2008年04月01日「スーチー女史は善人か」 高山正之著 新潮社 1470円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 エイプリルフールですね。いったいどんな嘘をついてやろうかと考えましたけど、根っからの正直者でとてもとても嘘など書けません。
 似合わないことはやめて、痛快な1冊をご紹介しましょう。

 ハッとする文章があります。文章がハッとするわけじゃなく、内容がハッとするわけですけどね。
 高山さんの文章がまさにそう。視点がちがうからハッとするのか、いえいえ、真実がハッとするんです。

「えっ、なになに、それ、ホント!?」
「ちいとも知りませんでした」
「やっぱりねぇ。どうもおかしいと思ったんだよ」

 彼の文章を読むと、ついついこんな気持ちにさせられてしまいますね。

 『サダム・フセインは偉かった』に続く第2弾。週刊新潮に連載中の「変見自在」をまとめたものですな。サブが「本物の悪党は誰だ!?」。

 たしかにねぇ。ホンモノの悪党ちゅうのは善人面してるからわかんないのよ。見るからに胡散臭くてインチキっぽければいいんだけど、うま〜く化粧してますからね。
 で、宣伝やPR、マスコミへのアピールは人一倍巧いときてる。こりゃボーッとしてるとだまされちゃうな。

 たとえば、アウンサン・スーチー女史。ミャンマー(ビルマ)で軍事政権に軟禁されてると報道されてますね。自由が奪われているとか。
 で、現軍事政権はめちゃ悪者だとか。日本人カメラマンも殺されたからね。権力者の娘の結婚披露宴に無駄遣いしてるとか、政権の腐敗堕落が報道されています。

 元々、ビルマは仏教を信じる単一民族、単一宗教の国でした。
 19世紀に、やっぱりこれも英国がやってきて、大量のインド人と華僑を入れます。
 この連中を入れたらどうなるかおわかりでしょう? あっという間に経済を牛耳られちゃった。で、次に英国は周辺の山岳民族を山からおろしてキリスト教に改宗させ、警察と軍隊を編成させます。

 つまり、英国は元々のビルマ人をたんなる農奴に落としちゃったわけ。

 第2次大戦後、ビルマはビルマ人のための国作りに目覚めます。日本が列強を叩いて、結果として英国から解放することになったからね。
 ネ・ウィンは鎖国と徳政令、デノミを展開します。そのため、ビルマは最貧国に転落。なんの甘みもないからインド人と華僑はさっさと出て行きます。

 「植民地支配」に対する愚痴や怒りをだれにぶつけることもなく、沈黙の民族ビルマ人は堪え忍ぶわけです。性格的には日本人気質ですな。

 「これらの努力をすべてぶちこわしているのがスーチーだ」と著者は指摘しています。

 スーチーさんの旦那が英国情報部に勤務し、当然、彼女が英国べったりだとは私も知ってましたけどね。20年も軟禁? 彼女のご自宅、隣はアメリカ大使館ですよ。
 ふ〜ん、そんな関係なのか。そういう人なんだ。だれの利益を代弁しているかが透けて見えますな。

 日本の新聞、雑誌、テレビなどはとくにそうですけど、ある意味、「偏向」していることは事実です。この著書も「偏向」してるかもしれません。
 でもね、フッサールが指摘するように、人間ちゅうのは「事実」ではなく、「事実をどう解釈するか」という世界に生きてるわけ。司馬遼太郎さんはそれを「酔っぱらう」と表現したけどね。
 つまり、どの意見、視点、解釈を選択し採用するか・・・これが人の思想を作りますね。かつて、「マルクスが最高だ!」と酔っぱらった人がいたじゃないですか。まだ、酔いから醒めてない人もいるけどね。

 大切なことは、1つの意見で判断しないこと。大本営発表の報道や、どのチャネルをチェックしても同じ内容のテレビ(ニュースやワイドショー)・・・等の報道はそもそも「偏向」してるんだ。だから、セカンドオピニオンもチェックしてみよう、と考えること。
 セカンドオピニオンが大切なのは医療だけじゃないのよ。

 まさしく目から鱗の1冊。300円高。