2007年07月11日「こんなオレでも働けた」 蛭子能収著 講談社 1260円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 脱力系の作家というか漫画家というと、この人・・・と勘違いされやすいんですよね。
 この人の絵って、かなりしたたかなんですよね。ホントは。

 蛭子さんて、好きだなぁ。競馬好きというのがいいねぇ。三度の飯より博打好き。好きですなぁ。

 で、サラリーマンをこよなく愛してる。これも共感しまんにゃわ。
 
 「サラリーマンなんかしてたら、好きなことなんかできるわけない」
 とか言うじゃん。これ、大間違いなんだよね。サラリーマンという恵まれた環境にいる間に、好きなことできなかったら、独立なんかできるわきゃないの。
 
 「ボクは好きなことをしたいんです」って、サラリーマン辞めちゃう人いんだけど、結局、好きなことできる人って半分もいないんじゃないかなぁ。

 「映画撮りたいんでサラリーマン辞めます」なんつって、結局、生活のためにAV撮影にどっぶり浸かってたりしてさ。「作家になりたいんで覚悟を決めました。背水の陣で臨みます」なんつって、結局、つとめていた出版社の下請けに甘んじてたりしてさ。
 「これならムーンライターしてたほうがよっぽど良かったよ」って悔やんでも後の祭りなんだよ。
 ムーンライターつうのは、昼間はサラリーマン、で、夜になると物書きに変身する二毛作の人ね。

 東洋経済時代の私がそうでした。財界首脳のインタビューをしてて、それを本にしてあげたらベストセラー連発。あの会社、社員が書いても印税ちゃんとくれるから、気づいたら本給よりずっと多いの。
 なら辞めちゃおうか。ダイヤモンド社からも連載頼まれてるしぃなんて、ホントに気軽に辞めちゃったもんなぁ。

 けどさ、いまから思えば、交通費も各種手当てもボーナスまで出るサラリーマンを辞めるこたぁなかったかもね。東洋経済ってのはホントにいい会社で、講演しようがテレビに出ようが、他社で本を出版しようがすべて自由。とにかく、仕事で結果さえ出してれば、なにも言わない、言われない。
 いちばんいいのが、社内でやっかみがないとこかな。
 やっかみがない理由は、そういう社員が多いからなのね。たとえば、TBSは経済部長なんかずっと東経のOBがやってんじゃない? そういえば、社長が総理大臣やってたことあるかんね。石橋湛山ているでしょ。あの人、東洋経済の社長だったもんね。

 蛭子さんは、サラリーマンを15年くらいやってたの。酒屋の店員、バスの車掌、看板屋の見習い、測量手伝い、で、広告代理店の社員、ダスキンの営業マンとかね。
 サラリーマンの悲哀や辛さも一通りわかってんだよ。
 
 蛭子さん、酒飲めないんだ。サラリーマンの世界って、なにかというと酒でしょ? これが辛い。気が弱いから耐えるしかない。
 手を抜かないで愚直に働いたらしいよ。で、あの風貌だから、こいつは騙さないだろうって、成績も結構良かったらしい。

 蛭子さんの処世術は、「会社に自分の時間を上げること」。勤務時間は死んでる時間。自分の時間と引き替えに給料もらってる、と自覚してるわけ。だから、上司からガンガン怒鳴れなれようが、嫌みを言われようが、割り切って受けちゃう。
 これも達観してますわなぁ。

 サラリーマンてのは、植木等の時代からかなり奥が深いものなのよ。
 学生諸君の間では起業家ばやりなんだろうけどさ、サラリーマンも捨てたもんじゃないと思うよ。ホリエモンや折口さんとか見てると、「起業家になったらアイドルとつきあえるんだ」なんて軽く考えちゃうけど、ありゃ、起業家というより金力で「それなりの女」が吸い寄せられるだけのことであってね、「いい女」はちとちがうと思うな。

 日本は誠実なサラリーマンが機能してこその国であって、がりがり亡者の一部の起業家とか、社保庁職員のようないかに働かないかということばかり考えて定年まで冬眠してる公務員とかはどうでもいいわけ。
 ああいうがらくたのすべてサラリーマンが引き受けちゃうわけなんだよね。

 そういえば、昔、サラリーマン新党てのがあったよね。いまこそ、出番なんじゃないか。自民党も民主党も2代目、3代目か官僚OBばっかじゃん。
 いまこそ、サラリーマンによる、サラリーマンのための、サラリーマンの政治が必要なんじゃないかね。190円高。