2007年06月24日「天才をプロデュース?」 森且行著 新潮社 1260円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「ビートたけし&北野武」という巨大ビジネス、という帯コピーがすべてを表現してますな。

「今日はどっちだっけ?」と、たけしさんは著者に訊くのね。つまり、映画監督で文化人でインテリな線の北野武を演じるのか、お笑いでかぶり物でパンツ一丁でバカをやるビートたけしを演じるのか、いったい今日はどちらを演じればいいんだい、と確認するわけよ。

 で、番組が要求する期待に応えるの。いわば、創造的多重人格とでもいうんかいな。一人二役。

 意外とこれ、愉しいと思う。このブログでも、「中島孝志は2人いる」とか「3人いる」とか言われてるけど、その場その場でどんな表現がいいか、自然と書きやすいほうで表現してるもんね。

 まっ、たけしさんの場合は、期せずして「北野武」が増えちゃったんだけど。
 なんで?

 それを説明する前に、著者の身分を明らかにしとこうか。森さんはオフィス北野の社長さん。
 社長になっちゃった理由もたまたまでね。

 元々は制作会社のディレクターでも欽ちゃんやドリフの番組作ってたの。けど、これら大御所たちよりもたけしさんのほうが身近に感じられたらしい。まっ、相性がよかったんだと思う。
 で、いろいろ仕事してたわけ。

 ところが、ある時、「たけし独立、社長は森且行」とスポーツ紙にガセネタが載っちゃった。
 こりゃ大変ですよ。森さんとこの社長もカンカン。問い詰めるんだけど、本人も寝耳に水で答えようがない。
 で、たけしさんとこに、「あれは、いったいどいうつもりですか?」と事実確認に行ったわけ。

 「独立すんのはホントなんだけど・・・こうなったら、手伝ってくんない?」
 「え?」

 結局、やることになんのよ。瓢箪から駒、嘘から出た誠ってヤツ?

 たけしさんが監督やるようになったのも、元々は18年前に深作欣二監督が「灼熱」という映画を撮ることになってたのね。で、出演をOKしたんだよ。
 ところが、深作さんは60日間撮影にいるっていうわけね。けど、そんな時間、たけしさんにはない。で、深作さんが降りちゃった。じゃ、だれが監督やるか?
 たけしさんにしてみたら、深作さんだから引き受けたわけでさ、ほかの監督ならやんないんだよ。
 
 なんだかんだするうちにさ、なら、自分で撮ろうかってんで、監督やったわけ。

 でも、これは流れでたまたまやっただけだからね。中途半端だし、不完全燃焼だったんだろうね。結局、完全燃焼するために、本格的にのめりこんでいくわけだよ。

 「お笑いやってる人は映画撮れるって」のが著者の意見。考えてみればわかるけど、たしかに、お笑いってシナリオだもんね。ストーリーを自分で考えて、膨らませて、演じて、お客に見せて、笑わせるわけでしょ。
 だから。

 著者は社長業。けど、そんなにたけしさんとべったり仕事をしてるわけじゃない。
 それは彼の発想が自由にならなくなねからね。社長はやっぱり社長なんだよ。話をするときは必ずビジネスなのね。だから、たけしさんも呑むこともほとんどない、だって。仲間内での飲み会でも、それとなく断るようにしてるって。

 私、これ、ある意味で正解だと思う。

 強烈な個性の持ち主と長くやるには、あまり、近づきすぎたらいかんのよ。親切にしすぎてもダメ。贔屓の引き倒し。醜女の深情けはいかんのよ。
 強烈な個性というのは太陽だかんね。太陽に近づきすぎると、翼が焼けて落ちたイカロスになっちゃうわけ。
 長続きさせるには、不即不離がいいんだよ。

 「役員になってよ」
 「いいえ、コンサルタント契約しましょう」

 これがお互い、長くやれる秘訣です。もちろん、相手が太陽じゃなくて月のタイプならちがうけどね。200円高。