2007年11月20日「波乱の時代」 アラン・グリーンスパン著  日本経済新聞出版社 2100円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

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 さてさて、「波乱の時代」とはよくつけましたな。
 たしかに、不確実性の時代というよりもっと確実に波乱が待ち受けている、というか、すでに突っ込んでしまった現在、ぴったんこのタイトルかもしれません。

 しかしグリーンスパンが、ジュリアード音楽院の出身で元プロのクラリネット吹きでサックス奏者で・・・ということは知りませんでしたね。
 経済学を勉強するために大学に入るのは、音楽の後なのね。
 楽団でも税務申告とか担当してたし、労働組合の関係で40分演奏した後は20分の休憩がもらえるわけ。ほかのミュージシャンが煙草吸ってる間に、彼は金融の本を読んでたくらいだもんね。でも、まさかFRB議長になるとはだれも想像しなかったと思うよ。

 天才グリーンスパンと奇しくも考えが一致していたことを知り、欣喜雀躍。それは世界経済にとって最大のイベントは「冷戦の終結」だ、ということ。
 この時からなのよ。西側にも東側にも革命が起こったのは。たんに壁は崩れただけの話ではないわけ。

 西側にとって、まずそこそこの教養を持った豊富で安価な労働人口がドカンと手に入ったこと。こうなったら、より安い製品がいままで以上にたくさん作れますよね。これが製品単価に反映されないわけがない。
 労賃の高い国内からこれらの国々へ工場が移るのは当然ですよ。

 私は同様の理由で、今後、北朝鮮が日本や韓国の工場として中国を凌駕すると考えています。中国から西側の工場が消えます。だって、この前述べたように北朝鮮の人民のほうが手先は数十倍も器用だし、勤勉だし、ハングリーだしね。

 いま、中国では労賃がどんどん高騰してます。汚職と賄賂の世界だから、契約書も当てにはならない。外国企業にとって、こんなにリスク高い国はないのよ。いま、安い労働力と底なしの消費人口だけが魅力で進出してるだけのことだからさ。
 西側と国交が回復したら、北朝鮮は中国が歩んできた道をそっくりなぞると思いますよ。中国だって、かつての韓国、さらにいえば、かつての日本が来た道をトレースしてきたわけだから。

 中国はそれがわかっているから、中東産油国のように金融国家(世界の金貸し)として生きていかざるをえなくなるわけ。
 だって、あそこに作らせたらインチキ商品、汚染商品、有害商品のオンパレードで、ミートホープや船場吉兆どころの話ではありませんもの。

 壁がなくなるということは、人口流動化が激化するということ。移民、出稼ぎも増えます。瞬間風速で先進国の労働人口が激減した(失業)のもここに理由があんだろうね。

 東側からしてみれば、計画経済の限界を思い知り、一斉に資本主義に傾きましたもんね。いまだに旗を掲げているのはキューバと北朝鮮? 中国は78年から資本主義に片足つっこみ、冷戦終結を確認
するや、アクセルを踏み込んでますよ。
 
 まっ、18年間にわたって、「通貨の番人=司令塔」として活躍してきた人です。よく見てます。あの事件の裏にはこういうことがあったんだと総括してくれてますから、日本と世界経済を整理するにも便利ですなぁ。

 韓国経済がIMFの支配下に入り、ソロスたちによってタイ経済が破綻させられ、1997年は東アジアの多くの国が金融危機に陥るなど、大変な状況にありました。日本もバブル崩壊で不景気のどん底でしたね。
 それがわずか10年で復活。

 理由は? 固定為替相場制を放棄したこと。

 たしかに。それまではキャリートレードで安易にどんどん外貨を借り入れ、ヘッジせずに固定相場で自国通貨に換える。国内の高い金利で貸し出す。しばらくの間は利益も上がっていたけど、結局、デフォルトでお金が返ってこなかった。

 いま、アラブ首長国連邦の首脳がドルペグ制をやめようか、湾岸会議で話し合うと述べているのは、このことですね。中国の場合は、元安にしておきたいので、ぎりぎりまでドルペグにしとくだろうなぁ。
 国内はインチキしてでも押さえ込めるもんね。

 すべてのビジネスパースン必読の書。翻訳書って、文章がこなれてない本が多くて大嫌いなの。
 けど、これはいい。翻訳が巧い。いや、グリーンスパンの文章が明晰なのかもしれません。300円高。