2007年06月25日「役者烈々」 佐貫百合人著 三一書房 1800円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 この前、DVD「若者たち(全3巻)」をご紹介しました。あれ、俳優座映画放送の製作なのね。
 もち、俳優座所属の俳優たちが全面出演してますよ。

 俳優座ってのは、正確には俳優座演劇研究所といいます。18年間、俳優を育成教育するための付属養成所を運営してたんです。

 いまから40年前に閉鎖。その後、桐朋短大に吸収されたんだけど、この間、この俳優座養成所(3年間)で学んだ人材はまるでキラ星のようですよ。
 たとえば、どんな人がいるか、少しご紹介しましょう。また、私が大好きな俳優については少しコメントさせて頂きます(あまりにも多いんで敬称略)。

第1期。野村昭子(渡る世間の常連。若いときからおばちゃん役なんだけど、この人、たしか東京薬大出身のはず)、岩崎加根子。
第2期。小沢昭一(あの小沢昭一さんです)、高橋昌也、滝田祐介、宮崎恭子(仲代達矢の奥さん)、佐藤英夫(チャコちゃんのドラマ上のパパ役)、菅原謙次(新派の大御所)。
第3期。安井昌二(新派。チャコちゃんのホントのパパ)、愛川欽也、穂積隆信(積み木崩し)、渡辺美佐子(「君たちは魚だ!」知らないでしょ?)。

 後は順不同でいきまっせ。仲代達矢、佐藤慶(「白昼夢」、大島渚作品の常連。この人、元々、市役所の戸籍係だったらしいよ)、中谷一郎、宇津井健、平幹二朗、今井和子(「ザ・ガードマン」によく出てたな。泣きぼくろが色っぽくてねぇ)、ジェームズ三木、藤田敏八、赤座美代子(「牡丹灯籠」では息を呑む美しさだった)、市原悦子(「家政婦は見た」)、田中邦衛、井川比佐志、露口茂、藤岡重慶、山本学・圭、水野久美(山本学の奥さん)、山崎努、山本耕一(そうなんですよ、川崎さん!)、嵐圭史(私、「子午線の祀り」見たよ)、河内桃子(「背信」見たよ)、柳生博、富士真奈美(おみゃ〜、加代づら)、中野誠也(この人、いい役者だよね)、工藤堅太郎、伊藤孝雄(出ました!「戦争と人間」の標耕平の兄貴役)、勝呂誉、東野英心、松山英太郎、樫山文枝(おはなはん)、長山藍子、加藤剛、横内正、細川俊之、石立鉄男、佐藤オリエ、佐藤友美、結城美栄子、稲垣美穂子、真屋順子(見栄晴のお母さん役)、清水紘治、串田和美(自由劇場)、新橋耐子、吉田日出子、林隆三、原田芳雄、江守徹、前田吟(寅さんの妹さくらの夫役)、夏八木勲、浜畑賢吉(四季)、三田和代、小田切みき(黒沢映画「生きる」で有名。チャコちゃんのママ)、秋野太作、太地喜和子、古谷一行、峰岸徹、大出俊、栗原小巻、成田三樹夫、大山のぶ代(ドラえもんね)、地井武男、高橋長英、中村敦夫(政治家)、近藤洋介、村井国夫、小野武彦、橋本功・・・等の皆さん。

 なんとまぁ華やかなことでござんしょう。

 俳優座養成所がオープンしたのは、1949年。新劇界でもっとも魅力を集めていた俳優座(1944年設立!)が、青山杉作、千田是也を看板に3年制の学校を作ったわけですよ。

 戦前から、劇団の養成所はあったけどね。たいてい半年〜1年くらい。しかも、舞台の手伝いをしながら俳優になるというケースが多かったの。
 もっとシステマティックに演技の勉強ができるように、豪華布陣を敷いたのね。
 となれば、定員50人のとこに235人集まるのもわかりますよね。

 中には、高校演劇の花と呼ばれた高橋昌也。子役から有名だった小田切みきなど、審査員だった小沢榮太郎や村瀬幸子が試験場で見つけて驚きの声をあげた、とか。
 まさに百花繚乱ですな。
  
 でも、この中でも猛虎の戦いというか、ライバルがいるわけだよ。
 たとえば、仲代達矢と平幹二朗、加藤剛と中野誠也、三田和代と栗原小巻ね(渡辺美佐子とか市原悦子は向かうところ敵無し。ダントツだから)。

 仲代と平は1期違い。平は2回目の試験で合格したの。最初の失敗は広島訛りが原因。で、この1年のちがいが序列にうるさい劇団の中では致命的でね。
 平が演じたい役はことごとく仲代にもってかれてしまう。
 となれば、劇団の外に飛び出て舞台を求めるしかない。そこで、飛び出ます。結果、四季やNHK等でも活躍するわけですよ。

 加藤剛は「人間の条件」(五味川純平原作)で売り出すわけ。これ、映画は仲代が主役の梶を演じました。テレビでは加藤と中野がデッドヒートだったんだけど、すでに劇団員で時間が拘束されていた中野はスケジュールの都合が付かず、留年すればいい加藤が射止めるわけ。
 この運がその後、大きく左右してますね。

 俳優座出身の役者でいちばん好きなのは、やっぱ、成田三樹夫ですな。

 この人、東大理学部を1年足らずで辞めちゃうのね。「相性が合わない」だって。
 趣味の将棋はめちゃ強くて、NHKで解説してたほどの腕前。
 完全なるマイウェイ人間だから、卒業してもどこの劇団からも誘いがないの。で、自分で履歴書送ってね、ようやく、大映の大部屋に入れてもらえた。
 けどさ、あの個性、あの迫力、あの存在感だかんね。すぐに頭角を現しますよ。

 勝新太郎の「兵隊やくざ」「座頭市」。東映では「仁義なき戦い」。コミカルな役も器用にこなしたよね。「探偵物語」とかさ。
 生きてりゃ、映画にドラマにバラエティに引っ張りだこだったはず。
 山形出身だから、藤澤周平作品には欠かせない役者だったはず。
 惜しいですなぁ。

 それにしても、本書は芸能記者である著者が230人もの俳優座の人間にインタビューしてまとめた力作です。まさに力作。面白いエピソードがたっぷり。

 前田吟など、三田和代から「見たことないほどのビンボー」といわれたりしてね。三田さんは弟は「ぼくってなに?」の三田誠広さん。実家は関西の有名企業のオーナーだかんね。
 前田さんは幼くして天涯孤独。高校1年で街娼に喰わせてもらってた時期もある、という筋金入りのビンボー。

 原田芳雄は1年両年すんだけど、その原因が栄養失調。細川俊之など、「元祖ムーディ勝山」と呼んでいい人だけど、バレエのレオタードが買えなくて「ステテコ」でずっと踊ってたっつうんだからねぇ。

 今も昔も芝居をやるっつうのは、ビンボーと同意語なんだよね。テレ朝で「銭形金太郎」やってるけど、あれ、ほとんど演劇やってる貧乏人だもんね。

 芝居は出演が決まると、その期間、稽古や公演でバイトも辞めなくちゃいけないからさ。いっつも不定期、日雇いの仕事しかできないんだよね。けど、出たい。やりたい。演じたい。

 けど、人生棒に振ってもかまわない仕事ができたら、まぁ、めっけもんかもよ。280円高。