2008年06月16日「RURIKO」 林真理子著 角川書店 1575円

カテゴリー中島孝志の通勤快読 年3000冊の毒書王」

「裕ちゃん、好き、ずっと前から好き。本当に好き。私はずっと裕ちゃんだけなの」
 日活の食堂で会ったときに一目惚れ。まだ16歳だもん、裕ちゃんは子ども扱いしてたけど、RURIKOはこの時からずっと好きだったんだ。

 小林旭(敬称略、以下同)、蔵原惟繕、和田浩治、某テレビプロデューサー・・・いろんな男と浮き名を流しても、心の中にはずっと裕ちゃんしかいなかったんだ。

 RURIKOの父親は満州国大臣の秘書官。東亜同文書院と中央大学の後、大蔵省入り。芸者の子として生まれたために、過剰なくらい堅い仕事に就いてしまった。 
 「支那で働きたい」という気持ちが高じて満州に来たわけだ。いまでいうなら超イケメンで、いつも娘を連れて満州映画に入り浸り。
「この子を女優にしてください。将来、私にください」
 当時、5歳だったRURIKOの目を見た満映理事長、甘粕正彦は唸ったという。

 満州から引き上げると、中原淳一(画家)の映画オーディションに3000人の中から選ばれて日活入り。役名をそのまま芸名に。これが女優浅丘ルリ子の誕生ということになりますな。

 年譜をチェックすると、彼女の映画、ほとんど観てますね。ということは、裕ちゃん、小林旭の映画も観てるということか。
 でも、いちばん好きなのは「戦争と人間」(日活・山本薩夫監督)の伍代由紀子役だな。プライドが高くて、激情と情念がほとばしって、一途で正直。大陸まで好きな男を追ってくる・・・そういう女性ね。
 この映画の時って、彼女まだ29歳。ゴージャスそのもの。

 そうなのよ、RURIKOってほかの女優からは醸し出されないゴージャスさがあんだ。そういえば、「ジャイアンツ」のエリザベス・テーラーもゴージャスだったけど、あの映画を撮ったのは24歳の時(ジミーは22歳だった)。


いちばん好きな女優ですな。

「女優ってのは顔立ちじゃないの。スクリーンていうとてつもなく大きなものの中で、目がどれだけ強く、どれだけ光るかっていうことよ。そこへいくと、この信子(RURIKO本名)ちゃんの目はすごいもの」
 これ、北原三枝がRURIKOとはじめて会った時の言葉。
 
 RURIKOは運が良くて運が悪い。
 運が良かったのは、裕ちゃん、アキラという日活全盛期の2大スターと共演できたこと。
 悪かったことは、彼らとの共演が続いて、女優としての開花が遅れたこと。日活は吉永小百合が登場するまでヒーローの時代だったからね。

 それにしても、裕ちゃんの人気は凄まじかったよなあ。日本の映画界の勢力地図が変わっちゃったもの。
「太陽の季節」「狂った果実」で日活ぶっちぎり。で、憧れの北原三枝と共演以来、裕ちゃんはおおっぴらに交際しちゃう。
「大人の女」にほど遠かったRURIKOはここでも運が悪かった。

 けど、裕ちゃんが結婚する頃には子どもから大人になっていたRURIKOに相手役が回ってくるわけ。しかもそれが大爆発。
 いまのナベプロの創業者夫婦をモデルにした「嵐を呼ぶ男」で裕ちゃん人気は不動のもの。その後、アキラの渡り鳥シリーズがブレイク。

 「南国土佐を後にして」という映画共演で、RURIKOは大好きな裕ちゃんではなくアキラと結ばれるわけね。

 それにしても、裕ちゃんというのは凄い男ですな。日活を飛び出して独立。膨大な借金を抱えながら、三船プロと一緒に「黒部の太陽」を制作しちゃうんだからね。
 これ、DVDもビデオもないんだよ。「映画として観て欲しい」という裕ちゃんの遺言ね。

 だから、私、監督をやった熊井啓の制作日記みたいな本と、原作となった信濃毎日新聞の記者の本しか持ってないんだよね。映画はたま〜に公民館とかでやってるんだけど、いつも放映後に気づく。ホント、タイミングが悪いんだ。

 映画が斜陽になっても、裕ちゃんはテレビ制作でも活躍。
 RURIKOも日活をフリーになってから、石原プロに所属すんの。

 そうそう、RURIKOは結局、石坂浩二と結婚したんだ。けど、ほとんど別居生活だったらしいね。
 2人きりの時でもテーブルセッティングをきちんとし、ナプキンにカトラリーを並べていく。食事の時は正装して音楽、美術、演劇などのお話。どこかで、こんなことは長くは続かないという予感があったらしいね。
 たしかに、レクチャーと美食とシャンパンで成り立つような生活は現実離れしてるわな。

 ドラマ共演で知り合ったのね。で、愛を告白する詩をもらったりしてさ。この一途さが新鮮だったんじゃないかな。

 いい女が男にいちばん求めるものは「新鮮さ」だからね。
 新鮮さという意味は、2つあって、自分にはない新鮮さ。いままでの男たちにはない新鮮さ。彼はこの2つの意味で合格。RURIKOがいままで付き合ってきた男たちでは、せいぜい映画監督の蔵原が近いタイプかな。
 16歳で日活入りしたRURIKOにとって、いろんな知識を教えてくれる男は新鮮だったと思う。

 けど、裕ちゃんなら・・・同じ慶応卒だけど教養をひけらかすようなことはしない。だって恥ずかしいもん。だから、RURIKOはいつも聞いてあげてた。
 RURIKOはどんな男と出会っても、恋はするんだろうけど、どこかで裕ちゃんと比較してる自分に気づいてたんじゃないかな。

 裕ちゃん、アキラ、美空ひばり・・・ほかに脇役としてたくさんの男たちが登場。真ん中に大きな瑠璃の花一輪。250円高。