2007年12月06日「国家と人生」 佐藤優・竹村健一著 太陽企画出版 1680円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 雑誌の年末進行の上に新聞連載まで抱えて、おおわらわでげす。
 忙しいということはそれだけ座敷がかかるということで、「活字芸者」としてはこんなに嬉しいことはありません・・・とでも考えなければやりきれません。
 おかげで、松の内が終わるまで週1冊ずつ締切を迎えることに相成りました。トホホ。

 さて、情報通のキーパースン2人による対談本です。帯コピーにある通り、内容は諜報活動、ブッシュ、プーチン、キッシンジャー、胡錦涛、憲法、宗教、沖縄といった政治経済問題から読書法等々にいたるまで、博覧強記の情報空中戦が展開されてます。

 佐藤さん、母上が沖縄の久米島出身だったんですなぁ。
 好きですよ、久米仙酒造。

 久米島の町長さんは自衛隊の出身。地元の酒蔵の跡取りでもあり、この点、島民にはアレルギーはないようですな。
 で、泡盛だけじゃなくて、注目すべきは行政改革のモデルなのよ。国会議員のセンセ方はわざわざニュージーランドにまで遠征して勉強したらしいけど、ここに来ればよかったの。

 赤字自治体を再建するために、100億円の予算を60億円まで削減。それでも足りない。50億円にまでしないと循環型社会にはならない。で、36人の職員を18人にリストラした。これをさらに14人にする方針なのね。
 で、いま、年功序列の役場職員に対して、降格願いを集めてるわけ。
 降格すると給料は減るけど勤務時間も責任も少なくなる。後の時間は好きに使え、というわけ。元もと、そんなに大きな仕事してないから高給なんてナンセンスなの。町長自身、15%の給料カットしてるくらいだもんね。
 率先垂範がいちばんの行革なんだな。

 沖縄というと、反米活動と連想しがちだよね。テレビでも基地反対に何万人もの集会があった、と報道されることが多いからね。
 けど、日本中、いや世界中、基地だけじゃなくて、原発とか廃廃処理場が地元に来ることに賛成の人なんていないでしょ。反対するに決まってる。
 それと沖縄の人が反米であることは関係ない。というより、反米じゃない。基地については嫌悪感があるけど、アメリカについては是々非々で判断するというのが沖縄のスタンス。

 彼らが一致するのは「沖縄同胞主義」ね。沖縄県民共通の利益については阿吽の呼吸でまとまるわけ。

 しかも、意外と戦略家で、ペリーが来航したとき、日米和親条約を結んだ。その帰りに琉米和親条約も結ばれてるのよ。
 この時、ペリーは琉球王国の連中はウソばかりつく、とカンカンに怒ってます。というのは、どんな質問をしても適当な回答しかしなかった。砂糖は? たいしてとれません。 日本との関係は? さぁ、あまりよくわかりません。
 のらりくらりとかわす理由は、琉球を侵略したってなんのメリットもないよとアメリカに悟らせるためね。

 しかたなくペリーは帰国するんだけど、沖縄の測量だけはきっちりやって帰った。これが太平洋戦争の沖縄戦で役に立つわけ。米軍が嘉手納湾にあっという間に上陸できたのはベリーの地図があったからなのよ。

 さて、昔、ロシアにグロムイコという外務大臣がいました。なんでもノーとしか言わないから、「ミスター・ニエット」と呼ばれた人。
 彼が熱烈に尊敬してたのが、なんと昭和天皇。エリツィンもプーチンも皇室には畏敬の念を強く持ってます。エリツィンは天皇の前で、日本人のシベリア抑留について謝罪してますしね。

 ロシア人は革命の最中にロマノフ王朝一族をエカテリンブルクで処刑したことを後悔してるんです。
 後にこの地で知事になったのがエリツィン。処刑場を駐車場に変えます。それでもニコライの幽霊が出る、という噂が出始めた。
 そこでソ連時代の末期に発見されたニコライ2世一家の遺骨をDNA鑑定することになった。この時、採用されたのが大津事件の遺留品だったハンカチ。

 大津事件というのは、先日、NHKの「その時歴史は動いた」でもやってましたけど、明治中期、滋賀県の大津で津田三蔵巡査が皇太子時代のニコライ2世を斬りつけ、外交問題へと発展した事件のこと。この時、血をぬぐったハンカチなのね。
 鑑定の結果はピタリと一致。それで丁重に霊を弔うわけです。

「ヨーロッパにいま幽霊が出る」と書いたのはエンゲルスだけど、まさか、ソ連でニコライ2世の幽霊が出たなんて皮肉なもんですな。
 
 300ページに近い本ですけど、豊潤なインテリジェンスで酔えると思う。好奇心がそそられる1冊です。250円高。