2007年11月14日「つばさよ つばさ」 浅田次郎著 小学館 1365円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 どうでもいいけど、こんなの読んじゃってていいんだろうか?

 12月に緊急出版する本をプロデュースしてまして、最終章を書き上げれば終わりというとこまてせ来た自分の本まで投げ出してかかりっきりになってるわけ。
 先月がいちばん忙しいと思ってたら、今月は3倍くらい忙しいですなぁ。
 版元と約束した企画、まだまだたくさんあるしなぁ・・・。賞味期限が切れたって、そっと混ぜて渡しちゃおうかな。船場吉兆、赤福のように。

 読書中毒(略して「毒書」)はあかんねぇ。ついつい本を手に取ってしまう。ついつい本屋さんに寄ってしまう。で、ついつい本を買ってしまう。
 ほんでもって、ついつい本を読んでしまう・・・やっぱり病気としか言いようがありませんな。

 けどね、これ、一服の清涼剤なわけよ。ああしんど、けど、毒書するとああ極楽極楽。やっぱ中毒だな。しゃぶ中、アル中、ぼく、本中。中山くんに君どうしてるかなぁ。

 さてと、これ、『オリヲン座からの招待状』(観たよ!えかったなぁ)の浅田先生の本です。といっても、エッセーね。
 「つばさよ つばさ」ってくらいだから、もしかして・・・夢の続きは・・・ジェットストリームか?と思ったら、全日空でした。

 機内誌に連載してたのを加筆修正したわけね。いいんだなぁ、これが。
 浅田先生、渡辺淳一さん、内舘牧子さんは原稿に手抜きしないから、読んでてハッピーなんだよ。これも期待を裏切りませんでした。

 旅先での一コマ、人とのふれ合い、感動、発見・・・そうそうあなたが旅で遭遇することぜ〜んぶ、浅田さんも同じように書いてるわけよ。
 そうそう、良かったね。ぼくもそんな経験したよ。とまぁ、追体験できるんだなぁ。こういうインナートリップがができることが毒書の醍醐味でもあるよね。

 浅田さんは子どもの頃から憧れの作家がいるんだよ。三島? 自衛隊にいたから? 谷崎? いいよね、あの哀しいとも表現できるエロはいいね。耽美主義と言う言葉は傑作だよな。
 ジョルジュ・バタイユ? いいよなあ。

 けど、ちがうの。川端康成! どこが? 「旅先作家」だったから。

 彼の憧れはペン1つもって旅先で原稿を書いては、次々に旅を続けていくというもの。早い話が「1人途中下車の旅 作家編」みたいなもんか?
 でも、実際は編集者にホテルに閉じこめられ、原稿書け書けと叱咤され・・・まっ黙っていても書いちゃう人だからこんなことはないけど。いわゆる、なんの予定もなく行き当たりばったりの旅はなかなかできないわけさ。

 スケジュールも仕事もきっちり決められてることが、当初描いていた「旅先作家」とはちとちがうわけさ。
 
 けど、それはそれとして、旅に出れば人に出会う、景色にも出会う。目に見えないことにも出会う。でしょ? それが浅田さんのフィルターを通して描かれている。浅田さんの染みいるような文章で書かれてる。
 これが付加価値でもあるわけさ。

 構成もいいよ。自宅から羽田、成田。それからいろんな国に旅立つという物語。
 なんちゅうか、『深夜特急』とはちがう、大人というか、余裕というか、再確認というか、受容というか、なんかそんなものを強く感じられるんだよね。
 『深夜』は、旅とはいいながら本質は「自分との闘い」だったでしょ? それが若者の旅の特権だと思うんだよ。『何でも見てやろう』(小田実さん)もそうだったしね。

 本書はあんなにがむしゃらになにかを求めていくわけじゃないんだ。求めたってそこにあるなんて保証もないし、確信もないし、実は期待もないんだよ。たまたま触れてみたら、優しくほんの少し反応があった。それを掬い取っているような感覚なんだよね。

 エッセーを紹介するほど野暮なことってないね。他人の感想聞いたってなんの役にも立ちやしない。
 読まなくちゃ! 260円高。中島孝志の毒書倶楽部、ただいま会員募集中! よろぴこ。