会社は滅びます。
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2 「仏音」
高瀬広居著 朝日新聞社 1800円
いま、日本を代表する仏門の大御所たちにインタビューした一冊です。
真言宗、天台宗、日蓮宗、浄土宗、真宗、曹洞宗、臨済宗、法相宗(薬師寺)、神田寺などですね。
いやぁ、坊主にもいろいろ、いるわいな。大学学長も兼務するほど偉い人から、テレビも新聞も読まない、ほとんど廃屋のような寺に住んでる人とか。
でも、面白いことにインタビューを呼んでて、その説法を聞いてみたい、近くで勉強してみたいと思ったのは、後者の坊さんだけでしたね。経典の解釈も大事だろうけど、人間から教わりたい。それが人間なんですね。当たり前だわな
「自分の悩みにとらわれ、坐禅で救われよう。もの足りようと考える自分を捨てる」
「仏様への誓願を持つと、貧乏の意味が変わってくる。人はよっぽど謙遜したつもりでも、贅沢をするつもりはないが、人並みに生活したいと思っていて、けっして、自分がいちばん貧しくあるようにとは望んでいない。不幸や貧しさに遭っている人を見た時、『代わってあげたい』と思う人は少ない。『自分でなくてよかった』と思う」
こう言うのは、内山興正さんです。
もう貧乏寺で、訪れる人が入り口でどうしたらいいかわからないほど、ぼろぼろなんですね。
「自分だけで道を究めようとするのは、天然解道、師につかないのは天然外道と『自証三昧』で戒めている。人間は自分は一人だということは認めているが、お互い、自分は一人なんだということを実践していない。いつも勝った負けた、得した損した、愛する憎むという『二分の一の自分』しか見ていない。相対する自分しか見ていないから、勝ったとしても半分しか勝てないのである」
これも、内山興正さんなんだな。
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3 「デザートのカリスマ」
内海悟著 ビジネス社 1300円
この著者は、03年1月度「キーマンネットワーク」の特別講師です。
パシフィックコンサルタント、ドッドウェルエンドコムパニーリミテッドなどで、営業戦略立案、宣伝販促プラニング、消費開発・分析、マーケットリサーチなどをマスターしたあ、85年にミックビジネスシステム、00年にデザート・カンパニーを創業します。
この人の名前を聞いたのは、28歳で商社の新商品開発リーダーとして、年商40億円を超えるロングセラー商品を開発したでしょうね。これは、いまでも業界の語りぐさとなってます。
で、このデフレ不況下、「デザート」を切り口にして、逆風をものともせず、外食、流通、サービス、メーカーをクライアント、たった2年で250社、計1000店舗とコンサル契約を結んで(まだまだ急増中)、連戦連勝の成功を導いてるんですね。
わたしはデザート、好きではありません。でも、周囲の女性、たとえば、女子大生とか20代、30代の女性から、さらに熟女といわれる人までヒアリングすると、「あたし、デザートの内容で、店、選ぶ」という人が少なくないんですね。
メインディッシュがいちばん大事でしょうが?
「メインディッシュって、ほとんど、どこの店も味が変わらないもの」
そんなものですかねぇ。
でも、デザートは別腹というのはよく聞きます。ということは、別勘定なんですね。
ということは、理屈抜きに心をとらえるビジネスでもあるんですな。
で、著者もデザートを導入したことがない企業、たとえば、居酒屋、回転寿司、カラオケ店などなどから契約をドーンともらってるわけ。
外食産業はもうアップアップです。努力の上にも努力してます。価格破壊、新メニューの提案をここ数年、短期間に何度も繰り返してます。もう、次の段階は残された盲点、サイドメニューである「デザート」がクローズアップされてるんです。
和食の世界ではまだ浸透してませんけどね。この世界、まだまだ男性中心のメニュー構成なんですね。だから、客数の落ち込み、売上の伸び悩みで深刻なんですよ。
いまの時代、女性をつかまえないことには商売なんて成立しませんもの。
それにね、「はしご」がなくなりつつあるんです。
もう一店完結型。すなわち、一店舗の滞留時間がそれだけ長くなるってことです。
そういえば、わたしがよく使ってた「蝦夷御殿」「光林坊」なんて店は、座敷で飲んだ後、もうその場所で二次会セット。引き戸を開けると、ジャジャーンとカラオケがせり出してきますもの。
なんだ、なんだと驚いてる間に、二次会はもう始まってるというわけ。
女性が主役なんですね。
いままで食ビジネスは、「美味しさ」「安さ」「早さ」を求めてきました。効率重視のマニュアル世界でもありました。この食の世界で忘れたモノ、それが「楽しさ」なんですね。
楽しめる要素は何か?
それがデザート。
不思議なことに、原価率を高めに設定してもオーケーですよ。「美味しくて安い」と感じちゃいます。原価率はメインメニューの二倍でも集客アップ、採算も合います。トータルで利益率が上がる。これがデザートビジネスの「魔法のマーケティング」なんです。
ただし、どんなデザートでもいいかというと、そうではありません。この世界、かなり深いんです。
たとえば、どんなものでも定番がありますね。洋生菓子ではショートケーキ、シュークリーム、モンブラン、焼き菓子ではフリアン、マドレーヌ、ミルフィーユ、和菓子では饅頭、大福、どら焼き。これが御三家です。
だから、この定番を外さない仕掛けが大事なんですね。たとえば、「いちご大福」「フルーツあんみつ」といったヒット商品がありますね。これなんか、よく考えれば、イチゴと大福、フルーツとあんみつといった、昔から人気のある食べ物をミックスしただけでしょ。
デザートというのは斬新さが求められているように見えますが、実は安心して食べられる味、すなわち、定番を外さないことがポイントなんですね。
この会社の提案では、菓子職人を雇う必要もありません。店側にデザートの知識も必要ありません。それでいて、各店独自の個性的なデザートを提案できるんです。しかも、納入価格100円弱(送料込み)です。それを店頭価格300〜500円で販売できるんですね。
回転寿司屋でいちばん売れてる商品が「チーズムース」だなんて、初耳ですね。
小さな会社が儲ける「魔法のマーケティング」のヒントをいろいろ教えてくれる本です。
もちろん、キーマンネットワーク定例会にもご参加ください。よろしくね。
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