2002年11月11日「ベンチャー 失敗の法則」「思考のレッスン」「風のように・嘘さまざま」
1 「ベンチャー 失敗の法則」
吉田雅紀著 国際通信社 1200円
著者は大阪産業創造館あきない・えーど所長です。
いま、同志社の大学院に通ってるみたい。といっても、四十代でまた勉強してるってことですね。
読んでてわかったのは、この人、昔、友人が創刊した雑誌でインタビューされ、それがそのまま、「快人二十面相」という本に掲載されたらしい。二十代で本になり、浮かれて、社内的にも油断してしまったと書いてあります。
元々、バブル崩壊前に社内ベンチャーとして「ポムアレー」というフランチャイズ・ビジネスを立ち上げます。
こういうスタイルは、あのころ、たくさんありました。新事業を立ち上げなければ、ニュースにすらならなかった時代です。大企業は新卒採用のためにも、ファッションとして新事業開発を手がけていたのではないでしょうかね。
主宰するキーマンネットワークという勉強会にも、上場企業の役員、部長職が毎回、三、四十人は参加してましたもの。
「なんか、いいビジネスなーい?」なんてね。
自らビジネスプランを役員会に提案し、それが通る。
社内で嘱望された若手社員がマネジメントを担当する。取材され、新聞、雑誌、テレビに出る。
社内では、「スター」。本人もそのつもり。
そこに落とし穴があるんですね。
ベンチャービジネスの経営者というのは、マスメディァとの距離感をどう取るか。ここが最大の問題だと思いますね。
というのも、マスメディアを味方につけないと、いまの時代、投資家に注目されません。人の採用、宣伝媒体と考えれば、マスメディアは最高です。
かといって、マスメディアに出まくっていても、本業がおろそかになってしまいますね。
だから、メディアに出過ぎもダメ、出なさ過ぎもダメ。
要は、自分の問題なんですね。メディアとの距離感をどう取るか。これは経営者の生き方、仕事の仕方がすべて浮き彫りになります。
著者は新スタイルのセレクトショップを立ち上げます。
赤ちゃんから幼児まで、こだわりの商品を提案する。いいものだけを目利きが選ぶ。まさに、バブル時代のコンセプトですね。
南千里と多摩プラーザに出店。一年間かけて、ビジネスプランは練りに練り上げた。
七年間で店舗は十二になってました。でも、悩みがあった。
一つは既存店の売上不振。もう一つは、加盟店が増えないこと。
理由は簡単です。儲からないからです。
売れる店と売れない店が出てきた。これはフランチャイズとしては、致命的ですね。
フランチャイズというのは、標準化をどこまで追求できるか、実現できるか。凸凹があっていけないビジネススタイルでしょ。それが凸凹ばかりでは、プランそのものが失敗ということではないですか。
実際、プランがダメだったんです。
事業をスタートしたのが三十歳。すべてを手仕舞ったのが三十九歳。
で、もう一度、勉強しようと大学院に通ったわけですね。
大学に行ったところで、どうなるものでもありませんけど、著者はテーマが明確ですからね。
「なぜ、オレは失敗したんだろう?」
見るもの、聞くものすべてがマネジメントの勉強になります。
そこで、いきなり気づいたのは、「失敗には法則がある」ということでした。
著者はブックオフとか日本アシストとかの社長にもインタビューしてます。それも掲載されています。
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2 「思考のレッスン」
丸谷才一著 文藝春秋 448円
芥川賞、直木賞など、文壇のいろんな賞の選考委員などをしてる先生ですね。
この人をはじめて知ったのは、高校生の時でした。NHKで「たった一人の反乱」という2時間ドラマみたいのがあったんです。それが面白かったんで、原作を図書館で借りて読んでみたってわけです。
でも、それだけだったな。あとにも先にもそれで終わり。その後しばらく経ってから、「文章読本」のようなものを出したようですが、ちんぷんかんぷん。わたしの頭ではついていけませんでした。
さて、「考え方」「アイデアを生む方法」を伝授する待望の名講義、と帯コピーにあります。
人が思いつかない、考えつかないことをどうゲットするか。これはビジネスマンにとって、ものすごく魅力的な能力ですね。
で、編集者が丸谷先生に質問を繰り返す。それに答える。で、一冊の本になる。それが本書です。
日本語と日本文化に一家言持つ方だけに、どんな切り出し方があるかと期待しましたが、かなり、わかりやすくまとめられています。これは講義というスタイルでまとめたからでしょう。
たとえば、レトリックのところで、「白玉クリームあんみつ」という甘味処の品書きを発見。
「昔の日本人なら、これは、夏の月といった名前をつけるでしょうね」
ネーミングの重要性ですね。でも、最近は火曜サスペンス劇場ではありませんけど、すべてが説明調のネーミングになってます。
白玉、クリーム、あんみつ。もう、これ、そのものずばりですもんね。
「夏の月」といったイメージとして統合はしないんです。洒落にもならない、直截的な表現。それが現代日本人の限界なんですな。なんか、風情がありませんな。
でも、日本語のいい点も一つ。
