2001年11月12日「オー・マイ・ガァッ!」「ゴルゴ13の仕事術」「DV」
1 「オー・マイ・ガァッ!」
浅田次郎著 毎日新聞社 1700円
完璧なエンタテイメント小説です。
おもしろかったなぁ。500ページがあっという間でしたよ。それもそのはず、ストーリーはたった3日間の出来事を描いたものなんです。
でも、そこは浅田ワールドです。予想もできない展開とラストのどんでん返し、そしてみんなハッピー。予定調和は百も承知だけれども、嬉々として騙されたいモードに引きづりこまれますよ。
舞台はラスベガス。そこに「クスブリ」が3人集まってきます。1人は大前剛(英語で発音すれば「オー・マイ・ガァッ」って読めるでしょ)。社長にトンずらされた倒産会社の専務、と言えば、まっ追い込みかけられて夜逃げしてきたってわかりますわな。
2人めは梶野理沙。カジノっていうのがいいでしょ。元OL。入社10年の長期休暇でやってきたまま、錯覚してベガスに居着いちゃったわけ。で、いまや売春婦。最後の1人は元ベトナム戦争の英雄。シルバースターを持ってるリトル=ジョン。
このクスブリ3人がどういうわけか、なんの因果か、ガラガラの10$スロットマシンに隣り合わせ、なんの因果か、3人で当てちゃったわけです。ジャックスポットの大当たりを。
ジャックスポットはいまや、5400万$まで跳ね上がってます。
さて、この賞金をめぐって繰り広げられる一騒動。
まっ、読んでみてよ。ベガスに行ったことのない人でも、いま、ここでギャンブルを楽しんでる自分を発見できますし、ベガスの歴史からホテルのいろいろまで、ちょっとしたミニ知識をゲットできますよ。
わたしは昔、ウォーレン・ビーティ(シャーリー・マクレーンの弟)主演の映画「バグジー」を観てましたから、よけいおもしろく読めました。そういえば、大前剛が逃げられた女の名前がシャーリーっていってたけど、これ、ここからつけたんだね。
250円高。
2 「ゴルゴ13の仕事術」
漆田公一著 祥伝社 1500円
ゴルゴ13って知ってますよね。「ビッグコミック」に連載されたさいとう・たかをのマンガですよ。
主人公はなぞの東洋人デューク東郷。通称ゴルゴ13。
で、本書はそんなゴルゴを「完璧な仕事師」としてとらえ、ビジネス書にしたってわけです。
企画としてはおもしろいね。残念なのは、タイミングです。これ、「ウルトラマン研究序説」やサザエ本の時代に出してたら、ベストセラー間違いなしだったかも。いま、不景気でしょ。その手の本て受けないんだよね。
ちょっとだけ中身を紹介してみましょうか。
ゴルゴはどんな重要人物にも自分のルールに従わせます。絶対に妥協しません。また、二度と顧客に会いません。会うのは仕事の依頼を受けるときだけなんですね。
これがビジネスマンと比較すると、秀才、凡才、バカでそれぞれ対応が違います。秀才は顧客が満足する仕事をしようとします。だから、100パーセント応えられるように下準備します。顧客の個人データまで調べようとして、墓穴を掘ったりするんです。
これが凡才だと、顧客の顔色を見て仕事しちゃうんです。で、バカはそもそも顧客に関心がない。
ステレオタイプに分けちゃってますが、まぁおもしろいでしょ。えっ、おもしろくない?
それは人の勝手ですけど。
ゴルゴは顧客に報告しません。報告するときには大事件になってますから、言わなくてもわかりますもんね。それに彼の哲学には完璧にやるから、その方法、時期などはすべてオレが決める。他人にはなにも言わせないんです。
もちろん、締め切りなんかありません(羨ましいな、おい)。
これがバカなビジネスマンになると、中間報告すべきときにしない。めんど臭がってるわけではなくて、その重要性を認識してないの。
でもね、仕事ってのはすべてに意味があるんですよねぇ。それを重大なものだと認識してるか、認識してないかで、結果まで変わって来ちゃうんですよ(今度、このコンセプトで1冊書きます)。
さて、ゴルゴとわたしの共通点が1つだけありました。
それはすべてが前金だということです。
ちょっと舞台裏を話しちゃうんだけど、わたしの仕事はすべて前金制なんです。
たとえば、顧問契約。これは1年分前金です。それから、雑誌の連載。これも契約月まで一括前払いです。講演料。これも講演前日、あるいは当日までに振り込んでもらってます。
単行本だけはそうはいかなくて(部数が決定しないから)、出版社ごとに契約通りにしてます。前借りにしておいて後日精算という手もありますが、単行本の世界は締め切りがずれる可能性がありますでしょ。そうすると、仕事が溜まっちゃって四苦八苦することになりそうだもんね。
こういう思いは夏休みの宿題だけで終わりにしたいんです。
ただ、前金に対する哲学がゴルゴとわたしとでは異なります。
