2008年05月15日「やっぱり危ない!中国ビジネスの罠」 範 云涛著 講談社

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

 著者は上海複旦大学で日本語を学んだ後、京大に留学すんのね。
 で、指導教授の高坂正堯先生から、「君くらい日本語が巧いなら、なにも中国政治関係の研究をやらなくてもよろしい。むしろ、戦後日本の政治や外交、行政、法律についてやな、とことんまで深く実証研究をやって、博士号を取得して一人前の学者になってほしい」といわれたわけ。
 
 あまりピンとこなかったらしいけど、高坂さんが言いたかったことは、あまり日本の実情も知らんと憎悪と偏見、偏狭な視野と思いこみで攻撃するアホがおるさかい、あんさん、きちんと勉強して正しいことを伝えてぇな・・・ちゅうことやないかな。

 で、博士号取得後、中国弁護士のライセンスをとって、日本のあまたの法律事務所で経験後、上海に戻って、いまや、日系企業のトラブルバスターとして活躍してる人です。

 けど、本書には色仕掛け。つまり、中国お得意のハニートラップね。バカな政治家はすぐに引っかかっちゃう。そういえば、某総理経験者にもこの手の噂が絶えませんでしたな。
 ビジネスマンから政治家まで、「これは!」と目をつけられたら最後。罠をかけて待ち受けてますからね。とても逃れられるわけではありません。
 女(男の場合も?)と遊んだかどうかという事実ではなく、そう推定されるようにもっていくわけ。これが巧い。

 どうして、そんなに巧いの? もち、あの悪名高い公安警察が絵を描いてるからですよね。
 で、交換条件を持ち出すわけ。本書でも紹介されてますけど、「もう1億円、出資してもらえないか?」なんてね。これ、日本を代表する企業にお勤めの技術者が脅迫されたケース。

 たぶん、政治家も同じようにやられたと思うんだよね。
 「ODAストップしたら、これ、ばらまくアルネ。センセの政治生命、終わりネ」
 当然、マスコミにも食指をのばしてるでしょうな。そういえば、中国よりの偏向報道がたくさん見受けられるマスメディアがありますけど、たぶんね・・・申し送り事項になってるかもしれませんな。

 先頃、中国駐在の外務省職員が自殺しましたね。ハニートラップをタネに恐喝されたけれども、ニッポンの国益を守るために自死したわけですね。この方は「武士」です。

 中国という国にも国益があります。で、そのために情報収集を展開してるわけです。いわゆる、インテリジェンス活動です。

 かつて、戦前の日本では高度なインテリジェンス活動を展開していましたが(昔、陸軍中野学校教官をしていた人からいろいろ伺ったことがあります)、戦後、牙を抜かれただけかと思っていたら、いつの間にか骨まで抜かれてしまっていたらしく、外務省など、いったい日本の役人なのか中国の犬なのかわからない人がいる・・・らしいですよ。

 本書では政治関係は無し。ビジネス上のトラブルに限定して、しかし、具体的に紹介しています。
 お互い、一応、アジア人なんで、どことなく顔が似てますから、ついつい油断してしまうんでしょうが、中国には中国の、日本には日本の習慣というものがあります。つまり、これをやったら失礼に当たる、喧嘩になってもおかしくない、というポイントがあるんですよ。
 にもかかわらず、情報不足、不勉強、つまり、無知のために、いたずらにトラブルを引き起こしてることが少なくありません。

 たとえば、ビンゴの景品に「高級石けん」を用意した。そしたら、日本人幹部に中国人女性がビンゴを止めて全員帰宅してしまった。
 なぜか? 中国では、どんなに高い石けんをプレゼントしようが、「あなたは臭い。これで洗え」という意味なんですね。 
 時計(腕時計は別)もそう。「臨終です」という発音と同じで縁起か悪いプレゼントなの。フルーツでは梨がダメ。いいのはミカン、リンゴ、バナナ、スイカ、ブドウ。
 早い話が、この程度のトラブルなんて、日本人が勝手にやらないで現地スタッフに意見を聞けばすむ話。

 似たような顔してるけど、全然違うの。中国人はいい意味で個人主義が徹底しています。結婚したって、女性が男性の姓を名乗るわけではありません(元号もとうにありません)。日本人が思っているよりずっとアジアンテイストからは遠い。
 中国とのつきあい方のポイントは、期待せず、近道をとらず、油断せず・・・じゃないかしらん。200円高。