よく、外国語と比較して「日本語は最後の最後にならないと結論がわからない」と揶揄されます。たとえば、「・・・・とは思わない」「・・・ではありません」といったように、たくさん話しておいて、文章の末尾になってはじめて、「なーんだ。否定語か」とわかるんですね。
これが英語の場合は、最初にイエス、ノーがはっきりしてるでしょ。
だから、「あぁ、そうか。この人は反対なんだな」「賛成なんだな」と、最初にスタンスがくっきり、はっきり、すっきりわかりますね。
そこをとらえて、「だから、日本語はダメなんだ」という議論がなされることも少なくありません。
でもね、日本語にも最初にサインを出すケースがたくさんあるんです。
たとえば、「せっかくですが・・・・」「ありがたい提案ですが・・・」といった切り出し方があります。
これなど、ジャブを効かせてるんですね。
「あぁ、反対なんだな」と勘づきます。そして、その理由が出てくるわけですね。聞いてる方は、「さぁて、どうするかな。どう切り返すかな」と相手が話しているうちに考えられるわけですよ。
ここらへんはあうんの呼吸できちんと聞いてないと、つかまえられません。
早い話が、日本語というのはきっちり聞いて判断する言葉なんですね。いい加減なようでいて、実は感受性が鋭くないとコミュニケーションできないんです。
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3 「風のように・嘘さまざま」
渡辺淳一著 講談社 514円
日本語はあいまいに、とことんぼやかしてやろうと思えば、限りなくぼかしていけます。
たとえば、官僚言葉。
「極めて遺憾なことであり、申し開きの余地のないものと考えている」
「弁解の余地のないことで、ものすごく残念です。ごめんなさい」
ひどいのは、太平洋戦争の宣戦布告の文章ですね。
大使館の電信課員として解読していた吉田寿一さんという人が、「あんな曖昧な表現が宣戦布告の文書だとは思ってもいなかった」と述べてます。
どういうものか。
「帝国政府ハ・・・今後交渉ヲ継続スルモ妥結ニ達スルヲ得ズト・・・合衆国政府ニ通告スルヲ遺憾トスルモノナリ」
こんな文章で、相手に伝わるのか。
翻訳する人間がそこに悲壮感だとか、危機感だとか、決意みたいなものを感じ取らなければ、まったくメッセージとして意味はありません。
だから、彼は「アメリカ合衆国との交渉は残念ながらうまくいかなかった。ものすごく残念なことである。ついては、今後・・・」というように、平素の文章ととらえてしまったわけです。
この文章は十四部からなる覚書の最後の最後の文章です。本当に宣戦布告の文章ならば、ずばり、だれでも理解できるように明確に宣言しなければならないんです。
これでは、「不意打ち」「闇討ち」ととられても仕方ないかもね。昔から、外務省の連中というのは、危機感がなかったのではなく、国内の政治家、日本人とのコミュニケーションができていなかっんでしょうな。
沖縄からの帰途、機中でのこと。
「ただいま、機内に病気の方がいますので、お客様のなかにお医者様がいらっしろゃいましたら、ご連絡頂けないでしょうか」
この人、すぐには出て行かなかったという。飛行機はジャンボ。しかも満員。ということは、医者の一人や二人はいそうだったからだという。
その病気の人というのは、同じシートの前の方にいることはわかっていた。クルーが集まって介抱してるようだけど、医者はいっこうに現れない。次第に心配になってきた。
かつて、若かった頃、同じような状況があった。その時、「もし、あとでベテラン医師が来て、自分の処方が間違っていたら恥ずかしい」という遠慮があった。
でも、あまりにも現れないので、これでも、以前は医師だったではないかと奮い起こして、名乗り出たというわけです。
年齢は五十代半ば。小太り。
「お知り合いですか?」とクルー。
「いえ、ちょっと医者をしていたことがあるので」
不思議そうな顔で見ていた、といいます。
呼吸は正常、脈は弱いが意識ははっきり。胸から背中に突き刺すような痛みもない。
どうやら、旅行で疲れていたので、飛行機に乗る前に大量の薬を飲んだという。その後、まもなくして気持ちが悪くなってきたらしい。
カバンの中身を見せてもらってびっくり。ビニール袋に5、6種類、色とりどりの薬。 主に高血圧に対する薬だけれども、ニトロまである。身体が弱ってる時に、これだけの薬を飲んだら具合が悪くなるのも当たり前。すべての薬は毒だから効くんです。携帯食並に薬を出す方も出す方だけど、飲む方も飲む方ですよ。
「薬の飲み過ぎでしょう。このままじっとしてたら、直、良くなりますよ」
実際、その通りになります。
かくして、無事着陸。クルーが名刺をくださいとのことなので渡すと、またまた怪訝そうな顔をする。勤め先の病院も専攻科目も書いてない。理由をいう必要もないからそのまま降りてきた。
「ああいう場合、あとでお礼が来るんでしょうか」と同行の編集者。
実は待てど暮らせど、機中で具合が悪くなった人はもちろん、航空会社からも来なかった。
「やっぱり、薬も注射もしてないからですよ」
日本の医療制度では、コンサルタント料は極端に低く、そのため、医師たちは余計な注射をしたり、薬を出し過ぎるわけです。
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