2002年12月16日「シネマと書店とスタジアム」「男が家を出るとき 帰るとき」「デザートのカリスマ」
1 「シネマと書店とスタジアム」
沢木耕太郎著 新潮社 1500円
この著者でなかったら、こんな本、読まないな。だって、テーマがバラバラ、かやくご飯みたいなんだもの。
シネマっつうのは映画。書店は本、そしてスタジアムというのはスポーツですよ。この人の得意な分野というか、いろんな雑誌に単発で書いてたものをまとめた、っつうわけです。
早い話が、書評であり、映画紹介であり、スポーツコラムなんです。
でも、やっぱり面白いね。
シネマで惹かれたのは、かなり観てるからね。わたしも暇だけはあるから(出版社の人、嘘ですよ)。『アメリカン・ビューティ』は観てないんだよね。レンタル屋で借りたのを結局観ないで、そのまま返しちゃったんだよね。
これ、やっぱし面白そう。ケビン・スペイシー、好きなんだよな。
『顔』も観てないし、なんだ、四国のホステス殺人事件か、なんて先入観、持ってたからね。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も観てないし。これって、封切りで別の映画観てた時、予告でやってて、見る気無くしたんだよね。まっ、観るか。
本では三遊亭円之助さんの『はなしか稼業』がいいな。
くだらねぇ連中ばかり出てきやんの。といっても、まだ読んでもいないんだけど。沢木さんに言わせると、そうなってるらしい。映画で『の・ようなもの』ってのがあるんだけど、あれを連想しちゃうな。舞台は違うけどね。秋吉久美子さんがソープ嬢、演ってるんだけどさ。
池宮彰一郎さんの『四十七番目の浪士』もいいな。
スポーツ編では、時期が長野の冬季オリンピックを取材したものであり、日本、韓国共催のワールドカップの取材だから、これは著者、お得意の分野。それなりに心理描写をえぐってます。
でも、著者が指摘するように雪印の原田選手が苦節四年、地獄から這い上がってメダルを取りました。「ジャンプというのは運のスポーツ」だよね。たった6〜7秒で勝負が決まる。その間、風が吹かないともうダメ。しかも、その風にしても選手からはなかなか読めないんで、コーチのサインで滑り出すわけですよ。その失敗でそうとうメダル、落としてるんじゃないかな。
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2 「男が家を出るとき 帰るとき」
志茂田景樹著 文芸社 1400円
まだらヘアに、7色タイツの奇抜なフョッションで知られる志茂田さん。この本、他人事とは思えないで読みました。
この人、まったく無頼派なのね。一浪、二留してなんとか大学を卒業するんだけど、学生時代から職を転々としてるんですね。なにしろ、モデル事務所に所属したり、エキストラで映画に出演したり、と。で、就職なんてまともに考えてない。まっ、きちんと活動しても難しかったかもしれないけど。
新聞広告見て、変な名前の会社があるとそこに行っちゃうわけ。
そんなことで、転々とします。
でもね、縁というのは恐ろしい力があるね。この人、作家になろうと考えたのは、ものすごく遅いんですよ。
生命保険の調査員をたまたまやっていた時、時間だけはたっぷりあるから、本をか片っ端から読んでた。で、文芸誌まで読み出すと、「こんな程度なら、オレにも書ける」と思い込んだ。まだ一行も書いたことないのに。
その時、奥さんの会社が倒産し、自動車関係の業界紙に入ってた。マスコミの仕事ですよ。
「マスコミの仕事ができるといいね」
ひょんなことから、奥さんにこう言われるわけ。作家になりたい、なんて一言も言ったことがない。だけど、心の中が透けて見えてたんだろうね。
かといって、ネタがなけれはそれこそ話になりません。
生命保険の調査員として、ある時、秋田の銅山後に不正な保険請求があるのでは、ということで調べに行ったんです。すると、そこが「マタギ」の村で、彼は幼時の記憶が蘇るわけ。
彼は両親が四十歳過ぎてから生まれた子なんですね。だから、可愛がられて育った。けど、父親は単身赴任で北海道に仕事に行ってたんです。父親に遊んで貰えなくて、寂しい思いをしてた時、北海道から送られてきた写真が熊を仕留めた時の写真。別に父親が仕留めたわけではなく、近在の農家の人たちがやったわけだけど、それを見た記憶が蘇ってきたわけ。
で、そのマタギに根ほり葉ほり聞くわけです。本業の調査もしたのかもしれないけど、もう、マタギが語るわくわくする話のほうが面白い。
そんなことをしてたら、ある時、北陸に行ってると、しこたま酔ってド田舎をほっつき歩いて野宿してると猛烈に下腹部が痛んでくる。
その痛みは家に帰っても、止まらない。
で、救急車を呼ぶと、これが盲腸炎がこじれて腹膜炎になってるわけ。手術、そして入院。その病院が変な病院で、治ってるのになかなか退院させてくれない。
