2002年11月04日「MBA実践ビジネス問題集」「そのままでは潰れるよ」「パッチ・アダムス いま、みんなに伝えたいこと」

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」



1 「MBA実践ビジネス問題集」
 相葉宏二著 日本経済新聞社 1500円

 「Q&Aでわかる」というコピーの通り、全部で30問のケースが紹介されています。
 で、それについて答えていくといったやり方。
 内容は「アカウンティング」「マーケティング」「論理的思考方法とオペレーション」「ファイナンス」「人と組織」「ゼネラルマネジメントと経営戦略」です。

 MBAといっても、易しい設問からスタートしています。
 たとえば、「沼野くんの靴安売りビジネス」とか「大崎食堂の出張ビジネス」「かもめ銀行江島支店での騒動」とか、わかりやすく、おもしろいケースを作って勉強できるようになってます。
 MBA教科書の入門の入門として、読んでおくといいでしょう。
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2 「そのままでは潰れるよ」
 木子吉永著 あさ出版 1400円

 著者は東亜食品工業という会社の経営者であり、コンサルタント。
 いままで、「なぜ儲からないのか」「なぜ売れないか」「だから儲かる」という本を出してます。

 一貫してテーマに掲げているのは、小さな会社のマネジメントについてです。

 現役社長として、マネジメントの教科書で論じられてきた「ウソ」について厳しく指摘してます。
 たとえば、「イエスマンをそばに置くな」というメッセージ。
 社長以上に会社のことを考えてる人間は、どこを探してもいません。とくに中小企業はそうですね。
 だから、社長の意見に社員が「それは反対です」と主張するのは、全体足並みが乱れるだけで百害あって一利無し、というわけです。社長がこうしたい、と言ったら、「はい、わかりました」と従った上で、「ここをこうすれば、もっとよく良くなる」と逆提案する。こういうイエスマンが欲しいんですね。
 それをいちいち「ノー」とばかりいう社員はいらないんです。

 こういう会社は潰れる、というものがあります。それは「変われない会社」のこと。
 著者自身、いままで6回変わってきました。
 まず1回目の変化。
 昭和39年。食品メーカーとして、主力商品は缶詰でした。豚の内臓の缶詰を東南アジアに輸出販売してたんですが、中国が同じような商品をかなり安く大量生産。価格的に負けて、缶詰に見切りをつけます。
 そして、当時、ヒットの兆しを見せていた冷凍食品に切り換えようとするんですか、肝心の製造方法がわからない。

 で、2回目の変化。
 大手メーカーの下請けになるんです。そうすれば、製造ノウハウが勉強できますからね。
 これでメンチカツや肉団子を開発。これが売れに売れ、「会社は安泰」となるはずが・・・。
 その大手メーカーから突如、契約打ち切りの通知。自分のところで作るってわけですね。
 しかし、文句は言えません。
 となると、自社ブランドで販売するしかありません。
 これが3回目の変化です。

 脱下請けは言うは易く、行うは難しです。普通は、独自の流通ルートを持たず、知名度のない、ブランドのない会社では、なかなか無理なんです。
 けど、この会社は冷凍プリンと「ムーンパイ」という商品でかなりの売上をあげることができました。
 「このまま成長軌道に乗って」と目論んでいると、今度は石油ショック。もう踏んだり蹴ったりですね。社長なんて、やってられませんよ。責任ばかり多くてね。

 消費者のニーズも明らかに変わります。こうなると、自社生産だけでは間に合いません。
 そこで、第4の変化。
 そう、アウトソーシングですね。
 第5の変化は、顧客面です。
 昭和42年から10年近く、学校給食というマス・ユーザーを対象に商品開発をしてきました。それで収益をあげてきたわけです。
 でも、大手がすぐに真似をする。新商品を出すと、すぐに後追いをされるわけですね。
 だから、この給食も産業用へとチェンジしていきます。言い換えれば、大口顧客から小口顧客への変更です。
 小口は手間暇がかかります。かといって、営業マンを雇うわけにはいかない。
 で、第6の変化。
 それが営業マンを増やさず、DMやハガキで顧客を開発することです。つまり、訪問販売からハガキ営業への転身ですね。
 こうやって、著者の会社は生き延びてきました。ホントに会社を経営するってのは、大変なことなんですよ。
 会社を変えるには、会社のもっている資産「商品、顧客、社員」に目をつけます。そして、これを変えてしまう。すべて変えるという手もありです。
 商品を別ルートで販売できないか。
 本業の顧客に別商品を販売できないか。
 あるいは、会社のなかの工程そのものを無くしてしまうことも考えられます。
 
 従来のやり方で行き詰まっているならば、従来の方法とはまっく逆をやってみる。すると、視界がはれてくることが少なくないんですね。
 たとえば、ペイオフを前にした銀行業界。いま、延期するとかですったもんだですけどね。いずれにしても、1千万円までしか保護されないんですね。だから、預金の移動がどんどん行われていきます。
 この時、A銀行とB銀行はタイアップし、A銀行で1千万円超えてる部分はB銀行にそのまま移管することを勧め、B銀行で1千万円超えてる部分は、今度はA銀行へと移管することを勧めるわけです。
 まっ、談合ですな。でも、これで成果を上げた。お客も便利ですしね。
 この時、金融機関は自分の顧客の囲い込みに必死でしたよ。でも、このA、Bの銀行は、流れは止められない。ならば、お互いに弱い銀行同士でタイアップし、他の金融機関にだけは流れないようにすればいい、と利害一致したから、こういう提携をしたわけです。
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3 「パッチ・アダムス いま、みんなに伝えたいこと」
 パッチ・アダムス著 主婦の友社 1400円

