2007年09月11日「指一本の執念が勝負を決める」 冨山和彦著 ファーストプレス 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 著者は産業再生機構の代表取締役専務兼COO。これは3年で解散し、現在、経営共創基盤を設立し代表取締役兼CEOに就任。

 司法試験に合格した後、司法修習所に入らず、ボストン・コンサルティングに入社。1年で辞めて、コーポレイトディレクションというコンサル会社の設立に参画。それから、カネボウやダイエー等々の再生プロジェクトで知られる産業再生機構をするわけね。

 元々、この機構は5年という予定でスタートしたものでした。ですから、前倒しで「使命」を果たしたとも言えます。
 この間、41件の事業再生支援をし、300億円以上納税し、最終利益から400億円が国庫納付される、という。

 まさに、会社というのはダメなヤツが経営してると腐るし、まともな経営者が舵取りすると蘇る、という実例ですな。

 さて、では、これはいろんな再生事例についてのエピソード満載の本?・・・というと全然ちがいます。リーダーに必要な心構え的な内容しか書かれてません。
 ですから、この人がいったいどんな会社で、どんな再建プランを提案し、どんな行動をしたのか・・・はほとんど伺いしれません。
 けど、熱い思いは十分、伝わってきます。最近、こと、マネジメント書に関するかぎり、事業体験談とかノウハウ話が多かったんで、ある意味、新鮮です。

 曰く、「リーダーに必要なのはストレス耐性と胆力だ」

 41社の企業グループを再建すると、いろんなものが見えてきます。
 「経営者の質が脆弱化している!」

 理由は? 平和ボケし、生活を脅かすような逆境を体験していないから。

 かつての大企業での出世の構造というのは、いわば、内向きの戦いに勝ち続けた人が昇進するというものだったのね。学歴競争から始まって、どんな会社(役所)に入るか、どんな部門に配属されるか、コースに乗ったら後は年功序列と終身雇用。

 これらはすべてトーナメント方式。甲子園の高校野球と同じ。いわば、サドンデス。一流大学に入れなかった時点で、一生、3Aなわけ。
 これ、たいした戦いじゃないのよ。
 
 これからはリーグ方式なの。何度も戦って勝つ。負けることもある。だが、工夫して勝つようにする。いわば、プロ野球方式。だけど、こういう戦いに勝つにはストレス耐性、胆力が問われるわけ。

 で、これが重要なファクターなのね。
「典型的なエリートほど耐性がなくて、現場から引き上げてもらった」とか。

 支援企業については、財務内容から経営状態まで調べます。
 支援した企業は41社ですけど、「健康診断」をした会社き100社。なんらかの打診があった会社は200社もあった。

 これらの会社はすべて病気なわけ。だから、「医師」としては処方箋ほ書かなきゃいけない。
 この処方箋を書き、金融機関と対象企業の経営者の両方からOKをもらったのが41社・・・しかなかったわけ。あとはすべて話だけに終わった。

 で、いちばん多かったのが経営者自ら支援依頼を断ったケース。
 「自分がいなくなると会社が大変なことになる」「環境が悪い」「銀行が悪い」「政府のせいだ」・・・。
 けど、現場で処方箋を書いているととてもとてもそうだとは思えない。当然ですよね。産業再生機構に持ち込まれてくる会社など重病人ですよ。
 けど、会社経営をめちゃくちゃにした経営者が、まだ、そのポジションにしがみついていたい・・・これが実態なのね。

 「経営にいちばん向いていない人が経営していた」
 たしかに・・・。

 ところで、著者は『会社は頭から腐る』(ダイヤモンド社)という本も出版してますけど、内容はほとんど同じ。ただし、『・・・腐る』は文章が硬くて読みにくいったらありゃしない。本書は語り口調だから読みやすいと思う。
 けど、ほぼ同時に出版するなら、内容、変えれば良かったのにね。250円高。