ゴルゴは意識的にハードルを高くして、相手の真意を読んでるんですね。しかも、わたしとは金額がまぁーーったく違いますからね。ですから、仕事に見合った額を要求するわけじゃないんです。
クライアントがどれだけ真剣なのかを見極めるためにしてるんですね。
わたしもそうです。いや、ウソです。わたしの場合は顧問先が倒産しても、「あっ、そう」の一言で済ませたいからです(なんて勝手なヤツなんだぁ)。それとこれが大きいんですが、最初に宣言してるんですよ。
「一年経ってなんの効果もないなら、騙されたと思って諦めてください」って。「でも、毎月の指導分だけでも軽く20倍の価値はありますよ」ってね。
なんかゴルゴみたいだな。でも、そうなんです。ですから、わたしに顧問を依頼するのはすべて口コミなんですよ。
「えっ、中島さん。経営コンサルタントが本業なの?」
そうなんです。
150円。
3 「DV」
豊田正義著 光文社新書 680円
DVっていったって、デジタルビデオのことではありません。これね。「ドメスティック・バイオレンス」の略なの。
「なんか大藪春彦?」って感じがするんだけど。違うのね。
たまたま、本日付けの朝日新聞に「内閣府DV調査」ってのが載ってて、「夫婦間の家庭内暴力(これがDVなわけ)」のデータが発表されました。データ数(62人)は少ないんだけど、これによると、被害女性(まっ、女性だけじゃないと思うけど)の平均年齢は41・2歳。
で、50人以上が「足で蹴られた」「ものを投げつけられた」「ゲンコで殴られた」って答えてます。「首を絞められた」ってのも半数以上(37人)ですよ。
でね、「そんなに大変なら逃げればいいんじゃない」って思うでしょ。でも、実際は逃げないんです。逃げられないんです。これは最初が肝心で、加害者、被害者ともに習慣化するとお互いに感覚が麻痺すると思うんですよ。
人間てのは都合が悪いことはいい方に解釈する方便を知ってますからね。いつも殴られるていても、「いや、あの人も辛いんだ。だって、殴り終わると冷静になって、涙を流して謝るもの。だから、ここはわたしが我慢してあの人の病気を治してあげなくちゃ」なんて、ナイチンゲールか賀来千賀子になっちゃうわけ。女って悲劇のヒロインになるの好きだもんね。
これは大間違いです。いい大人で分別の無いのはどんなに頑張ってもダメ。お互いに幸福なのはプロの問題解決人を交えて取り組むことですよ。それは弁護士とかカウンセラーとか医者とかね。ときには警察もいいでしょうし、実家の親も巻き込んで社会的に取り組むことです。
社会的というのは個人的と対比する概念であって、具体的にはそういうことですよ。でないと、いつまで経っても心身ともに辛いだけで成果はあがりません。
ズバリ、DVは加害者の潜在意識に問題が内在されてます。これは本書のルポライターは言及してませんが、わたしはそう思うんです。
ですから、この本で某団体がDV加害者のグループワークの中で、相手(つまり奥さん)の身になって自分(加害者本人)を振り返る方法を導入して成果を上げた、とさらりと書いてます。これって、実は内観療法なんですね。アメリカではインサイト・ラーニングって言ってますが、同じことです。もっと歴史を振り返れば、親鸞上人「身調べの法」という苦行ですよ。
ちょっと前置きが長くなりましたが、中身に入ります。
まぁ、いろいろ出てきますよ。加害者側はほとんどが確信犯。で、わずかに「相手が悪い」と主張する人がいます。被害者側も「ずっと耐えて忍ぶ」というような女郎タイプから「離婚」「別居」タイプまでいろいろです。
どれだけ酷いか。
些細なことにキレて、妻をゲンコでボコボコにしながら、「お前なんか、早く死んでしまえ」ってありとあらゆる罵詈雑言を浴びせるんです。で、すっきりする。まったく心身ともにサンドバッグ状態ですよ。人間サンドバッグ。ホントに些細なことでキレるんです。
「あぁ、幼児虐待だけじゃないんだな」って思いました。
何人ものケースが出てきます。
彼らに共通することは、「親子関係まで遡らないといけない」ってことです。
夫婦間の暴力、そしておそらく幼児虐待についても、人間が生まれていちばん影響を受ける社会。しかも社会の最小単位である「家庭」「親子関係」にメスを入れないと問題の本質が浮かび上がらないし、解決方法も出てこないんです。
DVは人間が抑圧され、それが解放に向かうプロセスで発生してるんだ、と思うのです。ですから、本人は瞬間的にはさっぱりする。でも、本質的な問題解決になってないから反復性があるわけです。これは「いじめ問題」も同じ構図だと思いますよ。
それだけに親子関係が健全でなければ、あとあとにものすごい影響を残すんです。日本が崩れつつありますが、本格的に崩れるとしたら、その原因は不況だとか、不良外国人の増大だとかではなく、この親子関係が崩壊したときでしょうね。
250円高。