しかも、患者もおかしいの。元やくざとか個性的な人たちがたくさん。
夜中になると、元やくざのところで「ちんちろりん」がはじまるわけ。いよいよ退院が決まった時には、元やくざか「これ、全部もってけ」と博打で勝ったお金を全部、餞別としてくれたわけ。
この変な元やくざを主人公に、彼は処女作を書きます。題して、『コウモリの死』。これが「オール読み物」の2次予選まで通過します。
「よし、毎回、応募しよう」
それから彼の応募人生がはじまるんですね。
「あの時、入院してなかったら、作家にはなっていなかっただろう」と述べてますね。人生というのは、そんなものかもしれません。
ところで、なことをしている間に、活字の世界に飛び込むんですね。データマン、リライターとペンで仕事をすることが多くなります。
いろんな作品を書いて、相変わらず、「オール読み物」に応募する。新人賞候補にまでなります。
それで副編集長から、別府の「保険金殺人事件」のルポルタージュを書いてみないか、と誘われ、書くんです。例の荒木虎美だったっけかな。あの事件です。元々、保険調査員をしてたこともあって、読者も保険の裏話が勉強できるから面白い。切り口がよかったんですね。
で、掲載号の新聞広告、電車の中吊り広告は半分がこの宣伝。
父親がものすごく喜んでたみたい。
さて、この時、普通のサラリーマンの2倍の稼ぎがありました。取材などの注文が舞い込んできますからね。
「ノンフィクションに専念して、小説は止めようかな」
でも、創作活動を続けたい。そう決心するんですね。
で、『やっとこ探偵』が「小説現代」新人賞を取ります。
そんなこんながありまして、父親が癌であることが判明します。余命3カ月と言われるんですね。
当時、彼は39歳です。
で、父親とのことがプレイバックされてくるんですね。そして、この時、例の「マタギ」を主人公に書こうと決めます。
それが『黄色い牙』。直木賞を取ります。向田邦子さんとのダブル受賞した、あのときです。
父親も医者の宣告よりも長生きしてくれました。これが運良く間に合うんですね。いちばん喜んでくれたのは、この父親と奥さんでしょうね。
ところが、好事魔多し。
直木賞受賞後から、生活が一変します。仕事も増えますし、収入も激増します。けど、もっと変わるのは有名人になって、テレビに出たりしますからね。クラブでももてるんですよ。
となると、自然、女性関係が派手になっていくんです。
あのファッションセンスは、みんな、女性たちから指導されたり、ヒントをもらったものなんですね。
その経緯、修羅場は本文をお読みください。ホント、大変なんだから。
自分で出版社まで経営するようになります。けど、これがまるでダメ。もうジリ貧です。
そんな時、サイン会に大人のファンに混じって、子供たちが多いことに気づきます。みんな、あの奇抜なおじさんを見たかったんですね。でも、彼はこの子たちに童話を聞かせてあげたい、と思うんですね。
それがじりじりじりじり、炭がじっとおこるのを待つように静かに燃え続けていたんでしょうね。
ある時、地方に行った時、何を決心したのか、「童話をなんでもいいから、7〜8冊、買ってきて」と。そして、読み聞かせをスタートしてしまうんですね。そして、ランランと目を輝かせて聞き入る子供たち。大人もそうでした。
そこから、彼のライフワーク、志茂田景樹の「よい子に読み聞かせ隊」が始まるんですね。
これは修羅場をともに演じた奥さんとの二人三脚のライフワークとなります。
人生、山あり、谷あり。この人の半生のほうがよっぽど小説より面白いよ。
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3 「デザートのカリスマ」
内海悟著 ビジネス社 1300円
この著者は、03年1月度「キーマンネットワーク」の特別講師です。
パシフィックコンサルタント、ドッドウェルエンドコムパニーリミテッドなどで、営業戦略立案、宣伝販促プラニング、消費開発・分析、マーケットリサーチなどをマスターしたあ、85年にミックビジネスシステム、00年にデザート・カンパニーを創業します。
この人の名前を聞いたのは、28歳で商社の新商品開発リーダーとして、年商40億円を超えるロングセラー商品を開発したでしょうね。これは、いまでも業界の語りぐさとなってます。
で、このデフレ不況下、「デザート」を切り口にして、逆風をものともせず、外食、流通、サービス、メーカーをクライアント、たった2年で250社、計1000店舗とコンサル契約を結んで(まだまだ急増中)、連戦連勝の成功を導いてるんですね。
わたしはデザート、好きではありません。でも、周囲の女性、たとえば、女子大生とか20代、30代の女性から、さらに熟女といわれる人までヒアリングすると、「あたし、デザートの内容で、店、選ぶ」という人が少なくないんですね。
メインディッシュがいちばん大事でしょうが?