 「患者がもっとも切実に求めているものは、共感とコンパッションだ。心を通い合わせることは、私たちがしてあげられ最高のことである」
 これがパッチ・アダムスの哲学です。

 ところで、パッチ・アダムスって、知ってますか?
 そう、ロビン・ウイリアムス主演で四年前に映画化されたはちゃめちゃ医師。
 それがパッチです。

 末期ガンのお婆さんが「死ぬまでに一度で良いから、スパゲッティがたくさんのプールで泳ぎたい。子供の頃からの夢なの」と聞いた時、徹夜でスパ風呂を作って一緒に遊んだ人であり、余命幾ばくもない子供たちの病棟に行っては、クラウン(道化)になりきって「笑い」を振りまいた人。
 つぎはぎだらけの道化師になって登場。パッチって、「つぎはぎ」という意味ですよ。パッチワークのパッチですからね。

 パッチの病院はウエストバージニアのポカホンタスにあります。
 学生時代に理想の医療システムの設計図を描き、1971年に仲間20人とたった6つのベッドルームしかない家で共同生活をスタートします。
 「教授たちは患者とは一定の距離感を保ちなさい、というんだ。でも、それは間違いだと思う。愛と笑いは副作用のない特効薬さ。この世でいちばんの苦しみは孤独だ。さみしいから何かで癒されようともがくのはやめて、苦しんでる誰かを抱きしめてあげよう。すると、不思議なことに、あなたの心と体にも力がみなぎり、喜びが溢れてくるんだよ」
 出産から死に至るまで、24時間体制であらゆる患者の問題を解決しようとします。
 このプロジェクトは12年続き、1万5千人の患者を診ます。うち、3千人は重度の精神病患者ですが、一回たりとも薬を出したことがありません。中枢神経をやられてしまうからですね。

 では、その代わりに何をするか。
 ずっと抱きしめて話を聞くんです。彼自身、11時間もハグしていたことがある、と言います。
 この人たちは、ほんとうに孤独でさみしくて、さみしくて、どうしようもない人たちだった。だから、愛と笑いで救おうとしたわけです。
 「子供が痛みを訴えたら、母親はどうしますか? まず抱きしめる。優しく背中をなでたり、愛で応える。これはとても自然なやり方なんだ」
 愛の効き目は薬どころじゃないんですね。

 ところで、パッチたちは、患者から報酬を受け取っていません。だから、医師自らバイトで稼ぐんです。

 実はパッチ自身、十代の終わりに強い自殺衝動で精神病院に何回も入院してるんです。
 彼を助けたのは、母親と同じ病室の精神病患者でした。母親は常に「おまえはできる」と励まし続けました。

 映画にもありましたけど、3回目の入院時に同室になった患者は、ここ十数年というもの、一睡もしたことがない。彼は孤独で自分を責め続ける人。幻視のリスが怖くて、トイレにも行けない。
 「その時、ボクははじめて、自分の苦しみを放り出して、彼の面倒を見たんだ。彼に感情移入して、その苦しみの中に飛び込んでいったのさ」
 すると、どうなったか。一緒に幻視のリスの大群と戦い、大騒ぎを繰り広げ、そして最後には大笑い。すると、魔法が起こった。彼は十数年ぶりに安心して、ぐっすり眠ることができたんです。

 「愛とは降参すること。自分自身を無条件で差し出すこと。中途半端な腰抜けにはなるな。人生を丸ごと全部愛してごらん。その中に飛び込んで、自分をすっかり委ねてしまうのさ。仕事、自然、子供、恋人、つまり人生のすべてに対して、無心になって飛び込んでいけばいい。あなたの人生はもっと美しく、大きなものになる」

 パッチはいつも明るい、周囲を明るく照らす太陽のような存在です。
 でも、死ぬほど苦しいことも少なくありません。
 たとえば、友人の医師を患者によって殺された時が最悪でした。
 「自分は白人で頭がとても良いから、すべてを支配する。その他の人間はルールに従わないといけない」と思い込んでる精神病患者。この男はだれかれかまわずつかまえては、「殺してやる!」と病院のまわりをうろついていました。
 それでパッチは、ルイスに「しばらく、彼を連れてこないで欲しい」と頼むんですが、逆に、このルイスが刺されてしまうんです。

 「神様、なにか印をお示しください。でなければ、ボクは悲しくて死んでしまいます」
 地面に崩れ落ちて泣いていると、目の前に蝶が一匹飛んできます。映画にもありましたね。
 そして、蝶はじっとパッチの目をのぞき込んでます。永遠の長さに感じられた、と言いますが、ものの5分くらいのものでしょう。それから、ずっと肩に止まったまま。
 その時、パッチはルイスのジャケットの背中に蝶が描かれていたことを思い出します。
 「そうか。すべてはうまくいくよというために、ルイスがボクを訪ねてきてくれたんだ。もし、ルイスの死で診療をストップしてしまったら、彼はボクに蹴りを食らわすだろうな」
 
 パッチは余命告知は絶対にしません。
 「だって、余命1ヶ月といったって、半年生きるかもしれない。そんなだれにもはっきりとわからないことは言わない。それより、いまが大事。生きているということが大事。だから、普段から死について患者と話し合っている。死ぬまでは生きているんだから、それまでは笑って生きるんだ、と」
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