2008年03月12日「リアリズムの宿」 つげ義春著 双葉社 860円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 「ゲンセンカン主人」よりもこちらのほうが好きかな。
 漫画家つげ義春さんの作品ですね。

 けどさ、この人の漫画って映画化されてますよねぇ。『ゲンセンカン主人』『ねじ式』『無能の人』『蒸発旅日記』だったっけかな。

 全部、渋谷の小さな映画で観てるんだけど、記憶にないんですよ。たぶん、好みじゃないんだろうね、映画化された作品は・・・。

 漫画のほうがインパクトがあるのは、あの絵のせいでしょうな。それと、アタマの中でイメージする妄想力。これがちがうわな。

 タイトルにもなってる「リアリズムの宿」ってのは、変にリアリズムがあって我慢できないことってあるでしょ? ない?

 東北の鰺ヶ沢での出来事。漫画のネタにするために、商人宿をテーマにすることを思いつくわけ。

 で、メシ屋で商人宿を聞くんだよ。2軒教えてもらうのね。
 1軒はすぐに見つかったけど、ちょっとうるさくて×。次の宿エビス屋は?
 ・・・探すんだけど見つからない。通りすがりの子供に聞くんだけど、「わがんネ」のひと言。

 あまりの寒さに古びた民家が「宿」という看板を出している。そこの玄関を入るんだけど、これがひどい。あまりにもリアル過ぎるわけ。
 いきなり、民宿の家族がいる。しかも、主人は咳き込んでばかり。奥さんは貧乏くさい。小さな子供は泣き叫んでいる。年寄りは寝たきり・・・。すぐに玄関を閉めればよかったけど、そこはつげ義春。

 この人、極度の赤面恐怖症ですから、そのまま立ちすくんでしまった。

 貧乏神のような奥さんとしては、このお客を逃してはならない。だから、風呂つけました。サービスしますから。
 ところが、そんなものはない。靴を隠され、泊まるはめに。

 あまりに粗末な食事。風呂は家族が入ったあとでドロドロ。見たとたんに入るのをやめた。
 
 そこに先ほどのの通りすがりの子供。この家の子供だったのか・・・。

 「きみ、エビス屋を知らないといったね?」
 「おらんちはモリタ屋だ」

 早合点だった。メシ屋のそばにあったのだ。

 こういうリアリズム、私にも経験があります。あまりにリアルすぎると、フレーズしてしまいます。頭も身体もね。たぶん、私も同じだったと思う。
 そして、震えながら薄い布団にくるまって寝たと思う。

 あと、「庶民御宿」もいいなぁ。これ、なかなか妊娠できない夫婦から子種を頼まれる男の話。
 羨ましい? そういう方はこれを読んでからにしてちょうだい。

 11の短編。「ゲンセンカン主人」は12作。味わいのある漫画です。個性の塊ですな。250円。