「メインディッシュって、ほとんど、どこの店も味が変わらないもの」
そんなものですかねぇ。
でも、デザートは別腹というのはよく聞きます。ということは、別勘定なんですね。
ということは、理屈抜きに心をとらえるビジネスでもあるんですな。
で、著者もデザートを導入したことがない企業、たとえば、居酒屋、回転寿司、カラオケ店などなどから契約をドーンともらってるわけ。
外食産業はもうアップアップです。努力の上にも努力してます。価格破壊、新メニューの提案をここ数年、短期間に何度も繰り返してます。もう、次の段階は残された盲点、サイドメニューである「デザート」がクローズアップされてるんです。
和食の世界ではまだ浸透してませんけどね。この世界、まだまだ男性中心のメニュー構成なんですね。だから、客数の落ち込み、売上の伸び悩みで深刻なんですよ。
いまの時代、女性をつかまえないことには商売なんて成立しませんもの。
それにね、「はしご」がなくなりつつあるんです。
もう一店完結型。すなわち、一店舗の滞留時間がそれだけ長くなるってことです。
そういえば、わたしがよく使ってた「蝦夷御殿」「光林坊」なんて店は、座敷で飲んだ後、もうその場所で二次会セット。引き戸を開けると、ジャジャーンとカラオケがせり出してきますもの。
なんだ、なんだと驚いてる間に、二次会はもう始まってるというわけ。
女性が主役なんですね。
いままで食ビジネスは、「美味しさ」「安さ」「早さ」を求めてきました。効率重視のマニュアル世界でもありました。この食の世界で忘れたモノ、それが「楽しさ」なんですね。
楽しめる要素は何か?
それがデザート。
不思議なことに、原価率を高めに設定してもオーケーですよ。「美味しくて安い」と感じちゃいます。原価率はメインメニューの二倍でも集客アップ、採算も合います。トータルで利益率が上がる。これがデザートビジネスの「魔法のマーケティング」なんです。
ただし、どんなデザートでもいいかというと、そうではありません。この世界、かなり深いんです。
たとえば、どんなものでも定番がありますね。洋生菓子ではショートケーキ、シュークリーム、モンブラン、焼き菓子ではフリアン、マドレーヌ、ミルフィーユ、和菓子では饅頭、大福、どら焼き。これが御三家です。
だから、この定番を外さない仕掛けが大事なんですね。たとえば、「いちご大福」「フルーツあんみつ」といったヒット商品がありますね。これなんか、よく考えれば、イチゴと大福、フルーツとあんみつといった、昔から人気のある食べ物をミックスしただけでしょ。
デザートというのは斬新さが求められているように見えますが、実は安心して食べられる味、すなわち、定番を外さないことがポイントなんですね。
この会社の提案では、菓子職人を雇う必要もありません。店側にデザートの知識も必要ありません。それでいて、各店独自の個性的なデザートを提案できるんです。しかも、納入価格100円弱(送料込み)です。それを店頭価格300〜500円で販売できるんですね。
回転寿司屋でいちばん売れてる商品が「チーズムース」だなんて、初耳ですね。
小さな会社が儲ける「魔法のマーケティング」のヒントをいろいろ教えてくれる本です。
もちろん、キーマンネットワーク定例会にもご参加ください。よろしくね。
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